上 下
79 / 125
【四章】王と魔王

五話 マルチェット視点

しおりを挟む


「今の私は眷属であるがゆえ、カースの意思に反する行動はできない。パニール襲撃を止める事もできなかった役立たずだ。本当にすまなかった」


 狼の姿ではさまにならないが、私は頭を下げた。


「息子の責任は親の責任だ。許されない事をしたのはわかっているが、どうか、カースの前にまず私に制裁を……それからカースへの処罰を決めて欲しいのだ」


 息子の減刑を求めたいわけではない。ただ、私も共に裁いて欲しい。そう付け加え、更に頭を下げた。ルーシャンは私の前で屈み、カースから預かった手紙を拾った。


「俺は……許す気は無いが、別に恨んでもいない。悪魔召喚という明確な原因があったにせよ、疫病など、人ではどうしようもない事は常にいつの時代でも起きる可能性がある。起きた事を誰かのせいにしていては、いつまでも解決しないからな」


 そう言ってルーシャンは私の頭を撫でた。その優しさは、私にとってどんな罰よりも辛かった。


「まあ、これ以上の被害は御免だからな。カースには多少の罰を与え、反省はしてもらうつもりだ。マルチェットにはカースのアフターケアを頼みたい。きっと荒れるから」
「……感謝する。本当に、ほんとうに、すまなかった」


 私が顔を上げると、ルーシャンは笑っていた。


「子育てとは、ままならんものだな」
「ああ……そうだな……」


 ルービンの養子だった子供は、血の繋がりがないのにルービンそっくりになった。親の背中を見て育つとはよく言ったものだ。カースも私の背中を見て育ち、心の弱さまでそっくりになってしまった。
 ルーシャンは私に一つ質問した。


「マルチェット。何故カースに父の意識があると教えないんだ?」
「……私は、親としてカースを正しく導く事ができなかった。ありのままの息子を見てやる事ができなかった。だが、ただの狼のマルとしてなら、ちゃんとカースを見てやれる気がして」
「……そうか。わかった」


 これ以上口を出す事はないとでも言うように、ルーシャンは力強く頷いた。
 私は許された訳ではないが、恨まれてもいないという安心感もあり、つい、本音が口から零れていた。


「私は……王として、子を持つ親として、そなたを尊敬している」
「えっ……」


 私の突然の言葉に、ルーシャンは顔を赤くして固まった。昔のルービンならば、表情一つ変えずに受け流していただろう。生まれ変わった事で人間らしくなったようだ。何故かそれが我が事のように嬉しく感じた。


「ふはは、マルチェットならば死んでも言わないだろう?」
「……うん、まあ、確かになぁ」


 ルーシャンは顔を手で扇いでいるが、まだまだ頬が赤い。隙を見せるようになったのは良い傾向だ。ルービンの時の様にもう一人で全てを抱え込む事は無いだろう。私が心配する事は何一つ無い。


「マルチェットは死んだ。私はマルとして生きる。今後、もう言葉を話すつもりはない」
「ああ。マル、また来いよ」


 謝らせてくれてありがとう。話を聞いてくれてありがとう。
 私はその気持ちを全力で叫びながら森へ駆け出した。


「アオーン!」


 精一杯の感謝の叫びは、木霊してゆっくりと空へ吸い込まれていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?

キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。 目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。 そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。 どうして僕はこんな所に居るんだろう。 それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか…… コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。 【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】 反応いただけるととても喜びます! 匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(⁠^⁠^⁠)  

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

処理中です...