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【四章】王と魔王

六話

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 遠吠えを上げながらマルは帰っていった。ちゃんと話せて良かったと思う。
 互いに人として一度死んだからこそ交わせた言葉だった。

 あえて言わなかったが、マルチェットの治療行為は『黒ローブの怪物』と呼ばれる『突然現れ、醜い人間の醜さを食べてくれる大きな怪物』という趣旨の怖い話としてブルーミーに残っていた。
 正体は心優しい魔女であるとか、神の罰で醜さしか食べられなくなった悪者だとか、地域によって内容は異なるが、怪物に触れられると綺麗な姿になるという点は共通していた。

 怪物、というのは昔の俺程ではないにせよ、マルチェットも2mを超す長身であった。それに加えて猫背で、黒い長い髪はクセが強くチリチリしていた。枯れ木の集合体に思われてもおかしくない不気味さのせいで怪物と呼ばれていたのだろう。
 さすがにそのまま伝えるのは憚られたので、いつか機会を見てやんわり言葉を変えて教えてやろうと思う。
 マルチェットによって救われた命は確かにあったのだから。

 俺はマルが持って来てくれた手紙を見た。
 ただ『甘いクッキー』という六文字だけではあったが、カースは対面でなければ意思疎通が可能そうだとわかった。
 カースに罰を与えると言ったが、それは今後のカースの対応次第だ。愛ゆえの行動を否定したい訳ではない。だから俺は見極める。四人のように俺のために全てを失う覚悟のある愛なのかを。


「ルーシャン、大丈夫、だった?」


 少し離れた位置で俺を見守っていたウルダが近付いてきた。


「大丈夫だ。少し休憩するか」
「うん」
「今日の当番はリヴァロだったよな。そろそろ来る頃だろうから食事の用意も──」
「ルーシャン!!」


 俺の言葉の途中、転移してきたリヴァロが眼前に現れてガバッと勢いよく抱きついてきた。
 ちなみに当番とは俺とセックスする当番だ。
 平等に一日一人ローテーションで俺と寝室を共にする。恋人らしさと無縁の呼び方になってしまっているからいつかちゃんとそれっぽい呼び方にしたい。

 リヴァロが嬉しそうに全力で俺を抱き締めるから、体がミシミシと音を立てそうだ。
 喜びを制御できないとは珍しい。俺だって筋力では負けていられないので、リヴァロの腕をゆっくり外して顔を見た。


「リヴァロ、成果が出たのか」
「そうなんだよ! あのな、これなんだけど!」
「ちょ、待て待て、こんな所で研究成果を出すな! 家に入るぞ!」


 よっぽど研究が上手くいったのか、今のリヴァロは周りが見えていない。大事な研究成果を外で出すなんて不用心にも程がある。上手くいって興奮冷めやらぬという気持ちはわからんでもないが、俺はリヴァロを強引に引き摺り、家に押し込んだ。
 ウルダがお茶を淹れてくれている間に、リヴァロは早速成果を披露してくれた。


「ジャジャーン!! 悪魔召喚特化型、簡易召喚魔術石!!」


 大会で授与されるメダルくらいの大きさの丸い石板だ。石に膨大な魔力が含まれていて、塔の石材を使用しているのがわかる。


「カースの簡易召喚魔術の欠点である術者の魔力量はこの石板で解決した。石板を術式の上に積み重ねるだけで足りない魔力を補えるようになってるんだ!」
「シンプルだな……」


 カジノのチップをベットする様に、リヴァロは机に石板を積み重ねる。本当にこれだけの実演だった。


「さすがにこの石板は俺達四人の魔力を何百年も吸ってるから特殊アイテムだけど、魔力を注いで使える汎用タイプも作ってるぞ。でも、現状はとりあえずこの石板10枚でルーシャンでも悪魔召喚が可能だ」
「早いな!?」


 俺でも悪魔召喚が可能かどうかがわかれば良いな、くらいに思っていたのだが、リヴァロは先の先へいっていた。
 いつでも悪魔召喚できると言われてしまって、あまりのスピード感に動揺を隠せない。

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