上 下
76 / 125
【四章】王と魔王

二話

しおりを挟む
 

 クワルク、エダムと共にしっかりと昼まで眠った俺は、カンタルに呼ばれて研究所で食事となった。
 すでにウルダとリヴァロは席についている。
 ちなみに娼館の支払いは飲み物一杯程度の金額だった。本当にどうやって判定しているんだ。そこら辺のシステムが気になってしまうが、今はそんな場合じゃない。

 人魔は人間の要素が強いため飲食は必須ではないものの、食事からの方が栄養を摂取しやすいそうだ。
 魔物の部分が最低限の命を繋ぐため、食べなくても死ぬ事はないらしい。人魔の体は便利だなぁ。


 カンタルの足をぶつ切りにして味を付けて揚げたものは、外はカリカリしていながらも中はジューシーで本当に美味しかった。今度俺も肉虫を差し入れようかな。食材の見た目を気にしない者達なら気に入ると思う。
 食事をしながら、カンタルは町の様子を報告してくれた。


「人魔の王という初めての存在が生まれ、パニールの王は“魔王”と称する事になりました。人間も人魔も魔物も共存できる国として、民は動揺も混乱もなく受け入れております。魔王様はわしの父親だと説明したら誰もが納得してくれましたわ、ホッホッホ」


 研究所に来るまでの道ですれ違った子供に『魔王様だ』と言われた理由はこれか。
 俺がカンタルの父親だという紹介だけで民がすんなり受け入れてしまうのだから、カンタルの人望の厚さがわかる。
 いつまでもカンタルにおんぶに抱っこでは情けない。カースと悪魔の件が片付いたら、俺もしっかり民に挨拶しなければ。
 食事も落ち着いた所で、長モードを解いたカンタルが今後について聞いてきた。


「パパ、これからどうするつもり?」
「ひとまず、皆にやってもらいたい事がある」


 そう言って全員を顔を見渡すと、真剣な面持ちで頷いてくれる。
 これからは対カースに備えての行動となる。


「リヴァロは召喚魔術の研究をしてくれ。勿論、目的は悪魔召喚だ。まだまだ知らない契約方法や未知の情報があるだろうからな」
「はいよ」
「クワルクは悪魔そのものの調査を頼む。弱点でも好物でも、今は何でも知りたい」
「お任せを」


 まずはあの悪魔という反則級の存在をどうにかしないと話にならない。
 パニールの研究所はお世辞にも大きな施設とは言い難い。しばらくの間カンタルから資料や機材を借りて、俺達は塔のあった場所を拠点とする事になるだろう。
 しかし、本格的な研究となると今はまだ設備も道具も揃っていない。次に俺はエダムに声を掛けた。


「エダムはシャウルスの所へ行って、現状報告と協力の要請を。パニールは小国だから、戦争になった場合の後ろ盾が欲しい。あとは魔術研究所を使わせて貰えないかも確認してくれ」
「かしこまりました」


 元ユンセンの魔術研究所が今も稼働している事は俺自身が確認している。
 ちゃんと未来の魔術師達のために活用してくれて嬉しかった。
 俺が建てた魔法学校も図書館も全て運営が続けられており、新しい知識を得るにしろ、古い知識を得るにしろ、ブルーミー以上に適した研究拠点はないだろう。
 シャウルスが許してくれれば、ブルーミーでしばらくは研究させて貰いたい。


「カンタルから見てブルーミーの王はどんな感じだ?」
「ブルーミー国王は代々パニールに対してとても友好的だよ。ずっと魔物になったオレにも親切にしてくれてる。ユンセンと統合してからは一番大きな国になったし、パパへの義を感じるね」
「そうか。ユンセンをブルーミーに任せたのは正解だったようだ」


 当時のブルーミーの王はシャスランという、場を和ませる空気を纏った不思議な男だった。
 虫も殺せなさそうな、ふわふわニコニコした王だが、妻が十人おり、誰が第一夫人だとかいう区別は無かった。俺と四人を同時に娶ろうとするシャウルスがシャスランの血筋なのは間違いない。

 シャスランは差別意識もないし、俺の事をよく気に掛けてくれた。
 物資を融通してくれる対価として俺は武力を貸していた。持ちつ持たれつで良い関係だったと思う。
 口に出してはいなかったが、俺は今でもシャスランを親友だと思っている。

 数百年経った今もユンセンはブルーミーという名になっただけで、ほとんど変化もなくそのままの姿を残していた。
 それがシャスランからの友としての敬意のように感じて嬉しくなったものだ。


 ──だから、口約束ではあったものの、何かあれば本当にシャウルスに輿入れしても良いとさえ思っていた。
 もちろん、今はもうその選択肢は無くなったがな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

処理中です...