魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【三章】人魔の王

十二話

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 怒りなのか動揺なのかわからないが、ワナワナと震えるクワルクが俺を見て小声で叫んだ。


「どういうことですか!?」


 ここに来るまでに俺が冷静だったことにようやく気付いたのだろう。
 事情を知っているとでも思われたのかキッと睨まれてしまう。うむ、怒った顔も格好良いな。


「ドウドウ、落ち着けクワルク。俺に聞かれてもなぁ……合理的なお前には理解が難しいかもしれんが、悪魔とはそういうものだ。特に意味のない行動で反応を見て楽しんだりする。からかわれたと思うしかあるまい。まあ、カンタルに何も無くて良かったじゃないか」


 だが、フィオーレが完全に無駄な事をするとも思えない。何かの警告なのは間違いないだろう。
 単に俺達の行動が早くてまだ何も起きていないだけかもしれないのだ。気を抜かずにいた方がいい。
 握りこぶしに力を籠めてクワルクが悔しそうに言葉を吐き出した。


「ッ……私あの悪魔嫌いです!」
「はっはっは、クワルクがここまでカンタルの心配をしてくれるはなぁ」
「カンタルの心配などしていません! ルーシャンに会うまでに死んでもらっては困るからです、貴方のためであってカンタルのためではありませんから!」


 これがツンデレというやつか。可愛いなぁ。
 怒りが収まらないクワルクを宥めていると、カンタルもクワルク以外に四人も客がいる事に気付き、こちらを見た。


「おお、この前より増えとるのぉ。エダムにウルダまで来たのか。元気そうで何より……あっ……」


 俺を視界に捉えたカンタルの動きが止まる。
 この状況で四人と共にいる存在なんて一つしかいないだろう。見た目が変わろうと、カンタルは俺が何者なのかを瞬時に理解したようだった。
 俺達はしばし見つめ合い、そしてようやく口を開いた。


「……パパ」
「カンタ──うぇ!?」


 あ、え、ちょ、待って、今、パパって、パパって聞こえた!!!
 俺の欲望が生み出した幻聴じゃないだろうか。動悸が激しい。落ち着け俺。都合のよい夢かもしれない。ぬか喜びにならぬよう気を確かに持つんだ。
 カンタルは黙り込んでしまった俺を不安げに見つめて問いかけた。


「ぱ、パパ……だよね?」
「パパです!!!!」


 幻聴じゃなかったぁああ!!
 ウン百年越しの反抗期が終わったようだ。パパ嬉しい。
 だいぶ高い位置にカンタルの顔があるから見上げる首が疲れるが、それすらも成長への喜びだ。本当に立派になったな我が息子よ。


「カンタル……大きくなったなぁ」
「うん、パパより大きくなりたかったんだ。パパは……小さくなったねぇ……」


 皆小さい小さい言うが、ルービンと比べたら40cm縮んだというだけで、ルーシャンの175cmは決して小さい訳ではない。
 でもカンタルなんて3mはありそうだもんな。こればかりは小さいと言われても仕方がないかもしれない。
 しかし、どんな姿であっても、いつまで経っても子供の成長とは嬉しいものだ。
 ジッと俺の頭に生えた角を見ていたカンタルが微笑んで嬉しそうに言った。


「良かった……ちゃんと人魔化に成功したんだ」
「ああ、四人まで付き合わせてしまったがな」
「魔物ほどではないけど人魔も寿命が延びるから、同じになった方がいいよ。今度こそ一緒にいられるようにね」
「そうできるようになったのもカンタルのお陰なんだってな……本当にありがとう」


 俺はカンタルに近付いて胴体に抱きついた。カンタルも細長い蜘蛛の足で恐る恐る抱き締め返してくれる。


「ううん。全部自己満足だよ……パパにいっぱい酷い事言って、恩返しもできなくて、後悔しかなくて……。自分の気が楽になればって、ただそれだけだった……」
「ふふ、それだけと言いながら、俺なんかよりもよっぽど凄い功績をあげたんだ。カンタルがいなければ俺がこうして救われる事もなかった。さすがは自慢の息子だ」


 俺が死んでから、カンタルはどれだけ孤独の中で頑張ってきたのだろう。
 想像を絶する苦難があったはずだ。それでもカンタルは世界を変える程の偉業を成した。
 反抗期のカンタルに毎度苦言を呈していたクワルクが、今では俺以上にカンタルの心配をするようになった。それだけカンタルを認めていると言える。こんな未来は想像もしていなかった。本当に凄いことなのだ。


「パパ……ずっと素直になれなくてごめんなさい。本当はパパに、大好きだよって……伝えたかったんだ」
「わかってる。俺も大好きだよ。カンタルにも長い時を待たせてしまったな」


 皺が沢山刻まれた顔を更に皺クチャにして、カンタルが泣き出した。
 俺の前では幼い子供のままでいてくれるのが嬉しかった。
 お互い随分と見た目は変わってしまったが、やっと心から俺達は親子になれたのかもしれない。


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