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【四章】王と魔王
十九話*
しおりを挟むまったく世話の焼ける男だな。
ルービンに触れるクワルクは普段よりも随分と幼く見える。
こんなにも俺への愛情を隠しきれていないのに、昔の俺は全く気付いてやれなかったのだから薄情なものだ。
今からでも何か報いる事ができればと考えたが、やはり素直になるのが一番だろう。俺は膝を立てた脚を自ら開いた。
「俺も早く、お前と共に気持ち良くなりたいから……」
声が若干震えたが、言えた。
ルーシャンの時は若さ故の柔軟さがあるからなのか、自ら誘うような行動を取るのにそこまで抵抗がない。
しかし今はとてつもなく恥ずかしい。語尾が消え入りそうになる。
クワルクの反応を見るのが怖くて顔を背けたくなるが、俺は羞恥に耐えて唇を噛み締めながら前を向いた。クワルクは迷子にでもなったみたいに戸惑っているような表情をして眉を下げた。
「……好きです……」
クワルクは泣きそうになりながら震えた声でそう言った。
勝手に溢れた言葉、という方が正しい感じがする。まだクワルクの言葉は止まらない。
「好きで好きで、好き過ぎて……昔は王に抱かれたかったんです……」
「え!? そうなのか!?」
突然のクワルクからの告白に、俺はエロい雰囲気も吹き飛んで素になって叫んでしまった。
クワルクがコクリと頷き、説明を加えてくれる。
「強く男らしい王に憧れる気持ちは勿論ありますが、現実的に王を襲うなんて不敬な事はできないので……見目の良い私であれば、そっち側ならばワンチャンあるのではないかと……」
ワンチャン狙ってたのか。
現実的な範囲で目標を定める所がなんともクワルクらしい。
だが、俺だって信頼関係が重要な臣下を襲うなんてできないし、チャンスを用意できずに大変申し訳ないな。
だが、俺への好意をヒシヒシと感じて素直に嬉しかった。俺が微笑ましくなっていると、クワルクが慌てて釈明した。
「ご、ご心配なく! さすがに今は思ってませんよ!」
「ふふ、そうか……それは残念だな」
「へ!?」
俺の言葉に、クワルクの全身が一気に赤くなる。視線が泳ぎ、ソワソワと指を動かして挙動不審になっている姿が可愛い。
俺も男だからそういう気持ちが無いわけではない、と言いたいだけで、抱くという行動を起こす気は微塵もない。
しかしこんなに良い反応をされてしまうと揺らぎそうになるではないか。
クワルクは悩んでいるような、喜んでいるような、眉間に皺を寄せた複雑な顔をしていた。
恋人としての行動を優先するように命令していて正解だったな。臣下としてのクワルクなら即座に抱いて欲しいと迫ってきただろう。
クワルクは何度もモジモジしながらも、最終的には意を決したように宣言した。
「わ、わ、わ、私は……ルービン様を滅茶苦茶に抱きたいので!!」
「あっはっは! そうだな、俺もクワルクに抱かれたいよ」
俺が豪快に笑いながらそう言えば、クワルクも顔を綻ばせた。それは十三歳の少年の時にすら見せた事のない、無邪気で幼さすら感じる明るい笑顔だった。
普段の、冷たさすら感じるクワルクの美貌とは全く違うギャップにやられてしまう。俺の心臓がバクバクと激しく暴れてうるさかった。
「ッ……クワルク……は、ん……ん、ぅ……」
クワルクは何度も何度も指を俺の後ろに入れては抜いて、魔術で生み出した粘液を注ぐ作業を繰り返している。
それは性的な快楽を与える動きというより、慎重に診察を重ねる医療行為に思えてきた。
「大丈夫、でしょうか……いや、まだ……」
クワルクがポツリとそう呟いてまた指を動かした。俺はカシュに事前に柔らかくしてもらっているし、勢いのままに突っ込まれても平気なくらいに備えていた。
だが、そこから更にクワルクに解され、何度も中を濡らされると準備というには過剰過ぎるくらいだ。
それなのにクワルクはなかなか俺と繋がろうとしない。互いの性器は萎える事なく主張を続けているし、クワルクにやる気がない訳でもなさそうなのだ。
俺の脳には後ろでの快楽がしっかりと刻み込まれている。さすがに俺も緩やかな刺激だけでは我慢が辛くなってきた。
「……そういうプレイか?」
「え!?」
「俺を焦らしているのか、と聞いているんだ。クワルク?」
俺が拗ねたように問えば、慌てたクワルクが首を横に振った。
「いっ、いえ! お、王はこの御身体では初めてなのです……慎重なくらいでないと、傷付けるかもしれませんから……」
「慎重というより臆病ではないか? このままじゃいつまで経っても始まらんだろう」
「……そう、かもしれませんね……。自分でも、まさかこんなに怖いとは思いませんでした」
「怖い?」
考えてもみなかったクワルクの感情の吐露に驚いてしまう。
クワルクは雨に濡れた子犬のようにシュンとした様子で言った。
「今まで、貴方を抱いて悦ばせているつもりでしたが……ルーシャンの肉体は魔物になったり人魔になったり、性行為に適した仕様になっているので……今までそれに胡坐をかいていただけではないかと不安になり……。こうして人間の身体の貴方を前にして、私の能力の無さが露呈するのではないかと恐ろしくなってしまいました。ここまできて情けない限りですね……」
クワルクは力無く笑った。
俺からすれば、普段自信の塊のような相手が俺のために臆病になっている姿がたまらなく愛おしく、魅力的に映っている。
可愛い奴め。
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