魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【四章】王と魔王

十五話

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 ルービンと呼ばれて俺は妙に落ち着いていた。ルーシャンよりも長い付き合いだったルービンの器だ。
 馴染み方が違う。鏡で確認せずとも、今の肉体はルービンのものになっているのだとハッキリ理解した。
 クワルクはと言えば、こちらを見つめる瞳からとめどなく涙を流している。
 濡れた頬を拭う事を忘れたクワルクの代わりに、俺は綺麗なナプキンで涙を拭こうと手を伸ばした。


「ハッ……!? なんと恐れ多い事を!!」


 俺が触れる前に、クワルクは椅子から立ち上がって距離を取る。
 それから膝の皿が割れないか心配になる勢いで床に跪いた。俺が触れるのをあからさまに避けられた様な気がして胸が痛んだ。


「王のお手を煩わせる訳にはいきません……自分でしますので、どうか、お気になさらないでください……」


 クワルクはそう言って俺から視線を外してしまう。
 やはり、そうなのだな。
 ルービンの姿では触れられたくもないのだ。皆、若くて美しいルーシャンだから求めていただけなんだ。

 ずっとそれが気になっていた。昔から恋愛感情があったという言葉は本当だろう。
 だが、ルービンをルーシャンのように体を求め、欲情するかどうかは話が別なのではないか。そんな証明のしようがない事に俺は悩んでいたのだ。
 ルービンに戻れないのだから知りようがなくて蓋をしていた思い。
 だが、こうしてフィオーレの力で俺はルービンの姿になった。ずっと確認したかった事なのに、いざルーシャンとの違いを見せつけられてしまうとキツイものがある。


「王……? 顔色が……」
「クワルクは……こんな筋肉しか取り柄のない男は嫌か?」
「……は???」


 間の抜けた声とはこういう事を言うのか。クワルクのハンサムな顔がハニワのようになっている。
 しかし、俺は言葉を止められなかった。


「お、俺を避けたではないか……ルーシャンの時ならそんな事、絶対にしないだろう。久しく見たら、こんな、デカくてゴツい男は……やはりあり得ないと実感したのではないか……?」
「……ルービン様……?」
「俺は老けているし、美しいとは言い難いし、お前達がわざわざこんな大男を好きになるはずなかったのだ……」


 次から次へと女々しい言葉が溢れ出す。こんな事を言ってしまっている時点で、四人を束ねる憧れの王ですらなくなってしまう。
 どうしてこんな事になってしまったんだ。恥ずかしくも情けない。今にも俺の精神は崩れ落ちてしまいそうだった。


「我が王よ」


 クワルクが俺を呼んだ。静かだが、凛とした有無を言わせぬ声だ。俺はその声に自然と視線を向ける。クワルクは跪いたままこちらを真剣な表情で見据えた。


「私がこうして距離を保っているのは、理性を失わないためで御座います」
「理性」
「はい。ルーシャンであれば魔力供給などの大義名分がありますので、いつ理性が無くなっても良いのですが」
「……良いのか……?」
「ルービン様に対してはその大義名分が使えないので、普段の様に気軽に襲ってしまう訳にもいかず、理性を保つ必要がありました。冷静に会話が可能な距離を保つ事、ご容赦願いたく存じます」


 キリリとした表情でクワルクは真面目に言っているが、内容がろくでもなかった。
 それにクワルクは重要な大義名分を忘れてはいないだろうか。


「こっ……恋人と……するのに、理由が必要だっただろうか……?」
「……た、確かに」


 クワルクはまるで重大発見でもしたみたいな顔をしている。
 そして慌てたようにクワルクが駆け寄り、俺の手を握った。


「考えが及ばずに申し訳ありません。私の態度が貴方を不安にさせてしまいましたか?」
「クワルクは悪くない……俺が変なんだ……。お前達と違い、今までこんな感情を知らなかったから、色々と不慣れで、おかしな事を言ったと思う……」


 俺の言葉にクワルクは首を横に振り、小さく笑った。


「王は私達を買い被り過ぎております……エダムならいざ知らず、私はモテはしますが恋人がいた経験は無く、私も恋愛といった部分においてはとても未熟なのです」


 言われてみればそうだ。クワルクは若くして天才の名を欲しいままにしていた。
 クワルクにとって努力は当たり前の事で、常に研究に没頭している姿を俺は近くで見ていたではないか。
 俺のため、国のため、魔術のためにと寝る間も惜しむ男に、一体いつ他所で恋愛が出来たというのか。

 いくら四人が規格外の能力を持っているとはいえ、一日の時間は全ての存在に同じだけしか与えられていない。何かを犠牲にしているのは当然なのに、俺は四人の事を完璧な超人であるかのように妄信し過ぎていたらしい。
 こんな当たり前の事すらわからないくらい、俺は恋愛感情に振り回されている。
 だが、必死なのはクワルクも同じなのだ。握られた手から伝わる熱が心地良くて、気持ちが落ち着いてきた。
 クワルクは、いつもルーシャンに見せている熱を孕んだ視線を俺に向けた。


「これだけは言わせてください。私がのは紛れもなくルービン様なのです。この大きな胸も、ゴツゴツと浮き出た筋肉も、皆が見上げる逞しい体躯も、男らしく渋い顔立ちも、全て……最初に私が求めていたものなのですよ」


 ゆっくりと、クワルクは衣服越しに俺の胸や腹を撫で、頬に触れた。
 性的な意思を持った動きに、俺は顔が熱くなった。


「ほら、少し貴方に触れただけで……」


 椅子に座る俺を抱き締めたクワルクがそっと腰を押し当ててくる。
 驚くほど熱を持ち、硬くなった性器が存在を主張していた。クワルクの隠しようのない興奮が伝わってきて、俺の悩みは瞬時に消え去っていた。

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