魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【三章】人魔の王

十五話

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 ゆったり町を巡回しているウルダ以外の二人は近くにいない。


「外ではリヴァロとクワルクが戦ってんのか」
「そう」
「では僕達も様子を見に行きますかね」


 結界を皆で通り抜けると派手な音が聞こえて来た。しかし、そんなものよりも目の前の惨状だ。
 地面から突き出した円錐状の土塊に大きめの狼のような魔物が突き刺さっている。それが大量にあるのだが、どれもこれも死んでいなくてもがき苦しんでいる。
 地獄だな。死なないように回復魔術が全ての土塊に刻まれているようだ。


「はやにえ……?」


 餌をこうして刺しておく鳥がいた気がする。ドン引きしていると、俺の姿を見付けてクワルクが駆けよって来た。


「ルーシャン! ルービン様の時は人間のみ不殺でしたが、ルーシャンの方針を聞いてなかったのでとりあえず魔物を生かしてありますがどうしましょうか」


 ふむ、もう俺は王ではないから一挙手一投足を気にする必要は無くなったが、人間から人魔に変化した今の自分の方針は確かに大切だ。
 基本方針が無ければ四人も動きにくいだろう。少しだけ思案し、俺は言った。


「人間と人魔は、法を通して裁きを受けさせるために不殺。魔物は意思疎通が可能かどうかで判断しよう」
「ではここにいる魔物は殺します」


 クワルクがそう言った瞬間に串刺しになっていた全ての魔物の全身から血が噴き出してグッタリした。
 土塊が崩れ、ただの土となってそのまま死体を覆い隠す。いきなり血の雨を降らせるのはやめてもらえませんかね。俺の顔にまで飛んできた血しぶきを袖で拭っていると、クワルクが木々の茂る右の方向を指差した。


「リヴァロはこの魔物達の親玉と戦っています。巨体で、尻尾が人食いワームになっている人狼のような魔物でした。背中と腹部と腕に鱗のような硬い物質が並んでいてそこそこ防御力がありますね」


 クワルクが示した先では、木が揺れたり砂埃があがったりしている。戦闘が続いているということはリヴァロが無事な証拠だ。
 その方向へ近付けば、リヴァロの倍の高さはありそうな魔物が素早い動きで爪を振りかざす瞬間だった。
 リヴァロが横に避けた瞬間、敵の人食いワームが噛み付こうとする。リヴァロは冷静に最低限の動きの手刀で叩き落とした。魔術師とは思えない戦い慣れた動きだ。素直にカッコイイ。
 相手は魔法も交えて攻撃をしているが、リヴァロは完全に体術だけで応戦している。だが、双方にダメージがあるように感じない。魔物が本気を出していないのだろう。リヴァロも探り探り対応しているようだ。


「リヴァロ」
「っと……みんな揃ったみたいねぇ」


 俺の声に、リヴァロはすぐに後方に飛んで魔物と距離を取った。
 その瞬間、鼓膜が破れそうな程の大きな咆哮が響く。魔物は牙をむき出しにした口からはボタボタと唾液が落ち、興奮したようにこちらを睨んだ。


「ルービン……ルービン!!!」


 うるさい。音の波動が全身にビリビリと響く。ルービンとハッキリ言ったな。やっぱり俺が目的なのか。
 過去の俺を名指しならば、手下ではなく黒幕本人の可能性が高いだろう。俺は一人で前に出て魔物に問うた。


「お前は何者だ?」
「アァン? なんだよ、わかんねーのかよ!! ギャハハッ!! まあ、下等生物に期待なんかしてねぇ、これならどうだ」


 魔物はガパッと大きな口を限界まで開くどころかメキメキと割き、裏返る喉の奥から人間の顔が出て来た。
 素直にキモい。だが、確かに顔には見覚えがある。不健康そうなクマが目立つ、癖のある黒い髪の男。
 それは俺の予想通りムフローネの王子だった。


「カース・マルツゥ王子」
「クッヒッヒ……魔力無しの下等種のクセに覚えていたか。褒めてつかわそう……今は王子ではなくサルドの王だがなぁ!」


 そう言ったカースはベキベキと嫌な音を立て、魔物の部分を剥ぎ取るように人間の姿を現していく。着ぐるみというか脱皮というか、魔物の姿と人間の姿の両方を取れるようだ。ヒョロっとした魔術師らしい猫背の男は、昔のままに見える。常に人を見下したような笑いを張り付けた顔も変わっていない。


「ヒヒ……なるほどなるほど、筋肉バケモノの時と違って今は魔力も持っているし、俺と同じ黒髪だぁ……!! 顔も良いし、若い……フフ、フハハ……」


 なんかわからんが俺の姿を見て喜んでいる。いや本当にルービンの時にカースとほとんど絡んだ事がないから意味がわからない。
 俺がどう反応して良いかわからずにいると、カースが下品な笑みを浮かべてこう言った。


「よし、良いだろう。下等種でなくなったのならば貴様を俺の愛妾にして可愛がってやろう。光栄に思えよルービン!!」


 …………は?
 あまりに一方的で理解を越えた言葉に、俺の時が止まった気がした。
 俺だけでなく四人とカンタルの呼吸すら止まったかのように一帯がシンと静まり返る。カース一人だけが下品な高笑いを森に響かせていた。


 この状況で一人冷静だったのはエダムだ。


『ルーシャン、こいつの思考を読み取った』
『仕事が早い、皆と共有してくれ』
『はーい。いくよ』


 エダムは勘が鋭い。それに人付き合いも得意だ。今思えばプレイボーイであるためにも人心掌握は必要だっただろう。とにかく感情や思考を読む事に長けている。

 それを魔術にも活かし、エダムは脳を一切傷付けることなく、精神に影響も出ない思考を探る魔術を開発した。
 少しでも魔力の扱いを誤れば対象は廃人になったり死んだりする危険な魔術ではあったが、繊細な技術にはエダムの右に出る者はいない。世間に発表せず、エダム専用の魔術として俺が認可した。

 だからこれは国家機密に匹敵する魔術だ。存在は俺達五人しか知らない。カンタルは今、初めて知る事になった。もう俺の国はないから関係ないし知られた所で問題はない。拷問などせずに平和的に情報を得られるため、エダムの魔術は本当に重宝したものだ。

 カースの思考や意識、記憶が俺達に流れ込んで来る。ほんの数秒の事だが、他者の感情に飲み込まれないよう意識を保たなければ──。

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