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【三章】人魔の王
二話
しおりを挟むこれからもする必要がある。
あまりに軽く言われて俺は固まった。その隙をついたクワルクに唇を奪われてしまうが、今の俺には文句を言う余裕もない。
「まずは人魔化のお話をしなければいけませんね」
俺の知らない新しい言葉が出て来たぞ。皆は俺が寝ていためちゃくちゃ広いベッドの上に座り、わかりやすく状況を説明してくれた。
四人の中では、穢れによる変化が制御できない場合を『魔物化』と呼び、制御できている状態を『人魔化』と呼んでいるそうだ。
穢れが世界に降り注ぐことはなくなったのだが、地に積もった穢れはまだ残っているらしい。しかし、今の世界では穢れと上手く付き合って、身体強化目的で人魔化を活用しているそうだ。
人間は本当に変化に強い種族だと感心してしまう。
「ちなみに、この人魔化の方法を確立し、人魔の地位向上に多大な功績を残した者の名をカンタルと言います」
「ふむ、カンタル……カ、ンタル……!?」
まさかと思って皆の顔を見たが、俺の目を見てしっかりと頷いてくれる。俺のよく知るカンタルで間違いないのだ。
「我が息子は……歴史に名を残すような偉業を成したのか……」
今、俺達がこうして魔物化を残しつつ人の意識を保っていられるのも、理性を失った俺がここまで回復したのも、カンタルが作った薬のお陰だという。
カンタルは俺の死後に大きく成長したらしい。転生しなければ知る事もできなかった事実だ。こんな幸せな事はない。
だが、リヴァロが顔の前に人差し指を立てて左右に振り、俺の言葉を否定した。
「歴史に名を残すのはこれからだなぁ。なにせカンタルは今も生きてっからな!」
「……ん? え? は?」
混乱している俺に、ウルダが説明を加える。
「わたし達と、同じ。魔物化して、長生きしている。まだまだ、現役で研究、続けてる」
「そうか……そうだったのか……」
魔物化している事には驚いたが、それでも生きているという事実は俺にとって嬉しいものだった。
カンタルには後ほど会いに行くとして、俺は潤む瞳を拭いつつも四人に話の続きをお願いした。
本題である俺の肉体の状態の話に入ると、クワルクとエダムが少し不機嫌そうに説明してくれる。
俺が自分を犠牲にする前提で四人の救出に動いていた事に怒っているのだろう。ごめん。
「さすがにルーシャンは無理に大量の穢れを取り込み過ぎました。体内で穢れが結晶化しており、薬を使っても、魔術浄化を試みても今以上の回復は見込めませんでした」
「それどころか……放置すれば少しずつ穢れが滲み出してくる。何もしなければルーシャンが世界に穢れを振りまく存在になってしまう。魔物化だってまたいつ起きるかわからない状態なんだよねぇ。だから、結晶化した穢れを活性化させないために、ルーシャンは今後も定期的な浄化を続けなければいけないというわけだ」
そう説明された瞬間、横からウルダが手を伸ばして俺の腹部に触れた。
「穢れが、結晶化している部分、ここ」
「ひゃっ……!」
ヘソの下辺りを急に撫でられて変な声が出てしまう。
俺の肉体的な魔物化が随分と減っていたから安心していたのだが、体の敏感さはまだまだ残っているようだ。
誰も俺の大袈裟な反応に対してツッコミを入れなかった事が救いだった。俺は恥ずかしさを誤魔化すように理解した部分を言葉にする。
「え、えっと……つまり、魔核に穢れが集まっているということだな……浄化の手段はあるのか?」
「はい、勿論です。なんと今も昔も、穢れを直接浄化できるような天才は世界に四人しかいませんが、全員同じ場所にいるので」
そう言ってドヤ顔するクワルク。わあ、やっぱりこの四人は時代が変わっても凄いんだぁ。
俺もさすがに四人が言わんとする事がだいぶわかってきた。更にエダムが情報を付け加える。
「魔力の源である魔核が完全に穢れの結晶で包まれている。ルーシャンは大気中の魔素を集めて消費した魔力を自然回復する事ができなくなった。せっかく生まれ変わって魔法が使えるようになったのに、他者から魔力を与えて貰わなければ魔法が使えない体になったというのは理解できるかい?」
なるほど、そういう影響もあるのか。俺は頷いた。
別に魔法が使えなくなっても構わないが、あれば便利なのは間違いない。魔力の有無の差は誰よりも俺が理解している。
王だった俺に魔力や魔法があれば救えたであろうものは多かった。いざとなった時に魔法が使えるに越したことは無い。
俺は真面目な表情をつくって最終的なまとめを口にした。
「つまり、俺の魔核付近にお前達が可能な限り接触し、魔力を注ぐと共に穢れの浄化も行う。それが定期的に必要になったのだな」
カッコよく言ってみたが、要するに『四人と定期的に中出しセックスをしなければ俺はまともに生活できなくなった』という事である。
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