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【四章】王と魔王
二十三話
しおりを挟む俺に近付いてきたエダムは疲れを感じさせないように優しく微笑んだ。
「ルーシャン、今日は可愛い髪型してるね」
「クワルクがしてくれた。気に入ったか?」
「勿論。整っていれば整っているほど乱し甲斐があるよね」
エダムは冗談めかしながら、セットが乱れないように髪に触れる。
ゆっくりと俺の腰に手をまわして抱き寄せたが、エダムからは性的な触れ方が見られなかった。
単純に人肌で癒しを求めているような動きだ。シャウルスの側近は色々と大変だったのだろう。
臣下を労うのも俺の重要な役割なので抱き締められつつもエダムの背中をゆっくり撫でた。
クワルクもエダムの余裕の無さを感じ取り、心配そうな顔をしながらも静かに家から出て行った。
二人きりになると、エダムが横になりたいと言ったので俺はリビングの大きなソファで膝枕をしてやる事になった。
エダムの髪を撫でると気持ち良さそうに目を閉じる。俺はこのまま寝かせた方が良い気がして、エダムにどうしたいか聞くことにした。
「エダム……休んでから報告するか?」
「ん~……もうちょっとこのまま話したいかなぁ。ルービン様の話を聞かせてよ……昔の姿に戻った感想は?」
俺は感じた事を素直に口にした。
「ルービンの肉体の方が慣れ親しんでいるが、今こうして戻ってみればルーシャンの方が良いな」
「へぇ、意外。なんでだい?」
「単純に若さだな。エダムならわかるだろう」
「わかりたくなかったけど、わかってしまうね」
四人の中で最年長のエダムはルービンの気持ちが一番わかる。
肩に謎の痛みが走ったり、疲れやすさを感じたり、三十代、四十代、五十代と、鍛えていても段階的にどこかしらにガタを感じるようになる。
二十代のルーシャンにはまだそれが無いのだ。
「どこにもガタがきていないというのは快適だぞ。この身体の有難みを痛感してしまった」
「ただでさえルービン様は魔力が無いし、魔力補助ができないから僕よりキツいよね。それに人間だもんねぇ……クワルクとして大丈夫だったの?」
真面目にセックスの心配をされてしまった。人魔と人間だし、年齢差もある。心配される要素しかないな。
実際、クワルクが人魔であるとか関係なく、ルービンへの愛が重いクワルクはどんどん歯止めがきかなくなっていた。
めちゃくちゃ気持ち良かったが、関節はだいぶ悲鳴をあげていたし、途中からは喘ぐ体力すら残っていなかった。ヤり殺されるかもしれないと思ったのはあれが初めてだ。
ルービンの姿が一夜限りだからどうにかなったようなものだ。
「大丈夫ではなかったな。ルーシャンに戻ってなかったら数日寝たきりだったと思う」
「くっ……ふふふ、あっははは!」
俺が神妙な顔でそう言えば、エダムは少し元気が戻ったのか堪えきれない様子で大きく笑った。
楽しそうに存分に笑ったあと、エダムは俺の髪をいじりながら話し始めた。
「クワルクは誰から見てもルービン様が好きってわかるくらいだったからねぇ」
「うっ」
その言葉に俺は思わず胸元を押さえてしまう。
よく懐いてくれてるなぁ、で終わらせてた過去の自分に大ダメージだ。
「色眼鏡で見ない所がルービン様の信頼に繋がっていたから誰も責めないけど……言い方を変えれば貴方が鈍いのも事実だ」
「自覚は、している……」
それだけ俺は王として必死だったんだ。多少は鈍くなっても仕方ない部分もあったと思う。
かといって、今の俺が相手の好意がわかるのかといえばそれも疑問だから反論などできるはずもない。
エダムは微笑んでいた口元を引き締め、小さく溜息をつく。それから重々しく口を開いた。
「ブルーミーの王は、代々交渉事に強かったでしょ?」
「え……? ああ、そうだな」
何故ここでブルーミーの王が出てくるのかわからずに俺は困惑した。
いや、この流れで出てきたということは……もしや。
「まだ十代とは思えないシャウルス王の落ち着きっぷりとか、違和感あると思わない?」
「それはずっと感じていた」
そう。シャウルスは見た目以外は老成した王の風格を備えている。まるで俺と近い存在のような……。
エダムは更に続けた。
「ブルーミー王家の血筋はとても平凡だったらしい。武に秀でてもいなければ、特別魔力が高い訳でもない。優れた知能を持つでもなく、外見が少し整っている程度というのが初期の評価だそうだよ」
「えらく踏み込んだ情報を手に入れたな……」
「シャウルス王が直々に教えてくれたからね。僕が側近として置かれたのも、内密な話がしやすいからみたいだ」
つまり、シャウルスはエダムを通して俺に伝える事があったのだろう。
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