魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【四章】王と魔王

十二話

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「クワルク、どういう事か説明してくれるか……?」


 朝。いつものようにウルダに起こされて朝食をとり、人魔の研究がしたいウルダはパニールへ転移した。
 俺は自分で使った食器を洗った後、リビングでお茶を飲んで一人ゆったり寛いでいた。そんな時だ。コンコンと扉がノックされ、俺の返事を待たずに開いた。
 防犯設備が動いていないということは、四人のうちの誰かであるのを確信していた。だから俺は訪問者に対してなんの警戒もしていなかった。

 予想通り家に入って来たのはクワルクであったのだが、何故かその背中には少年姿のフィオーレがくっついている。おんぶなどではない。クワルクは一切その体を支えておらず、言葉の通り背中に張り付いているといった様子だった。フィオーレはクワルクの肩から顔をこちらに覗かせている。

 ニヤリと口元を歪めてこちらを見るフィオーレと目が合い、俺はクワルクに説明を求めたのだ。
 死んだ魚の目をしたクワルクが言った。


「リヴァロから預かった召喚魔術……どのような条件を設定しても、何故かこの悪魔が召喚されるのです……。もう……いっそ書物を漁るより、直接悪魔から情報を聞き出す方が早いのではないかと思い……」


 このクワルクのぐったりした声で、フィオーレに随分と遊ばれた事が伝わってくる。


「そ、そうか、大変だったな……少し休むと良い」


 俺はそう提案したが、全身に疲れを滲ませているクワルクは力無く首を横に振った。


「いえ、さすがにコレを野放しにするとルーシャンが何をされるかわからないので」
「コレって失礼じゃな~いの~?」
「害虫と呼ばれないだけありがたいと思って欲しいですね」


 フィオーレは楽しそうにクワルクの頬を指でプニプニとつついているが、クワルクは視線で人が殺せそうなほど怒りをあらわにしている。その殺気すらも面白いらしく、フィオーレはケラケラ笑った。


「すごくない? どう考えても敵わない高位の存在に対してこの態度。魔物化を経験したらメンタル強くなるのかなぁ?」
「私がこうなったのは貴様がルーシャンに触れてからだ」


 俺の前では滅多に出すことのない、重く低い声でクワルクが言った。
 クワルクには悪いが、フィオーレとの対照的な様子が面白くて俺の肩から力が抜けた。


「くくっ……クワルクは元からそんな感じだがな」


 俺は笑いを堪えながら肩をすくめる。俺が席を立ち、正面にある空いた椅子を引いてやれば、フィオーレはクワルクの背中から降りて大人しく椅子に座った。
 自由になったクワルクはキッチンでポットの用意を始める。


「ボク珈琲!」
「ご自分で変化させてください」


 ニコリと微笑んだクワルクは、カップに水だけ入れたものをフィオーレの前に置いた。
 露骨な嫌がらせに俺が反応に困っていると、フィオーレは全く気にした様子もなくカップに口を付けた。フィオーレが一口飲んだカップを覗いて見れば、湯気の立った珈琲になっていた。
 未知の存在である悪魔に対して俺はどう対応して良いのかわかっていないため、この二人のやり取りにはハラハラしてしまう。
 俺の心情を感じ取ったのか、フィオーレがこちらを見た。


「ンフフ。悪魔に対しての対応としては満点だよねぇ、クワルクって」


 そうなのか。クワルクは俺にしか懐かない狂犬だと思うが、それが悪魔にとって有効なのか。全くピンときていない俺に、クワルクが説明してくれた。


「悪魔が心の隙をついてくるというのはどんな文献でも共通した情報ですからね。恐怖や欲を見せればコレの思うつぼです。実は、心で負けなければ悪魔はこちらに致命的なダメージは与えられないのですよ」


 簡単に言っているが、わかっていても本能的な感情を制御できるものではない。悪魔に畏怖を持たないクワルクが特殊なのだと思う。

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