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【三章】人魔の王
十七話
しおりを挟む瞬時に行われた思考共有の副作用による頭痛とは全く別物の頭痛が俺を襲った。
『これは……俺が悪いのだろうか……?』
グッタリとした表情で俺がこめかみを手で押さえていると、皆も同じような姿勢で首を横に振った。
「クッヒッヒ!! 喜びで声も出ないか!!」
過去の意識で見たカースの謎の前向きさは、今でも変わっていないようだ。
俺は平静を装ってカースに告げた。
「いや……お断りします」
「遠慮はいらんぞ」
「遠慮ではなくお断りします。愛妾になどなりたくもないし反吐が出る」
こういうのはハッキリと言った方が良い。変な駆け引きは無用だ。
だが、カースの思い込みの激しさを、俺はまだ甘く見ていたらしい。
「フフ、フハハ……大胆だなぁルービン……そうか、正妻を望むと」
「違う!!!!!」
冷静さをかなぐり捨てて叫んでしまった。いや、だって、ほんと、えぇ!?
都合の良い方向にしか考えが及ばないカースは、完全に俺が自分に惚れている前提で話を進める。
頼むから頬を染めて嬉しそうにするのはやめてくれ。
「わかるぞ、男の身で正妻を望むのは愚かな事だ。その本心を認めたくないだろう。お前は昔から分別のある王であった。だが心配するな、悪魔に頼めば子を孕む事もできよう。クフフッ……そうまでしてお前が俺のモノになりたいのであれば……ッフ……叶えてやらねば男が廃る」
その自信、世界中の人間に配ってやって欲しい。
俺が襲い来る眩暈と戦っていると、俺の前に四人の魔術師が出て静かに言った。
「意思疎通が不可能な魔物なので殺しましょう」
殺気が凄い。
人魔になった事で魔力が増大しているから、怒りで溢れ出た魔力によって四人の立つ地面がビシビシとひび割れていく。周りの草木も嵐にでも巻き込まれたかのごとくバッサバッサと葉や枝を揺らしている。
カースも四人に向けて強力な敵意を向け、電流でも走ったかのような刺激を肌に感じた。
「クッソ目障りなカス共め……折角ルービンから引き離したのに、まだ俺の邪魔すんのかァ!!」
「私達を退けたのに、何故生前のルービン様の前に現れなかったのですか? それでは私達を排除した意味がありません」
静かに怒りを滲ませたクワルクの言葉はその通りだと思う。四人を排除したくて穢れをばら撒いたのならば、俺に対して行動を起こすはずだ。
しかし、生前の俺は四人が塔に入った後は一度もカースと接触していない。
「ア゛ァ!? ルービンが俺に会いに来ねぇのが悪いんじゃねぇか! 跪いて俺の力を貸して欲しいと頭を垂れるのをずっと、ずっと待っていたんだぞ!!!」
思惑通りにいかずにカースは怒っているようだが、どこまで受け身なのだ、こいつは。
己の力を過信して、全て手に入ると思っている愚かな王子。思い通りにならなければ周りに当たり散らすだけの子供。カンタルの反抗期の比ではないカースの癇癪。
我が息子は立派に成長したというのに、時が止まった様に変化のないカースは哀れだ。
俺は可能な限り、丁寧に、ハッキリと言った。
「お前は俺の欲しい能力を持っていなかったから、何があってもカースを選ぶ事はない」
「……ハァ? 俺は悪魔召喚できる程の魔力を持っているんだ……喉から手が出る程欲しいだろう!?」
カースは何もかもを間違えている。俺は淡々と告げた。
「俺が欲しいのは膨大な魔力でも召喚魔術でもない。今無い力を生み出す探求心、繊細な技術だ。カースの潜在魔力は世界一かもしれない。だが、それを正しく使用できなければ意味がない。カースがどの魔法を使っても効果がほぼ一定だったのは、お前程の魔力を想定している魔法式じゃないからだ」
自分に合った魔法に調整していくために、常に研究が必要なのだ。
研究を怠ればただの凡人。家事に役立つ程度の魔法しか扱えない。
「お前がその魔力量に驕る事なく、己に適した魔法を研究できていれば俺も声を掛けただろう。俺が欲しいのはそういう者だ。カースの簡易召喚魔術は素晴らしいが、使用者が結局魔力を多く持たなければ意味がない。簡易なのに大勢の者が使えなければ“簡易”とは言えない。そこから改良があれば俺も興味を持っただろうが、それ以降の動きはなかった。俺にとってカースは“自分本位な魔術が限界のつまらない魔術師”と判断しただけに過ぎない」
ただ事実を感情なく言葉にして並べる。
俺は自分の知らない世界を見せてくれる魔術師が大好きなのだ。自分の世界に閉じこもっている魔術師に興味はない。
「何より王である“俺”を優先できる者でないと臣下にはなれない。カースはルービンを嫌っていたのだから、魔術師として雇ったとしても俺の側に居る事はできなかったであろうな」
「うるせぇ……うるせぇうるせぇええええ!!!!」
大地を震わせるほどの大きな咆哮だが、赤ん坊の泣き声程度にしか聞こえない。
世界を脅かした存在が、対峙してみればあまりにも幼稚で、もう俺はカースに対してひと欠片の怒りすら湧かなかった。
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