魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【五章】仙人と魔物

十八話

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 地下にある浴場へ向かう途中に俺の寝室がある。
 大切な一張羅を汚したり濡らしたりしないために、一旦寝室で衣装を脱いでいる最中、赤色の封筒が床に落ちた。ダーリアンでは目出度い時に渡すお金は赤い封筒に入れる。ニウルー師匠からの祝儀だと理解し、俺は封を開けた。
 中には手紙と、師匠の財産の一部譲渡を記した書類だった。祝儀にしては金額が桁二つほど多い気がする。俺にだけでなく、四人の分も含まれているのだろうがそれでも多い。滞在費や酒代も込みなのかもしれない。なんだかんだ師匠は律儀だ。厚意はありがたく受け取る事にし、同封されている手紙を開いた。

 形式的な祝いの言葉すらなく、変化についてのアドバイスが書かれていた。


『お前は俺と違って全く別物が入っているワケじゃなく、同じ魂のガワを切り替えるだけだ。コツさえ掴めれば今すぐにでも習得できるだろう。人によってそのスイッチは違う。以前切り替わった時の事を思い出せ。その時に何が起きた。そこに答えがあるはずだ』


 フィオーレとクワルクがいたあの時の出来事。そんなに変わった事があっただろうかと当時を思い出しながら俺は衣装を木箱に納めた。箱を蹴ったりしないように部屋の隅に移動させ、バスローブを羽織って風呂場へ向かう。
 階段を下りて扉を開いたがとても静かだ。見回ってもまだ誰も来ていなかったので、脱衣場に設置してあるラタン編みの椅子に座り、考え事でもしながら待つことにした。

 フィオーレと話し、睡魔に襲われ、起きた時にはルービンになっていた。流れとしてはとてもシンプルだ。あの時フィオーレは“一晩だけの奇跡”と言っていた。だが別にあの時はまだ外は暗くなっていなかったから時間帯の話ではないのだろう。
 起きて眠るまでの間、一日一度のみ、という事で良いのだろうか。とりあえずそう仮定しておこう。
 いつでもどこでも眠れるというのは移動の多い忙しい者には必須と言える技能だ。俺は今も昔も場所を選ばず眠るのが得意なので、入眠がキッカケだとしたらいつでも変化できる自信がある。
 ただ、これまで毎晩ただ眠るだけで変化した事は一度も無いから、何らかの働きかけが必要なのは間違いないだろう。
 以前の俺の状況は、ルービンとして愛されたかったという強い想いがあった。ルービンとしてやりたい事を明確にしなければいけない気がする。
 今はどうだ。俺はルービンとしてあいつらに何をしてやりたい。それを静かに考えながら、俺は瞳を閉じた──のだが。


「うわあああああ!?」


 突如、少し離れた位置から情けない声が聞こえた。どうやらリヴァロが脱衣場に入ってきたらしい。俺が目を開けると、リヴァロが入り口付近で何故か片膝をついて頭を下げていた。
 リヴァロはルーシャンにはかなり気軽に接しているから、普段は絶対そんな事はしない。自分の視界が先程までより高くなっている事にも気付いて鏡の方を見れば、まごうことなきルービンの姿があった。


「……成功、している」


 俺はそう呟きながら、一回り以上大きくなった自分の手や腕を眺めて何度も変化を確認する。熟睡する必要は無く、一番物事の切り替えがしやすいのが睡眠という手段なのかもしれない。慣れれば目を閉じるだけでスムーズに変化できそうだ。
 俺は微動だにせずその場で石像のようになってしまったリヴァロに近付いた。俺の気配にリヴァロの体が小さく跳ね、緊張が伝わってくる。その変に力が入って上がってしまっているリヴァロの肩に、俺はゆっくりと手を置いた。


「リヴァロ」
「はいィっ!!」


 返事自体は元気が良いのだが、思い切り声が裏返っている。顔も上げてくれず、小刻みに体が震えて汗も凄い。


「畏まらずとも普段通りでいいんだぞ?」
「……それはさすがに……無理、です……」


 中身はいつも同じなのだから、ルーシャンの時と同じように接して欲しいのだが、やはり外見の影響は大きいようだ。リヴァロのこの反応、どうしたものか。
 怯えさせてしまうのは本意ではない。試したかった事は試せたし、早くルーシャンに戻った方が良さそうだな。
 俺は可能な限り優しくリヴァロの少し癖のある柔らかい髪を撫でた。


「すまないリヴァロ、驚かせたな。師匠からのアドバイスを少し試してみたらルービンの姿に変化できたのだ。コツは掴めたと思う。ルーシャンにもすぐ戻れると思うから少しだけ待っていてくれ」
「えっ!? あ、ァ、おっ、お待ちを……!!」


 リヴァロが慌てたように俺のバスローブを掴んで顔を上げた。その顔は湯気でも出てきそうなくらい真っ赤だった。

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