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【四章】王と魔王
十六話 クワルク×ルービン
しおりを挟む俺は『風呂に入らなければ』とか『慣れていない体で楽しませる事ができるのか』といった考えが頭の中をグルグルしていた。
完全に脳内がピンク色に染まっていたが、クワルクが静かに俺から体を離した。
「ルービン様、皆に報告しても宜しいでしょうか?」
「あ、ああ……そうだな」
この姿をクワルクが喜んだ様に、他にも見たい者がいるかもしれない。
三人を招集するつもりでクワルクが魔術での念話を試みるが、念話が繋がり次第リヴァロには『今は手が離せない』と切られ、エダムには『急遽会議が』と切られ、ウルダには『今日は帰れない』と言われてすぐさま切られていた。俺の変化を知らせる間もなかった。
「……後からの文句は受け付けませんからね」
「それは……俺からもクワルクはやるべき事をしたと皆に伝えよう」
「ありがとうございます。後で情報確認できるように手紙だけは送っておきましょう。しかし、普段貴方の世話役をしているウルダすらこのタイミングでいないというのは……間が悪いにも程がありますね」
全員が同時に手が離せない忙しさになるのはおかしい。異常事態と言えるだろう。
「俺も作為的なものを感じている」
「十中八九、悪魔の仕業でしょうね。私だけにルービン様を独占させて、仲違いの火種にしたいのでしょう。悪魔が考えそうな事です」
油断も隙も無いな。気を利かせたように見せ掛けて罠を仕込み、四人の信頼関係に綻びを見出そうとしたようだが、クワルクに独占の意思が無いため効果は薄い。
こんな状態でクワルクがフィオーレに対しての心証が良くなる事が今後あるのだろうか。
「さて、やるべき報告は終わりました。次はルービン様の不安を取り除きたいのですが……」
クワルクの綺麗な顔が近付き、形良い唇が俺の頬に触れた。
今の俺はルーシャンより体格が良くて頑丈なのに、クワルクは驚く程丁寧に、壊れ物を扱うような優しい手付きで触れてくる。一挙手一投足に俺への愛しさが籠められているのがわかる。
ルービンはデカくてゴツくて若くないから、などと悩んでいた自分が一気に恥ずかしくなった。
「もう不安はない……」
「ふふ、照れていますね。今更恥ずかしがっているのですか?」
「か、からかうな……反省中なのだ」
「反省、ですか」
キョトンとした顔で、クワルクは小首を傾げた。
「お前達の愛を疑っていないつもりだったのに、俺が勝手にルービンとルーシャンの違いを気にして結局何も信じていなかった。己の心の弱さを恥じている」
俺の言葉に、クワルクは頬を緩めてゆっくりと俺の肩や腕を幸せそうに撫でる。
その行為はルービンという存在の輪郭をなぞり、幻ではないと信じるための確認作業のようだった。
「これだけ大きく変化すれば違いが気になるのは当たり前の事。私達も、貴方の生前に気持ちをお伝えしていなかったのですから、好意が後付けだと思われて当然です。意気地の無かった私達が原因ですから王は悪くありませんよ」
「……はは、あまり俺を甘やかさないで欲しいものだ」
俺がそう言えば、クワルクの瞳に欲望の火が灯る。
「おや、甘やかしているつもりなんてありません。これから、貴方がどれだけ恥ずかしがろうと、この身体にも全力で教えて差し上げますので御覚悟を」
「……お手柔らかに頼む……」
「善処はします。一日はこれからですし、じっくり時間を掛けて愛し合いましょう」
□□□
風呂に入る時間だけは貰い、カシュに色々と綺麗にしてもらった。
俺がバスローブを羽織って自室に入ると、広いベッドでバスローブ姿のクワルクが寛いで待っていた。
何故か俺の方が初めての房事に緊張する生娘のような気分になる。この肉体では処女なのだから間違ってはいないのだが。
「ルービン様」
こちらに気付いたクワルクが俺に向かって両腕を伸ばす。俺は無意識にその腕の中に飛び込んでいた。
ベッドに二人で倒れ込んだはいいが、クワルクを潰していないか心配しまう。
しかし、クワルクはしっかりと俺の体を抱きとめてくれていた。塔で鍛えていたという成果は出ているようだ。クワルク自身もそれが嬉しかったのか、とても良いドヤ顔をしている。
「どうですか。昔の私とは違うのです」
「はっはっは、頼もしいな。魔力が無くなれば最終的に筋肉がものを言うのだ。魔力を封印できても、筋肉が封印されたという事例は見た事がないからな」
以前、全員がフィオーレによって動きを止められてしまったのも魔力を持っているからだった。
魔力同士の対抗では、魔力が圧倒的に強い悪魔が有利になる。しかし、魔力無しには魔法や魔術自体が効きにくく、拘束力が細い縄程度になる。ルービン程鍛えていれば筋力で振りほどけるのだ。
そうは言っても、魔力を持っていた方が有利になる場面が多過ぎるから魔力無しが良いとも思わないがな。適材適所が一番だ。
「んふっ、それでこそ我が王ですね」
ついこの姿だと筋肉の話ばかりしてしまうが、それに懐かしさを感じて俺もクワルクもひとしきり笑い合った。
ある程度落ち着いてくると、クワルクが俺のバスローブの前を開けて全身を眺める。
「今日は下着が無いのですね」
「あっ、あれはルーシャンだからであって……俺にはキツいものがあるだろう……」
恥ずかしい下着をつけている訳でもないのに、クワルクに見つめられるとそれだけで身体が熱くなる。
王という立場上、侍従に世話をされる事に慣れていて裸を見られて恥ずかしいと思った事はなかった。
なのに、想いを交わしている相手だとこんなにも違うのか。
たとえ生前に想いを告げられていたとしても、こんな気持ちにはならなかったのだと思うと不思議な感じがする。ルーシャンとして出会って関係を持ったからこその変化。
どれだけ過去の事を考えても、今以上の出来事など起きないのだ。今が一番幸せだとハッキリ言える。
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