上 下
47 / 125
【二章】四人の魔術師

二十一話 ライバル クワルク視点

しおりを挟む
 

 婚約者。はいはい、なるほど。
 衝動的にテーブルをひっくり返さなかった事を褒めて欲しい。ルーシャンは何をしているんだ。
 自らを売るような事をして私達の待遇を良くしようなど、私達が喜ぶはずない。死ぬ前提だったから生きていた時の事はどうでもよかったのか?

 そもそもシャウルスは王族なのに男を伴侶にしている場合か。世継ぎはどうする。婚約者と言いつつ愛妾扱いだったら殺す。いや、本気の婚約でも全力で阻止するが。
 ハッ……時代は変化している。もしかして男も子供が産めるようになっているのか!?
 まあ待て落ち着け私。冷静になれ。この若造とルーシャンが婚約した意味を考えろ。我が王がなんの意味もなくそんな事をするとは思えない。きっと何か意図があるはずだ。
 私は努めて冷静にシャウルスに問いかけた。


「婚約者、ですか。その婚約に際しては一体どのような契約を交わしたのですか?」


 政略結婚ならば取り決めがあるだろう。まずはそれを探ろうと思ったのだが、何故かシャウルスがもじもじと顔を赤らめた。


「そんな政略結婚のような言い方はやめて欲しいな。恋愛結婚に契約なんてある訳がないだろう……」


 あ、これルーシャンは完全に口約束で逃げる気だ。悪い大人に騙されている純粋な少年が目の前にいる。
 契約書が無いのであればこんな約束事どうとでもなってしまう。
 私達に関連するもの全てに書類が存在しているのに、婚約に関してのみ書面で残していないなんて露骨過ぎる。恋愛結婚を強調して言いくるめられたシャウルスの事を考えると、私も他の三人も同情の視線を向けてしまう。

 ルーシャンというか、ルービン様は歴戦の王だ。まだまだひよっこのシャウルスでは交渉事でも勝ち目がない。
 しかも惚れてしまった相手との交渉ならば尚更だ。ルーシャンが自ら誘惑したとは思えないため、シャウルスに芽生えた恋心を察して利用したのだろう。本当に我が王は恐ろしい。だがそこが良い。好きだ。

 シャウルスの護衛達も気まずそうにこちらを見た。あちら側も口約束でなんの効力もない婚約だと理解して放置しているようだ。恋愛くらいは自由にさせてあげたい親心のようなものがあるのかもしれない。
 のらりくらりルーシャンが躱している間にシャウルスに正式な婚約者ができ、そこでルーシャンが身を引く。といった筋書きになっているのではないだろうか。

 まあ、ルーシャンを愛する気持ちは私達もよくわかる。眠っているルーシャンとの面会くらいは良いだろう。
 ライバルに対してといえど、その程度の余裕は持ち合わせている。私は改めて背筋を伸ばしてシャウルスに声を掛けた。


「シャウルス様。ルーシャンは二日前に目覚めた時に私達と会話をしましたが、記憶が混濁しており私達の事すら覚えていませんでした。それから再びルーシャンは眠り続けています。もしかしたら目覚めてもシャウルス様の事を覚えていないかもしれません」
「そ、そなたらの事すら……」


 ルーシャンが私達を忘れた事実に何故かシャウルスが大きくショックを受けた様子だった。
 私達の存在がルーシャンにとって特別である事を理解している証拠と言えるのかもしれない。
 ルーシャンがシャウルスに私達の事を頼んだ理由がわかった気がした。素直で大らかで、状況判断も正確にできる王なのだろう。
 背筋を伸ばし、居ずまいを正したシャウルスが真剣な面持ちで告げる。


「眠っているのであればーシャンの顔を見られるだけで良い。生きていてくれるだけで今は十分だ」
「……そうですか。ご理解に感謝致します。では、こちらへどうぞ」


 私達は地下の部屋にシャウルスと護衛の者を案内する。来客が大所帯になる事を想定して広い部屋にしておいて良かった。
 シャウルスはすぐにルーシャンの眠るベッドに駆け寄った。ベッドに腰掛けたシャウルスが、愛おしげにルーシャンの髪や頬を撫でる。シャウルスの熱の籠った視線は、ルーシャンに対する恋心を如実に表していた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

年下男子は手強い

凪玖海くみ
BL
長年同じ仕事を続けてきた安藤啓介は、どこか心にぽっかりと穴が開いたような日々を過ごしていた。 そんなある日、職場の近くにある小さなパン屋『高槻ベーカリー』で出会った年下の青年・高槻直人。 直人のまっすぐな情熱と夢に触れるうちに、啓介は自分の心が揺れ動くのを感じる。 「君の力になりたい――」 些細なきっかけから始まった関係は、やがて2人の人生を大きく変える道へとつながっていく。 小さなパン屋を舞台に繰り広げられる、成長と絆の物語。2人が見つける“未来”の先には何が待っているのか――?

ちょろぽよくんはお友達が欲しい

日月ゆの
BL
ふわふわ栗毛色の髪にどんぐりお目々に小さいお鼻と小さいお口。 おまけに性格は皆が心配になるほどぽよぽよしている。 詩音くん。 「えっ?僕とお友達になってくれるのぉ?」 「えへっ!うれしいっ!」 『黒もじゃアフロに瓶底メガネ』と明らかなアンチ系転入生と隣の席になったちょろぽよくんのお友達いっぱいつくりたい高校生活はどうなる?! 「いや……、俺はちょろくねぇよ?ケツの穴なんか掘らせる訳ないだろ。こんなくそガキ共によ!」 表紙はPicrewの「こあくまめーかー😈2nd」で作成しました。

ポメラニアンになった僕は初めて愛を知る【完結】

君影 ルナ
BL
動物大好き包容力カンスト攻め × 愛を知らない薄幸系ポメ受け が、お互いに癒され幸せになっていくほのぼのストーリー ──────── ※物語の構成上、受けの過去が苦しいものになっております。 ※この話をざっくり言うなら、攻めによる受けよしよし話。 ※攻めは親バカ炸裂するレベルで動物(後の受け)好き。 ※受けは「癒しとは何だ?」と首を傾げるレベルで愛や幸せに疎い。

転生したらBLゲームの攻略キャラになってたんですけど!

朝比奈歩
BL
ーーある日目覚めたら、おれはおれの『最推し』になっていた?! 腐男子だった主人公は、生まれ変わったら生前プレイしていたBLゲームの「攻略対象」に転生してしまった。 そのBLゲームとは、本来人気ダンスヴォーカルグループのマネージャーになってメンバーと恋愛していく『君は最推し!』。 主人公、凛は色々な問題に巻き込まれながらも、メンバー皆に愛されながらその問題に立ち向かっていく! 表紙イラストは入相むみ様に描いていただきました! R-18作品は別で分けてあります。 ※この物語はフィクションです。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

帝国妖異対策局
ファンタジー
盲目の亜人少女と転生少年の物語 ~握る手が心を結ぶ(良くも悪くも)~ 「ちょ!? ちょちょちょちょちょちょっと待て!?」  突然、現男爵が素っ頓狂な声で騒ぎ始める。 「俺の初めてはフォンの『筆おろし』なんだが!?」  ぼくは盛大にお茶を噴き出した。(第64話 異世界の昼ドラ)  勇者となって魔王を倒して欲しい――  美しい女神に頼まれた俺は冒険(ハーレム展開)のチャンス到来と気軽に引き受けた。  ところが、いざ転生という場面でこのルーキー駄女神が痛恨のエラー。    奴隷少年に転生した俺は冒険とは無縁の過酷な人生を送って死亡。  やりなおしの二度目の転生では王子になるはずが老王に転生。  三度目の転生、今度こそ勇者にと意気込んでいたら、  なんとこのスーパールーキー駄女神……    既に他の誰かを勇者転生させてしまっていた!   ☆この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

奴隷の僕がご主人様に!? 〜森の奥で大きなお兄さんを捕まえました〜

赤牙
BL
ある日、森の奥に仕掛けていた罠を確認しに行くと捕獲網に大きなお兄さんが捕まっていた……。 記憶を無くし頭に傷を負ったお兄さんの世話をしたら、どういう訳か懐かれてしまい、いつの間にか僕はお兄さんのご主人様になってしまう……。 森で捕まえた謎の大きなお兄さん×頑張り屋の少年奴隷 大きな問題を抱える奴隷少年に、記憶を無くした謎のスパダリお兄さんが手を差し伸べるお話です。 珍しくR指定ありません(^^)← もし、追加する場合は表記変更と告知します〜!

処理中です...