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【三章】人魔の王

十三話

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 俺とカンタルが抱き合って親子の触れ合いを漫喫していると、四人は次の行動に移ろうとしていた。


「私は町を見回ってきます。この町に悪魔が入り込んだという事実は変わりませんから」
「あ……ウルダも、行く。広範囲の魔術得意だし、町、守る」
「じゃあ俺は町の外で待機して敵襲に備えるかなぁ」


 俺が指示する必要もなく次々と自分で役割を決めていく。親子の時間を邪魔しないようにという気遣いもあるのだろう。できる男達だ。


「僕はこのまま研究所の護衛でいいかな。ルーシャンの守りも必要だし」
「そうですね、一人だけの配置ならばエダムが適しているでしょう」


 持ち場が決定したようだ。エダムだけが残り、三人はカンタルの作業部屋から出て行った。
 三人が町を見回ってくれるのならば、この町で何が起きたとしても素早く対処できるだろう。カンタルが築き上げた人魔の楽園を守れるはずだ。

 俺はカンタルの尻尾にくるまれるような形で座った。意外と座り心地が良い。エダムはあくまで警備をメインにするらしく、立ったままでいる事を希望した。
 まず、俺達がここに来た経緯をカンタルに説明する。俺が目覚めてからしばらくして悪魔の襲撃があり、カンタルの足を投げ渡してきたことを話した。


「そのフィオーレと名乗った悪魔が、召喚主の命令で俺の国を中心に穢れをばら撒いたと言っていた」
「悪魔か……そりゃあ、穢れをなかなか解決できないはずだね……」


 穢れがこの世界の物質ではないのだから、過剰な摂取で肉体や精神に影響が出るのは当然と言える。召喚主だって人間だ、被害は確実に本人にも出ているだろう。自爆覚悟の攻撃ほど怖いものはないと実感する。

 悪魔が勝手に人間界に来る事はない。必ず人間による召喚という方法を取らなければならない。
 召喚は魔術の基礎でもある。効果の持続時間を計りやすいからだ。
 魔術を学ぶ者にとって、悪魔召喚は教科書で必ず触れる存在といえる。だが“凄い人はこんなものを召喚できます”という紹介内の『高等な召喚例』で見る程度だ。普通の魔術師は悪魔召喚なんて考えもしない。
 だから自然と黒幕候補から凡人は排除され、当時の上位魔術師という事になる。上位魔術師はそこまで数が多くないため、もう少し情報があれば誰かわかりそうだ。


「カンタル。俺の死後に世界でおかしな動きはなかったか?」


 ここに歴史を直接見てきた存在がいる。とてもありがたい生きた情報源だ。カンタルは記憶を手繰り寄せ、思い当たる事を話してくれる。


「えっと、パパの遺言でユンセンパパの国はブルーミー国とすぐに合併できたから、実行は避けられたんだけど……魔力主義国がユンセンを襲おうとしてた」
「魔力主義……ムフローネ国か」


 ムフローネは、ウルダの故郷とは逆で、魔力を持たない人間の存在を認めない国だ。ルービンはムフローネの近くを通る事すらできなかった。
 穢れによって世界最高峰である四人の魔術師を封じ、更に王である俺が死ねばユンセンの制圧は容易だろう。ムフローネに限らず、ルービンの死を好機としてユンセンを狙う国はいくらでも現れると思っていた。
 だから俺は先が長くないと悟った段階で、シャウルスの先祖であるブルーミー国王に頼み、穏便に合併吸収の準備をしてもらった。カンタルに王という危険な立場を継承させる気はなかったし、書類上の親子関係も解消してあった。
 カンタルは俺のムフローネという呟きに頷き、話を続ける。


「でもね、ムフローネの王も王子も急死したとかですぐに国は衰えてしまった。今はコルシカという名前の中立国になっているよ」


 確か、ムフローネの王子は魔力の強い魔術師だったな。魔力無しの俺とほとんど交流がないから関係ないと思いたいのだが……。
 しかし、カンタルの次の言葉に俺は目を見開く事になる。


「今の時代、大っぴらに魔力差別をする国はほとんど無くなったと言ってもいい。ただ、そんな中、ここ三十年くらいで新しく魔力主義国が生まれたんだ。サルド国って言うんだけど……」
「サルドだって!?」


 つい最近聞いた言葉だった。
 あの悪魔は『フィオーレ・サルド』と名乗ったのだ。フィオーレの登場自体がサルド国からの宣戦布告なのだろうか。
 ユンセンを襲おうとした魔力主義のムフローネと、俺の前に現れた悪魔と同じ名を持つ魔力主義国が無関係とは思えない。
 随分ときな臭くなってきたようだ。

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