魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【四章】王と魔王

四話 マルチェット視点

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 ルーシャンという青年になったルービンは、昔と変わらぬ堂々とした振る舞いで目を奪われる。背筋を伸ばし、胸を張り、常に前を見据えている。容姿が変わろうと、ルービンを知る者はすぐにその魂がわかるだろう。


「マルチェットも生きていたのか」


 その声は柔らかく、私を懐かしく思ってくれているのだと感じた。私に良い感情など無いだろうに、どこまでもお人好しな奴だ。


「一応。だが、カースは私が死んだと……いや、私を殺したと思っている」
「詳しく聞いても?」
「そうだな。そなたには知る権利があるだろう」


 私は、カースの父としての視点から話せる事を全て話した。


 +++++++++++++++


 カースは世界で最も強い魔力を持つ子供だった。
 魔力主義の国では、魔力の強力さが尊敬の基準になっている。私はカースを誇りに思い、可能な限り自由にのびのびと育てていた。
 当時の私には甘やかしているという感覚は無かった。褒めて伸ばし、カースの自主性に任せていた。気が付けば、カースの自尊心だけが膨らんでいった。私だけでなく、ムフローネ全体からちやほやされ過ぎたのだろう。

 私はそれでも特に気にしていなかった。カースはあまり真面目に研究するタイプではなかった。しかしカースには才能がある。いずれは才能だけでどうにもならない壁が現れ、勉強の大切さに気付き、自ら学ぶだろうと思っていた。
 今にして思えば、私はカースの魔力しか見ておらず、カース自身を全く見てやれていなかったのだとわかる。
『放任主義』や『自主性を重んじていた』と言えば聞こえは良いのかもしれないが、私はその加減を間違えてしまった。


 ルービンの王としての活躍を見ていれば、魔力の有無で能力の差が決まる訳ではないと誰もが理解できた。
 だが、それを全面的に認められるほど私は強くなかった。
 もしも、もっと早く私がルービンを認め、カースの代からでも意識を改め、差別主義を撤廃できていればあんな事は起きなかった。
 本来はただの好意であったはずのカースのルービンへの想いは、差別感情によって歪められ、自分の思い通りにならないルービンへの執着となった。

 カースがルービンに執着している事に私は全く気付いていなかった。
 突然やる気を出した魔術師試験も、ルービンに向けた感情があるなんて知らなかった。今まで興味を示さなかった会談に参加したがったのも、ようやく次期王の自覚が芽生えたのだと考えていた。
 カースが悪魔召喚に成功した時も、私はただ単純にカースの才能を喜んでいた。


 カースは悪魔に願った。
 ユンセンに問題が起きれば、ルービンがカースに助けを求めると考え、悪魔はその願いを叶えた。
 穢れが降り注ぎ、ユンセンの民が魔物に変化していく様子を私は震えながら見ていた。
 取り返しのつかない過ちを犯したと、愚かな私はようやくわかった。
 悪魔という存在を甘く見過ぎていた。
 異界の空気が流れ込んだだけで『穢れ』となるなんて知らなかった。そして空気なのだから、じわじわと他の国にも被害が出始めた。それはムフローネも例外ではなかった。

 カースは自らが穢れに蝕まれながらも、それでもルービンが来るのを待っていた。自らが頼られると信じて疑わなかった。

 しかし、ルービンは塔を建て、すぐに四人の魔術師を動力とした浄化装置を稼働させた。被害の中心にいたルービンは余裕もなく気付かなかったかもしれないが、被害の末端にあたる地域ではすぐに浄化の効果が見られた。
 奇跡としかいえなかった。
 魔力だけに頼らず、施設全体で効果を上げるという考えは魔力のないルービンにしかできない事だった。
 穢れが少しずつ、確実に浄化される世界を眺め、ようやく私の無力さと、ルービンの能力を認める事ができた。
 そんな時にルービンは死んだ。全ては遅過ぎたが、それでも私は今からでもできる事をしようと奮起した。


 悪魔に穢れを降らすのをやめて欲しいと頼んだが、一度空いた穴は自然に閉じるのを待つしかないと言われた。
 では穢れの浄化の手助けをして欲しいと懇願したが、悪魔にとっては有害でもなんでもない物質をどうこうする手段を知らないと言われた。

 根本的な解決が私では出来なかったが、せめてもの償いになればと、私は自らを医者と偽りユンセンに向かった。私も魔術師の端くれだ。四人の魔術師の足元にも及ばないが、ユンセンの民の穢れを少しずつ我が身に移していった。
 それに意味があったのかもわからない。完全に自己満足だ。私の魔物化が進み、自我を保てなくなりそうになった時に、ムフローネへ戻った。


 最後にカースの穢れを我が身に移し、殺してくれと頼んだのを最後に私は自我を持たない魔物となった。
 願い通りにカースは私を殺したのだろう。私の人としての肉体は消えた。

 しかし、集めた穢れをまたばら撒く訳にはいかないという、カースの思いなのか、私の思いなのかはわからないが、穢れと私の魂が融合して留まった。それが今の姿だ。
 魔物となった私は、人の記憶と自我を持っているが、カースの数ある眷属のうちの一つでしかなかった。私はあえて喋る事はせず、カースの眷属としてただ側にいる事にした。


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