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【四章】王と魔王
十話
しおりを挟むリヴァロと思い切り愛を確かめ合った。
今の俺にできる事をやると決めた。カースへの対処だけではなく、四人に対してもそうだ。
四人は俺がなんであろうと愛してくれるのは十分にわかっている。それでも魔物だからできること、人魔だからできること、人間だからできることがあるのだ。
人魔は本当に性欲が強くなると実感した。
魔物の時のような我を忘れる感じではなく、行為自体を楽しめる余裕がある。しかし極端な性質である事は間違いないから、自然な欲求というよりはドーピングされているような強制力を感じてしまう。
ルービンでは絶対にあり得なかったであろう、性に奔放になりつつある俺は、本当に俺だと言えるのか。そんな不安が時折湧き上がる。
俺は人でなくなってから日が浅い。更に言えば薬で症状を抑えられる恵まれた環境だ。
それでも、この短い期間の変化ですら不安になるのだ。魔物化という大きな変化に長年耐えていた四人の凄さを改めて実感した。
「ルーシャン? お腹、痛い?」
「ああ、すまん。大丈夫だ」
俺がボーッと窓の外を見て考え事をしていると、お茶を淹れてくれたウルダが心配そうに声を掛けてきた。
沢山運動してグッスリ眠ったリヴァロは昼過ぎに起きて、まだ研究があるからと慌ただしくブルーミーの研究所へ戻っていった。
ブルーミー内の研究施設への自由な出入りの代わりに、エダムはシャウルスの護衛兼補佐役に借り出されている。
クワルクもリヴァロもエダムもあちらで上手くやっているようだ。
たまにカンタルも資料や薬を届けにブルーミーへ足を運んでいるらしい。
カンタルはブルーミー内では、意思疎通可能な元人間の魔物ということで研究者から大人気なのだという。
「ブルーミーにいる皆の事を考えていただけだよ」
「ウルダ以外、みんな、自然とあそこに集まってる」
「居心地が良いのだろう。あの国の王は代々そうやって仲間を増やし、平和を守ってきた」
「こっちも、貞操、しっかり守らないと」
「……うーむ。現地にいる本人達に頑張ってもらうしかないなぁ……」
まだ手籠めにされたという連絡は入っていないが、ブルーミーに滞在する面々は順調にシャウルスと仲良くなっている。
ふと俺は、昔の事を思い出した。
シャスラン王の時代、別大陸の軍が攻めて来るという情報が入ると、真っ先にシャスランが敵国へ派遣されていた。シャスランに接待された者はあっという間にシャスランの虜になり、ほぼ確実に平和的解決に向かうのだ。ブルーミーの王は秘密兵器のような扱いである。
身体を使ったテクもさることながら、本人曰く『相手が本当に欲しいものを与えているだけ』なのだそうだ。
つまり、心の奥底で誰かに抱きしめて欲しいとか、孤独から救って欲しいという願いがあるからシャスランに簡単に堕ちてしまう。孤独な暴君ほど堕としやすいとシャスランは言っていた。
突然攻めてくるような奴はそういうタイプが多いということだな。
そんな歴史を踏まえた上で、俺は最大限にシャウルスを警戒している。
大切な四人を奪われないよう、心に隙をつくらぬよう、俺は愛情表現を惜しまないよう意識している。
四人を繋ぎとめる事ができるのであれば、淫乱ムーブもエロい衣装が恥ずかしいとか言っていられない。俺は必死なのだ。
エッチな下着にリヴァロは喜んでくれたけど、どこまでが引かれないかという判断は難しい。
やり過ぎてもよくない気がする。誘惑とは難しいものだ。
しかし、ここにいない皆の事をむやみに心配しても仕方ないので、今はカースとのやり取りに注力しよう。
「ウルダ、クッキー作れるか?」
「ん、作れる」
ウルダは生まれた集落で一通りの家事を完璧にこなしていたため、実は俺達の中で一番家庭的だ。
その割にはこちらが頼んだりしなければ生で野菜を齧りだすくらい食に興味が無い。そのため、ウルダは家事全般が得意なのだと知ったのは、ルービン時代でもかなり後になってからだった。
ちなみに俺は、王の時に料理経験は無いし、生まれ変わっても料理とは無縁のサバイバル生活をしていたため、塩を振って直火で焼く以外の事はできない。
申し訳ないが料理関係の事はウルダに丸投げさせてもらおう。
「今風のやつじゃなくて、昔流行ってた凄く甘いやつを作ってくれ。カースに渡す用だ」
「作るのは、いいけど……余計、好かれてしまうんじゃ?」
「それが狙いだからいいんだ」
「ふうん」
これがカースに好かれるための行動だと知り、面白くないのかウルダが少し唇を尖らせる。
ウルダは妖精とでも表現したくなる美しい容姿だから、子供っぽい雰囲気がギャップを生んでとても魅力的に映る。
俺はウルダの手を握って宥める様に話しかけた。
「作戦の内なんだ。俺に特別な感情は無い。あるとしたら……最後の情け、かな」
「情け……?」
「カースがお前達と同等に、俺を愛しているのかどうかくらい見極めてやらねば」
四人は俺がどんな存在になろうとも愛は変わらないだろう。突然、姿が豚になっても虫になっても俺を愛してくれるという自信がある。四人がそうなっても俺は四人を愛し続けるし、そんな信頼関係ができあがっている。
しかし、カースの事は本当に未知だ。
俺は何も知らずにただ断罪する気は無い。温情の余地があるのかどうかの最終判断材料を集めている所なのだ。
ウルダは俺の甘さに対して思う所があるのだろう。頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。拗ね方が可愛い。
「ウルダ。不満はわかるが、こっちを見てくれないと寂しい」
そう言うと、チラリとこちらに目線をくれた。素直だ。
俺はウルダに抱きついて胸に顔を摺り寄せる。すぐにウルダは俺の髪を優しく撫でてくれる。別にウルダも怒っている訳ではないのだ。
犯罪者に対してなるべく経緯を考慮したい俺の考えは昔から知っているし、そこについて何か言うつもりはないだろう。
それでも“好きな者が他の相手を気に掛けるのはモヤモヤする”という気持ちは、今の俺にはよくわかる。
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