魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【五章】仙人と魔物

六話

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 二日程経ち、一仕事終わった四人が我が家で寝泊まりするようになり、自宅の改良が進んだ。塔ほどとは言わなくても着実に質の高い研究施設になってきた。
 秘匿性の高い研究は我が家で行い、ある程度形になってきたらパニールで本格的に開発を目指すというスタイルでひとまず運用する事になった。
 しかし、いくら俺の私有地であってもここはブルーミーなのだ。そこら辺の立ち位置もちゃんとシャウルスと話し合わなければいけない。
 やるべき事は沢山あるが、今日も今日とてカースの手紙を待っていた。返事をしてから六日だからもうそろそろ届くと思うのだが。

 俺が庭でリヴァロと筋トレをしていると、結界に反応があった。マルだ。
 マルはメッセンジャーとして認識してあるため、こちらがマルだとわかればすぐに結界を通れるようになっている。以前のように力で無理に入って来る必要はない。すぐに森からマルが姿を現した。


「ありがとな、マル」
「ガウ」


 手紙を受け取り、撫でようとしたらマルは瞬時に残像を残して一歩横に移動していた。速すぎる。


「おい、本気で避けるなよ、触らせてくれてもいいだろ!?」
「バウッ! ワフッ!!」
「チクショウ、はやっ! ふん! あっ!? クソッ届かない!」


 トレーニングに付き合ってやるとばかりにマルは、どうしてもふわふわな毛に触りたい俺の手からすんでの所で上手く逃げ、二人で庭全体を走り回る事になった。


「ひぃ……ひぃ……よ、四足歩行は……卑怯……」
「ワフン」


 10分もすれば人魔と魔物の体力差は歴然で、俺はヘトヘトになって芝生に倒れ込んだ。マルは得意げな顔をして俺の横で腹ばいになり、尻尾をパタパタと振った。どうやら撫でても良いらしい。俺はありがたく手を伸ばして毛皮の柔らかさを堪能した。
 王同士のしがらみが無ければ、あの堅物なマルチェットとこうして全力で走り回って遊ぶ事ができるのかと不思議な気分だった。魔物になって精神が開放的になるのは、全部が全部悪い事ではないのだ。


「ルーシャン、マル~! お水持ってきたよ!」


 大きな水桶を抱えたリヴァロがこちらに走って来た。とてもありがたい。


「助かるよ、リヴァロ」
「アオッ!」


 水桶の中にはグラスが入っていたので、それを取り出して水を飲んだ。マルも感謝を告げて水桶に勢いよく顔を突っ込み、バチャバチャと激しい音をさせて水を飲んでいった。やはりマルの体が大きいから一気に水が無くなってしまった。


「ワウン」
「お、帰るか」
「アウ!」


 満足気に口の周りを舌で舐めたマルは、森の方へ走っていった。マルの姿が見えなくなり、リヴァロがポツリと呟いた。


「マルチェット王、狼の魔物になってからの方が人当りいいね」
「ああ。もしかしたら本来は明るい人間だったのかもしれん」


 国の象徴、国そのものを体現した存在。ブルーミーの王は温和でなければならないし、ユンセンの王は強くあらねばならない。ムフローネの王は周りを寄せ付けない孤高の存在でなくてはならない。
 はめられる型が合わなければ、王と言う一つの頂点が幸せだとは限らないのだ。
 俺は気を取り直して立ち上がった。汗を流してから手紙の返事を書かなければいけない。

 風呂に入り、着替えてからリビングのソファで手紙を開いた。相変わらず短く簡潔な内容だった。


「ふふっ……ウルダが理想の正妻像になりそうだな」
「なになに、ウルダ、ルーシャンの正妻だよ?」


 紅茶とケーキを俺の前に持ってきたウルダがキラキラした目で言った。四人に序列は無いから、正しくは四人全員が俺の正妻だが。


「ウルダのクッキーをお気に召したようだから、褒美をくれるそうだ。要望を送れとさ」


 カースが俺を正妻だと思っているという部分はスルーして、俺は本題を口にした。ここが最も重要だ。


「相変わらずあの王子様は偉そうというか仰々しい物言いですねぇ」
「相手が喜ぶ贈り物がわからないから聞くというのは悪くないけどね」


 ソファの後ろから俺の髪の手入れをしているクワルクが言った。それに対して、俺の脚をマッサージしてくれているエダムが更に続けた。皆が戻ってきてからというもの、めちゃくちゃ過保護に世話をされている。ルービンの時よりも絵に描いた王様みたいになっている。四人が楽しいなら止めるつもりはないが。
 俺は紅茶を飲みながら口の端を上げた。


「欲しいものを聞いてくれたのはありがたいな。これで会いに行ける」
「どういうこと?」


 床掃除をしていたリヴァロが顔を上げて不思議そうに聞いてきた。


「さすがにカースでも、俺がただ会いたいと言っただけでは警戒するだろう。政治的な話になりそうだと思われては困る。別に俺はこの件を政治的に解決したい訳じゃないからな。個人の仕返しだから正式な場はいらないんだ」
「そうだね」


 リヴァロだけでなく他の三人も頷いた。俺はフォークに乗せたケーキを口に運び、しっかり味わってから告げた。


「だが『会おう』ではなく『褒美と言うのであれば、身の程知らずは承知の上で……あなたとの時間が欲しいです♡』と言われたらどうだ?」
「うわっ……すげぇ喜びそー」
「だろ?」


 リヴァロの素直な反応に部屋の空気が明るくなる。甘さ控えめのシンプルなケーキを食べ終えてから、俺は自室で一人返事を書いた。

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