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【五章】仙人と魔物
九話 クワルク視点
しおりを挟む初めて降り立つ土地は、空気も景色も全く違うものだった。そこら中を舞う花びらが幻想的で美しく、ルーシャンが言っていた通りに色が淡いピンクゴールドだった。私以外の三人もはらはらと舞う花弁に目を奪われている。
「元はサクラという木だったんだが、この地にあるのは常に花が咲き続けるようになった変異種らしい。トコヨザクラと呼ばれるほど、散ってもすぐに花をつけるから掃除が大変なんだ」
ルーシャンは懐かしそうに目を細めた。ここは山の手前の大通りといった所だろうか。石畳の両脇に均等に植えられているサクラの前には屋台が並んでいる。まるで祭りでも行われているような賑やかさで、想像よりも人が多くて活気があった。
ちょうど里の入口という事もあり、行商など外部からの人間が多いからこの人通りの多さなのだとルーシャンが説明してくれた。
道行く人達の服装は、ルーシャンが着ている物に似ていたり、色のついたバスローブのような服に幅の広い紐を腰に巻いたものだったり、私達が住む大陸では見掛けないものばかりだ。
何より驚くのが、道行く者全員が見事に髪色が黒いことだった。滅多に見ない色だけがひしめき合っていると迫力がある。男女共に髪を長く伸ばしており、ルーシャン曰く、髪には魂が宿っているとか神様が住んでいると伝えられているから、特別な理由が無い限りは長髪にするそうだ。確かにこちらでも髪に魔力が宿っていると言うから、それと似たような教えなのだろう。
私達の髪色はここではとても目立つのか、人々の視線がとても痛い。ザワつきすら生まれており、居心地が悪くなる。まさかここまで注目されると思わず私達は困惑した。
ルーシャンも異様な雰囲気を感じたのか慌てて移動し、先程見えていた大きな石造りの階段ではなく、そこからもう少し歩いた先の斜面を指差した。
「この階段の上に師匠の家というか、俺の家がある」
人通りもまばらになった場所にある、急な山壁には木製の小さな階段が見えた。知っていなければ見過ごしてしまいそうな獣道に続いている。過去に食器として数度だけ見た事があるバンブーが沢山生えており、物珍しさに目を奪われてしまった。
ルーシャンの言い方では、今から向かう場所は師匠の家ではなくルーシャンの家らしい。ルーシャンの家を見れるのは嬉しいが、私は率直に疑問をぶつけた。
「ルーシャンの家にお師匠様が住んでいるということですか?」
「そうだ。師匠は仙人と呼ばれるくらい山奥に住んでいて、会いに行くにも一苦労だった。だからあの手この手で里に連れて来て、山には無い便利さを教え込み同居まで持ち込んだ」
「ルービン様の記憶がなくてもルーシャンの行動力が王そのものですね」
ユンセンへ私達を呼び寄せた時のような行動力に、つい笑い出してしまいそうになる。決して力尽くではないが、断る理由を無くす事にいつも王は全力なのだ。
しかし、当の弟子がいなくなっては意味がないのではないだろうか。
「ルーシャンがいないのであれば、さすがにお師匠様が本来の自宅に戻っている可能性の方が高いのでは?」
「今回取りに来た正装を含め、師匠には貴重品の全てを預けている。生活費の足しにしてくれとは言ってあるが、義理堅い人だから余程の事がない限りは手を付けずに待っていてくれていると思う。我ながら随分身勝手な考えではあるがな」
師匠と仰いでいるだけあって、ルーシャンとの信頼関係は厚いらしい。少しだけ嫉妬で胸がチクりとした。私達の知らないルーシャンを知る存在がとても羨ましいと感じていた。
だが、私達の事を思い出し、全てを放り出して駆けつけてくれたという事に優越感があるのも事実だ。この複雑な感情を悟られぬよう、私は精一杯微笑んだ。
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