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【五章】仙人と魔物
十七話
しおりを挟む本来の式は、神を呼ぶために舞と酒と食事を用意した宴が開かれ、それが結婚式におけるほとんどの時間を占めている。どんちゃん騒ぎというやつだ。
しかし、もう目の前に神がいるのだからそれは必要ないということで、今はただ誓いの言葉を師匠に聞いてもらうだけだ。
俺が衣装を着てリビングへ戻れば、四人も高位の魔術師だけが身につける事のできるローブに着替えていた。白の生地は清廉さを、金の意匠は高貴さを見せつけるような迫力がある。四人の公的な魔術師姿を久し振りに目の当たりにすると、胸にくるものがある。
当時に戻ったような感覚に陥り、不覚にも目が潤んでしまった。最近は本当に涙腺が緩み過ぎている。
その衣装に懐かしさを感じたものの、当時に比べてリヴァロは全身逞しくなって幼さが消え、年上の三人と変わらない貫禄が出ている。
クワルクからも以前のような人を寄せ付けない冷たさが抜け、笑みがとても柔らかく、昔を知っている者が見れば別人だと思うだろう。
前のエダムだったら正装を着崩すなんて絶対しなかっただろうに、今はお洒落を優先して所々皮膚を覗かせ、堅苦しい衣装の印象が随分と軽くなり男前が上がっている。
ウルダは相変わらず透明感のある美しさで目をひくが、俺と目が合うと子供みたいにはしゃぐので、その人間らしさが嬉しくなる。
四人の良い変化を実感し、胸の辺りが温かくなった。
俺は一人一人と向かい合い、順番に両手を合わせてからしっかり握り、額同士を付けて同時に言葉を告げる。
「我が身がたとえ獣となり灰になり空になろうとも、この想い、この魂は変わることなく愛する者に寄り添い続け、幸福と繁栄を神の御許に誓う」
重なる誓いの言葉に反応したように、触れ合った額がほんのり温かくなる。俺達の周囲を金色の粒子が舞う様子がとても幻想的だった。俺の衣装にその粒子が集まり、吸い込まれていって輝きは消えた。伴侶を得た証の模様はこうして付くのだ。よく見れば四人の衣装の裾や袖にもキラキラしたものが付着していた。
婚姻の儀式はほんの数分で終わり、俺や四人に何か変化があった様子もなくて少し拍子抜けだ。
「これで良いのですか、師匠」
「ああ、無事にお前達は神に認められた伴侶となった。派出な事が起きなくて残念か?」
俺のいまいち実感が湧かない様子を笑いながら師匠は聞いた。正直、もっとド派手な事が起きると思っていたので俺は素直に頷いてしまう。師匠は俺の頭に手を置いて撫でてくれた。
「何も起きないのが正解なんだよ。何か起きる時は、その誓いに偽りがある時だけだ。この誓いをただの形式的なものだとしか思ってなくて、神前で嘘をつく命知らずはそこそこ存在するんだよなぁ」
呼び出しておいて嘘の誓いなんて聞かされたら神だって怒りたくもなるだろう。師匠から俺達の想いに嘘偽りがないと認められたのは素直に嬉しかった。
「誓いが嘘だった場合は……」
「嘘をついてる奴の頭が弾け飛んで血の雨が降り注ぐ。派手な式になるぜぇ?」
「なるほど」
それもそうだと納得していると、師匠が俺の反応に首を傾げた。
「やけに肯定的じゃん」
「王に逆らっても一族全体の首が飛ぶのですから、神は随分と寛容だと思いましたよ」
俺の言葉に珍しく師匠がギョッとしている。神様ほど偉くはないが、俺も国の頂点に立ち、人々の命を刈り取る事ができる立場にいるのだ。どちらかと言えば罰を下す側に感情移入してしまう。
「いいね。確かにお前は王の器だ」
師匠がそう呟くと、式はもう終わったとばかりに酒瓶を掴んで歩き出した。
「えっ。師匠、どこに」
「俺はお前らが言ってた村へ行って休む。式の進行っていう俺の役目は終わった。残りは自分達で完遂しろ。あとはお前達が契りを交わして終いだ。まさかそこまで俺に世話して欲しいって言わないだろうな?」
歯を見せて楽しそうに口の端を上げた師匠の言葉を、俺は頭の中でゆっくりと反芻した。
契り。つまり、セックスしろという事だ。ぶっちゃけ毎日している事だし、今更恥ずかしがるような事ではないのだが、改めて第三者に突き付けられると顔が熱くなった。
「だっ……大丈夫です!」
「衣装は汚すなよ」
「わかってます!!」
師匠はケラケラと笑いながら家を出て行った。嵐が去った後のような静けさが我が家を包む。しばらくは呆然と扉を眺めていたが、俺よりも先に四人が動き出した。
「衣装の強化作業もありますし、四人分の初夜も追加となると慌ただしくなりそうですね」
「作業の息抜きに、ルーシャンの寝室に、行く?」
「そうだね、各々一時間休憩ってことでいーんじゃない」
「俺達は寝なくてもいいけどルーシャンは敵陣に乗り込むんだからしっかり休まなきゃだし、休憩は今日中にな」
凄い。初夜すらも作業の一環になっている。色気の欠片も無いがこの通常運転っぷりは頼もしい限りである。四人のそういう所も俺は好ましく思っている。
別に休憩がてらに抱きに来るのは構わないのだが、俺はいつだって四人を求めているし、婚姻なんて考えてもみなかった関係を結べた事に興奮していた。端的に言って俺はすぐにでも抱かれたかった。
「じゃあ俺は先に風呂に入るぞ。せっかくだし、誰か一緒にどうだ?」
俺の言葉に、四人の動きがピタリと止まった。なんの変哲のない言葉ではあるが、明確にお誘いのつもりで俺は笑みを浮かべた。
俺から発せられたいやらしい空気を四人が見過ごすはずがない。四人は顔を寄せて誰が行くのか相談を始めたので、俺は鼻歌交じりに一足先に浴場へ向かった。
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