魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【三章】人魔の王

十九話

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 四人を守るためにも、己を守るためにも常々権力は欲しいと思っていた。
 王となった事でやっとまともにカースへの対応ができそうだ。平民でなくなった俺を自由にできる存在はこの時よりいなくなった。
 素直に嬉しいし、本当に助かった。
  カンタルは唖然としているカースを見て、子供をあやすような優しい声で語り掛けた。


「サルドの王よ。人魔の王となったルーシャンを無理矢理娶る事はできなくなりましたなぁ……なあに、正々堂々と相手を口説く、という普通の事をなされば良いだけのこと。ああ、それか悪魔にまた泣きつきますかな? 普通の事もできぬ、魔力しか取り柄が無い男であると宣言なさるようなものですがねぇ……」


 クスクスと上品に笑うその姿。俺が知らない『長』としてのカンタルだ。めちゃくちゃカッコイイ!!
 カースの表情が怒りに歪み、骨が砕け、再構築するバキゴキという嫌な音をさせながら狼のような姿に戻っていく。


「……出来損ないの魔物風情がよくもやってくれたなぁ!!」
「ほっほっほ、出来損ないの魔物はサルドの王も同じではないか。鏡すら所持できぬ貧しい国ではルーシャンを養えまい」


 その数百年の重みを感じる堂々とした振る舞いにパパ惚れちゃいそう。
 全ての元凶への恨みをここぞとばかりに言葉で晴らしている。うぅ、本当に立派になって……。

 感動していると、カンタルの胸部からもメキメキという音がした。そしてグロテスクな牙が幾重にも広がる大きな口を開く。え、何それ、カンタルも変形できるの!?
 伸縮自在の舌が三本外に出て来てカースに先端を向ける。何でも貫けそうな鋭利さがあり、その舌は鞭にも槍にもなりそうだ。更に肩の腕が肥大して超巨大な拳を振り上げる。強そう。めっちゃ強そう。

 カースも召喚魔術を使用したのか、周辺に大量の魔物が出現した。魔物同士の威嚇合戦とでも言うべきか、カースとカンタルが睨み合い、一触即発状態となった。
 完全に俺も四人もポカンとしていたが、カンタルを危険に晒す訳にはいかない。慌てて大きな声をあげた。
 
 
「やめろカンタル! 我が領土での他国との争いは禁ずる!!」
「御意に」


 カンタルはすぐに矛を収め、ペタリと地に伏せた。俺は労うためにカンタルの頭を撫でる。それが気持ちが良かったのか、キュルキュルと体のどこから出ているのかわからない鳴き声がした。動物のようでこれはこれで可愛いぞ。
 しかし、カースの方は全く戦意を収める気はなさそうだ。みるみる人狼の体が大きくなり、3m近い高さにまでなった。


「邪魔をするなぁああ……!!! ルービンンンンッ!!!」
「カースも、今日の所は帰ってくれ。パニールを襲おうとしたのだって、俺の大切な者を消せば寂しくなって縋りつくとでも思ったのだろう。だが、俺が王になったからには絶対にカンタルに手出しはさせん。もちろん四人にもな」


 そんな言葉でカースが大人しく帰るとは思わなかったが一応言ってみた。案の定、カースは形振り構わず俺とカンタルへ襲い掛かってきた。


「これは他国の争いなんかじゃねぇ!! ただの事故だ!」
「なるほど。では今から起きる事は全て事故だ」


 俺は一歩踏み出した。何も音はしない。たった一瞬で終わる。俺はカースの向こう側の景色を見ていた。
 カースの腹部に空いた風穴から。
 遅れてヒュボッという音がして、ボタボタとカースの足元に血の池ができる。


「……ぁ……?」


 カースはようやく自分の腹部にトンネルが空いた事に気付いたらしい。腹部に本来あるはずの肉に触れようとした手がスカスカと空を彷徨っている。


「なんだ……これ……」
「はぁ、魔力で保護してもやっぱ俺は魔力の扱いが下手くそだから手がボロボロだ」
「……うぁ!?」


 俺が目の前に立っていた事にカースはようやく気付いたらしい。
 カースの混乱をよそに、俺は自分の拳に視線を向けた。手の形だった事を忘れそうな程ひしゃげ、骨や肉がむき出しになって変な方向に色々な物が飛び出している。無残な姿になってしまった右手が可哀想だ。
 しかし、それもすぐに元通りになり、カースの腹部も何事もなかったかのように修復されていた。


「ありがとな、四人共」


 魔術師四人がヤレヤレといった表情を隠しもせず苦笑した。やはり四人がいると“何をしても大丈夫”だと安心できる。


「は……はぁ? 身体強化か……? 幻術……? な、何をしたんだ……ルービン……!?」


 体に穴が空き、またすぐに無傷になった事にカースはかなり混乱しているようだ。
 魔術を維持する事もできないくらい動揺したカースの周りから魔物の姿は消えていた。倒す手間が省けて良かった。やはりカースはメンタルを責めれば弱いようだ。カースの疑問に、四人は得意げに説明を始める。


「王はどんな生物も持つ、自らを保護するための脳のストッパーを外す事ができます。その攻撃力は強化などではなく、我が王ルーシャンの素のお力ですよ」
「僕達がしているのは、相手が死なないように回復させたり、致命傷にならないよう攻撃位置を保護する事」
「王の体が壊れないように保護もするし、今みたいに壊れたら治す」
「ウルダ達は、王が、怪我や致命傷を気にせず、本気を出せる環境を作り出すのが、仕事」


 そう。俺が求める魔術師は、最強などではない。誰かを守るために技術と努力を惜しまない魔術師なのだ。

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