魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【三章】人魔の王

十話

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 ドンドンドンッと室内全体に鈍い音が響き、砲撃でも受けたかのような衝撃があった。


「──なんだ!?」
「ルーシャン、服!!」


 轟音が耳に届いた瞬間に駆け出そうとしたが、リヴァロが慌てて魔法で俺に新しい衣服を纏わせる。
 普段のデザインをベースに戦闘での動きやすさを重視した格闘着だ。
 危険が迫った状況であれば全裸だろうがなんだろうが恥ずかしくはないが、いざ外に出てそうでなかった時は色々とマズい。リヴァロの行動によって俺は変質者にならずに済む。

 まだ断続的に音と振動が響く地上に出れば、建物を守っている結界に激しい魔法攻撃が襲っている。
 眼前の広々とした庭になる予定の空き地には、魔法の発生源を睨みながら結界を維持しているクワルクがいた。


「クワルク! 大丈夫か!?」
「ええ、ご心配なく。エダムは村を守りに行きました。ルーシャンの指示は的確でしたね。こんなに早く襲撃が起きるとは」


 もしも穢れが自然発生ではなく『元凶』が存在している場合は、塔の崩壊によって何かアクションがあるのではないかと考えていた。敵のアクションが想定よりも早かったが、俺の判断は正しかったようだ。
 目覚めてから即座に平和な時間が終わってしまって悲しい。

 俺が外に姿を見せると同時に、魔法攻撃がピタリと止んでいた。
 襲撃者の目的はどうやら俺のようだ。
 視界を遮る土煙が霧散した中心には、どこからどう見ても人間の子供の姿をした者が立っていた。その外見はとびきりの美しさを感じるのに、ゾワゾワと嫌悪感が湧き上がる。底が見えない異質さが人魔とも魔物とも違う。
 がこちらの世界とは別の世界の存在だとすぐにわかった。


「こんにちはぁ! ボクはフィオーレ・サルド。フィー君って呼んでねッ」


 明るくフィオーレと名乗った存在は、七歳くらいのミルク色の髪をもつ小麦色の肌の少年だ。
 だが、笑い方や大袈裟な振る舞いは子供を模しているのに全く子供らしさを感じない。
 この妙なアンバランスさは、元々決まった容姿を持たない存在の特徴だと聞いたことがある。経験上こういう場合、相手の言う通りにした方が良いと理解していた。


「こんにちは。俺はルーシャン。フィー君はこんな森の奥にまで一人でお使いに来たのかなぁ?」


 あちらがわざとらしい子供を演出しているのだ。俺も『子供をあやす大人』の対応にしておいた。フィオーレは愉快そうに笑った。


「アッハハッ! そうだよぉ~主の命令で四人の魔術師の生死確認。あとぉ、王復活の確認もね」
「ほう、確認なのに今の攻撃で死んだらどうするんだ?」
「エ~!? そんなのぉ、魔術師は塔の倒壊で死んでたし、王は復活なんてしてなかった~って報告するだけでしょ?」


 主人からの命令に対するいい加減さ。
 そうやって命令を都合よく解釈して召喚主を不幸に導くと言われている存在は一つだけだ。


「フィー君は……悪魔だな?」
「おおっ、正解~! ついでに言えばぁ、君達の言う穢れってやつをバラまいた張本人でもありまーす!」


 俺の国を中心に狙ったかのような穢れの発生には常々違和感があった。やはり元凶が存在していたか。
 黒幕がいるとある程度の予想はしていたため、クワルクも俺もさして動揺は無かった。ほぼ無反応な俺達の様子にフィオーレは不服そうに唇を尖らせた。


「もっと怒ると思ったのにぃ~つまんな~い!」
「悪魔という別世界の存在が、理由なくそんな大掛かりな事をする筈がないからな。召喚主の命令なのだろう。それならばフィー君を責めるのはお門違いだ。殺人鬼の道具を罰する者がいるか?」
「……ハッ、言ってくれるねぇ」


 道具と言われた事にイラッとしたようだが、すぐフィオーレは顔に笑顔を張り付ける。


「ボクに対して生意気な態度が取れるとは、さすがは王様だぁ。金色の獅子が黒い子猫ちゃんになって心配したけどなんの問題もなさそうだ」
「何が言いたい」
「エヘヘ、もし王が復活していたら、また大切なモノを奪ってやろうってね、ご主人が張り切っていたんだぁ~!」
「……四人に何かする気か?」


 四人を害するつもりならば誰であろうと容赦はしない。たとえ悪魔だろうが全力で止めてみせる。俺は拳を握り、前に構えた。


「ワオ、こわ~い! 殺る気満々! でもボクは君達に危害を加える気はぜんっぜんないよ~。キミタチにはね?」


 奇襲しておいてよく言う。しかし、確かに建物や周辺を破壊しただけで直接俺達を狙っていないようだった。
 フィオーレはニコリと笑い、どこからともなく細長く大きな物体を取り出して俺の前に放り投げた。
 ドサリと鈍い大きな音を立てて落ちたのは特大の蜘蛛の足のようだった。俺にはこれが何なのか理解できなかったが、クワルクが目を見開いた。


「貴様ァ!!」


 普段声を荒げる事のないクワルクがフィオーレを睨み付けて珍しく激昂した。

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