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【五章】仙人と魔物

十六話

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 俺はあまり深く考えてはいなかったが、塔という閉鎖空間で新しい情報を得られなかった四人と、数百年自由に動けたカースとの情報量の差は大きいのだ。
 四人は様々な可能性を想定した上で純粋に俺を心配してくれていただけだった。本当に頼もしい臣下だ。


「そうだな……俺が浅慮だった」


 相手は俺を理想の所有物くらいにしか思っていない。何をどうこじつけて強硬手段を取るかわからないのだ。カースに少しの隙も与えてはならなかった。
 だからといって、何もしない訳にはいかない。俺達の間に再び沈黙が流れたが、その重苦しい空気はすぐに打ち破られた。


「おいおい、そのカースってなんだ?」


 師匠が我慢しきれないという様子で話に入ってきた。そういえばまだカースの事を話していない。俺は慌ててカースの説明をした。


「ユンセンに穢れを降らせた張本人です。その行動に至った理由は『ルービンが困れば自分を頼るだろう』という発想からでした。どうやら俺に恋慕していたらしくて」
「スゲーのに好かれたな。お前の前世って絶世の美少年とかなわけ?」
「その真逆であるとだけ言っておきます」


 ルービンはいつでもどこでも体のデカさに注目されるから、筋肉の美しさには自信があった。しかし一般的な美醜の評価は俺ではわからない。俺にとってはデカい、厚い、ゴツいが誉め言葉だったのだ。
 この流れで、ウルダがうっとりとした声をあげた。


「王はですね、全ての光なのです。王に抱きとめられた瞬間からウルダの世界は──」
「ウルダ待って、王の話は皆止まらなくなるからまた後で。クワルクもね」


 エダムが静かにウルダを制し、同じくルービンを語ろうと立ち上がりかけたクワルクに対しても座るよう手で制した。見事なタイミングだ。
 師匠はその一連の流れがツボに入ったらしくゲラゲラと笑った。俺も空気が解れた事によって頬が緩む。


「エダムありがとう。えっと……俺達はカースを恨みはしませんが、放置して舐められてまたおかしな事を仕掛けられても困るので、キッチリと制裁をするつもりなのですが……」


 カースの行いに対しての決着をつけるつもりだが、カースからの突然の招待にこちらでの正装が間に合わず、ダーリアンの正装で凌ぐ事になったと師匠に説明した。カースはルービンよりもルーシャンの方が好みだったらしく、カースの中では俺と結婚する気だとも告げた。
 師匠は飽きれた顔で俺達を見た後、事も無げに言った。


「どうせ明日でそいつとの因縁を終わらせるつもりなんだろう? そんな面倒な相手なら、馬鹿正直に独身でいる必要ねーじゃん。今すぐ結婚して堂々とその衣装を既婚者の正装にすればいい」
「な……なるほど?」


 言われてみれば簡単な話だが、結婚というビジョンがまったく俺の中になかったのだ。四人も同じだったらしく、その手があったかと息を呑んで師匠を見ていた。
 間抜けな顔をした俺達に、師匠はげんなりとしながら投げやりに言った。


「んで? この中の誰が本命なんだ? 俺マジでずっと気になってたんだからな!?」


 とうとう師匠は俺達の関係に言及してきた。四人と俺を交互に見比べている師匠なのだが、俺の目は完全に泳いでしまっている。


「……ぜ……」
「ぜ?」
「全員……です」
「は?」
「よ、四人とも……本命、です……」


 いざそれを誰かに言うとなると変な汗が出てきた。
 俺達五人は納得してこの関係になったが、第三者からすると俺は四股のとんでもない悪者じゃないか。尊敬する師匠にそれを突きつけられたらさすがに凹んでしまう。
 しかし、師匠は軽い調子で言った。


「ハーレムじゃねーか。王様かよ」
「王様です」
「そういやそうか」


 ワハハと明るく笑う師匠に、俺は心の底から安堵した。

 そもそも俺に結婚という考えが浮かばなかったのは、ルービンの時から世襲を排していたからだ。優秀な者が次を担えば良いと考え、穢れの事さえなければ四人の中から次の王を選ぶつもりだった。
 四人にも言っていないから誰も知らない事だが。

 俺はシャウルスやカースの求婚にもどこかずっと他人事で、結婚は物事が有利になるのであれば使うカードくらいの認識だった。
 でも今は、愛した者としたいと明確に思った。俺の気持ちはハッキリしたが、ダーリアンは一夫一妻制だし、実際のところ四人同時に結婚できるのだろうか。


「四人と結婚するのはダーリアンの風習としては可能なのでしょうか」
「まあ四人でも同性でも別に構わん。さっさと式するぞ。作業途中でもいいから衣装に着替えてこい」
「え? ここで式ですか? 神殿も神社もありませんが……」


 基本的に結婚式は、神が見ていると言われている場所で誓いの儀式をする必要がある。
 ダーリアンから遠く離れた土地でどうするつもりなのかと困惑していると、師匠が俺の額を人差し指でつついた。


「バカ野郎。俺を誰だと思ってやがる。わざわざそんな所行かなくても目の前に龍神様がいるんだぞ。俺に直接誓えばいいんだよ」

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