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【四章】王と魔王
三話
しおりを挟む俺は思い出したようにエダムに忠告した。
「エダム。一応言っておくが、シャウルスに手籠めにされないよう気を付けろよ」
「僕おじさんだよ? さすがにないでしょ」
「あの血筋を舐めていると大変な事になるからな?」
「……そういやシャスラン王の時って、十人の妻の上は80歳、下は13歳だっけ……」
「博愛の王とも呼ばれていたんだ。年齢は関係ない。本当に気を付けてくれ」
「ルーシャンがそこまで言うなんて……。肝に銘じておくよ」
エダムは神妙な面持ちで深く頷いた。
四人が一人一人処女じゃなくなっていく、なんて事にならないように、俺がしっかり言い含めるしかない。
対人スキルがあるエダムくらいしかシャウルスとまともに交渉できない気がする。抱かれそうになったら帰って来いよ、マジで。
最後は広範囲に魔術を張れるウルダだ。
「ウルダは村やパニールの防衛を頼む。あとはカースや悪魔の動きを気に掛けてくれ。怪しい動きがあれば知らせて欲しい。大規模な魔術になるかもしれないがいけるか?」
「ん、問題ない」
「結界や調査の魔術を張り終えて待機になったら一緒に家を増築していこう」
「うんっ……ってことは、ルーシャンは、家にいるの?」
俺は頷いた。パニールにいて俺を狙う存在が襲撃してくるのも嫌だし、塔の跡地が興味本位の旅人に荒らされるのも困る。
現状、寝泊まりが限度の家をもっと機能的にしたいというのもある。諸々の理由で俺はしばらくあの家で過ごすつもりだ。
「皆に動いてもらう間、俺は家で手紙を書く」
「手紙……?」
「ああ。カースの目的は“俺に見てもらうこと”だろう? 俺が興味を向けている間は攻撃に動かないはずだ。宣戦布告回避と、時間稼ぎの目的でしばらくはカースに手紙を書く」
一番手軽で効果があるはずだ。
下手に接触しても戦闘になりそうだし、カースを守るためにフィオーレが出て来ても困る。
幸いフィオーレはパニールを気に入っているのだから、俺がいない間に町を勝手に襲撃する事はないだろう。
パニールはカンタルに任せ、俺は家に引きこもるのが一番安全だと考えた。四人とカンタルも納得してくれ、早速俺達は各自の行動を開始した。
□□□
一通目の手紙を出してから早五日。カースからの動きはない。
内容があまりにも簡潔過ぎただろうか。だが、サルドには全くといっていいほど変化はない。戦争の機運が高まっている感じもなく平和だとウルダが言っている。
宣戦布告の準備をしていないのならば、手紙作戦は成功と言えるだろう。
そろそろ二通目の内容を考えるか、と思った時だ。外から魔物の気配がした。ウルダの結界をすり抜けられるという事はかなりの実力がある魔物だ。
「ウルダ」
「……手紙、持ってる、オオカミ……が、いる」
「カースの使者か」
殺気もなく、家から少し離れた位置で座っているらしい。敵意がないのであれば警戒するのも失礼だ。俺は外へ出た。
闇のように真っ黒な毛をした三つ目の大きな狼が、口にくわえていた手紙を地面に置いてこちらを見た。
「……ルービン」
俺を真っ直ぐに見つめた狼が、ルービンとハッキリ言った。喋れるのか!?
とても驚いたが、どこかで聞いたことがある声だった。俺はその声の主について必死に記憶を掘り起こす。カースの関係者で、俺の昔の名を知っている。黒くて大きな存在。その条件で思い当たる存在なんて一つだけだ。
「お前……マルチェット、なのか……?」
「ああ、そうだ。久しいなルービン。今はルーシャンと呼んだ方が良いのか」
昔ほど棘のない、その低く落ち着いた貫禄のある声。
それは、ムフローネ国の王。カースの父であるマルチェット王のものだった。
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