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【三章】人魔の王
一話
しおりを挟む──ああ、本当に四人が。俺の知る四人がいる。
しばらくは皆の抱擁に癒されていた。この和やかムードである。
俺がルービンであると思い出した事で、完全に性的な空気も無くなっただろう。
あんな事故でもない限り中身がオッサンの男に手を出す必要はなかったのだ。四人にとっても塔での出来事は黒歴史だったに違いない。お互い正気じゃなかったから蒸し返す必要もないのだ。
全てなかった事にして、このまま良き友人として付き合っていこう。それが一番良い。
俺の心の整理がついた所で、抱擁を解いたクワルクが体を離して俺の頬に手を添えた。
そのまま何故か俺の顔にクワルクの端正な顔が近付いてくる。え、待って、様子がおかしい。このままではキスされてしまうのではないか。俺は慌てて迫り来るクワルクの唇に手を押し当てて動きを止めた。
「クワルク!? なっ、な、なにをしようとした!?」
俺がそう聞くとクワルクは唇を突き出して拗ねたような表情をした。
「キスですが」
「なんで!?」
いや本当になんでだよ。そういうのはもう必要ないだろ。
あ、もしかして角が残ってるからまだ正気じゃないのか。抗えない性欲が残っているのならば仕方ないとも言える。でも今は塔みたいに閉鎖空間じゃないんだから俺である必要はないと思う。
そんな事を考えている間に、横からエダムの腕が伸びてきて俺の髪を手に取って口付けた。驚いてその様子を凝視していると、エダムが気障な笑みをこちらに向ける。
「シャウルスとはこういう事をする仲なんでしょう? でしたらシャウルスよりも深い仲である僕達とは、更に多くのスキンシップをするべきかと」
「どういう理屈だ!? そもそもシャウルスとはそんな関係ではないし、今後もそういう関係になるつもりはない!」
なんだこのグイグイくる感じ。何を血迷っているのだ。
四人は俺から見ても、とても良い男なのだから相手なんて選り取り見取りだろう。
もう王に仕える立場でもないのだから、広い世界を見て欲しいのだが。
俺の困惑なんてつゆ知らず、更にウルダが俺の左手の甲に、リヴァロは右手の甲にキスしだすし、もう訳がわからない。
「本当~? 随分シャウルスはルーシャンに熱を上げてたし。交渉のために体を使ったりしてな~い?」
「ルーシャン、小悪魔……魔性……」
「し、してないよ! あ、あ、あんな事、お前達以外とは絶対無理だ!」
動揺し過ぎて余計な事を言ってしまった。自分の発言に数々の痴態を思い出して赤面してしまう。俺自身が蒸し返してどうする。
しかし、目の前にあるクワルクの顔は今まで見た事もないくらい良い笑顔を浮かべていた。
「全て覚えているようで何よりです」
「ぅ……忘れてくれ……」
「我が王の願いでもそれは難しいですね」
「お互い忘れた方がいいだろ!?」
ひどい。口だけでもいいから忘れると言ってくれよ。恥ずかし過ぎて顔から火が出そうだ。
俺はあんな事やそんな事を大切な臣下としてしまって気まずくて仕方ないのに、四人はむしろ嬉しそうにしている。いやいや、少しは元君主に手を出した事を気にしてもいいんじゃないか。
しかし、クワルクは俺が想像もしていなかった追撃をする。
「あはは、ルーシャンは恥ずかしいのかもしれませんが、これはもう慣れて頂くしかありませんね。今後もそういう事をしなければいけませんから」
「え」
えーっと、それってつまり『これからもセックスします』と宣言されたという事だろうか。
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