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【五章】仙人と魔物

二十三話*

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「リヴァロ? 時間だよ~」


 扉越しにエダムの声が聞こえ、リヴァロの動きが止まった。助かった。
 ルービンは人魔でもない普通の人間の肉体なのでルーシャンの時と比べ物にならないくらい消耗する。ルービンの姿だと一人相手にするのが限界だな。


「ありがと! すぐ戻る!」


 なんでもないような声でリヴァロは返事をしたが、腰の動きを再開した。


「ンッ」
「ごめん、もう少し……最後までイかせて」


 小声で囁くリヴァロに余裕は無い。蕩けきった俺の中がそれだけで快感を示し、身体が震える。中途半端に終わらせるのはあまりにも可哀想だし、俺だって辛い。
 俺は口元を押さえて頷いた。今更エダムにどんな声を聞かれてもどんな姿を見られても恥ずかしがることはないのだが、ルービンというだけでちょっと抵抗がある。
 俺の様子に気付いたリヴァロが額に口付けて言った。


「ルービン様、キスしよ?」
「ぁ……んぅ、んッ!」


 リヴァロが俺の手を外して唇を重ねて声を奪う。器用に口内を舌でまさぐりながらも絶頂へ向けて下半身を激しく叩きつけた。


「んぐっ、ん、ふ、ンン──っ!!」
「ッん、は……、はあ……ルービン様……」


 たっぷりと子種を奥に吐き出し、数度腰を揺すったあとリヴァロの動きが止まった。


「はぁ……すぐ洗わないと」


 リヴァロは少し慌てたように性器を抜き、シャワーの準備をし始めた。俺はぐったりしながらも瞳を閉じて意識を切り替える。スッと体が軽くなり、ルーシャンに戻ったのがわかる。
 こちらを振り向いたリヴァロがビクリとした。


「うおっ、もうルーシャンになってる」
「ルービンは人間で老体なんだぞ。体力がもたん。ほらほら、洗うのはエダムに任せるからリヴァロは皆に怒られる前に戻れ」
「ん。わかった」


 リヴァロは立ち去る前にシャワーを俺に渡し、ギュッと強く抱き締め、想像よりも硬く真剣な声で言葉を紡いだ。


「愛してます。今度こそ……今度こそ最後までお側にいさせてください」
「……うん。俺も愛してる。一生そばにいような」


 それから少し体を離して見つめ合い、最後に触れるだけのキスをして俺とリヴァロの契りは完了した。
 リヴァロは照れくさそうに笑いながら脱衣場へ向かい、エダムに声を掛けた。


「ルーシャンまだいるから任せた!」
「はいはい、任されたよ」


 バタバタと出て行くリヴァロと入れ替わり、服を脱いだエダムが入ってきた。
 俺がカシュを元のサイズに戻して立ち上がると、自然な流れでエダムが俺の手からシャワーを抜き取る。


「髪、全然濡れてないね……もしかしてルービン様の姿になってた?」
「すげーな、わかるのか」
「時間にルーズでもないリヴァロが戻らない理由もそれなら納得だしね」


 それで納得されるリヴァロ。ルービンの事が本当に好きだったんだな。
 エダムは俺の髪をお湯で濡らし、椅子に座らせて手際よく洗い始めた。俺はお世話モードになったエダムを邪魔しないように受け入れ態勢だ。頭皮まで良い力加減でマッサージされて心地良い。


「ルービンになるコツは掴んだし、近いうちにエダムにも見せてやるよ」
「本当? 僕ね、ルービン様には女装してもらいたいんだ」
「は?」


 シレッと告げられた欲望に俺は目を見開いた。辛うじて細身の部類のルーシャンならいざ知らず、筋肉の塊のルービンだぞ?
 気でも狂ったか。そう思ったのにエダムは平然と言った。


「ははっ、そうそう。そういう反応が見たいんだよね。ルーシャンならエッチな下着の時みたいになんだかんだ受け入れそうだけど、ルービン様くらい男としての肉体に絶対的な自信を持ってる人だと恥ずかしがってくれそうで興奮する」
「ッ……お前、趣味悪いぞ」
「褒めてくれてありがとう。良い衣装用意しておくね」


 楽しそうに笑うエダムは仕事だけはきっちりとこなし、性的な動きは一切見せることなく俺の全身をくまなく洗い上げた。チクショウ、八つ当たりする隙もない。


「はい、綺麗になったよ。僕との初夜はどうしますか、魔王様?」
「……普通で」
「普通。オッケー、でいこう」
「エッ!? それはどういう……」
「それはルーシャンが一番身をもって知ってるんじゃないかな」


 エダムはウキウキしたように俺の腰を抱いて風呂から連れ出した。
 俺は完全に選択を間違えてしまったらしい。
 エダムって結構サドっ気があるというか、俺を調教するみたいなプレイが多い。それを思い出して俺の顔面が熱くなる。
 しかし、もしかしたら変化球を投げてくるかもしれない。俺は淡い期待を籠めてエダムに言った。


「初夜だぞ、初夜なんだから……優しい、よな……?」
「僕がルーシャンを傷付けたことある?」


 満面の笑みを浮かべたエダムの返事は全く答えになっていない。痛い事をしないのが『優しい』ではない!!
 そう叫びたかったのに、俺の腰にまわされていたエダムの手が肌をなぞるだけで言葉が詰まってしまう。


「ふっ……う……」
「初夜だからこそできる事をしようね」


 エダムが低く俺の耳元で告げた。
 俺はこれからの行為がのを悟り、本当に救えないのだが下半身が疼いてしまう。俺が信じたくなくても、エダムは俺のことをよくわかっている。
 恥ずかしい事に興奮してしまうのは俺の方だということに。
 既に勃ちあがりかけている俺の性器を見ないふりして、エダムがタオルとバスローブをかけ、そのまま抱き上げてくれる。


「僕の部屋でいい?」
「……うん」


 昔から執事のように俺のサポートをしてくれていたが、気が利き過ぎるのもどうかと思う。
 なんだか悔しくて、運ばれながらエダムの首元を齧ったり吸い付いてやった。意外と首が弱いのか、くすぐったそうにしているのを見て少しだけスッキリした。

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