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【二章】四人の魔術師

二十話 婚約者 ウルダ視点

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「ルーシャンの依頼?」
「そう。塔が倒れたら“付近にいるはずの四人の魔術師を保護し、国民として認め、生活の保障をして欲しい”と言われていた。更に“四人は優秀だから仕事を依頼するくらいは構わないが、自由を制限するな”という誓約書まで書かされたんだぞ。どれだけルーシャンは過保護なんだと呆れたものだ」


 やれやれと大袈裟に肩をすくめて笑うシャウルスは年相応の子供らしさを覗かせる。
 塔から解放した後のわたし達が困らないよう、現王にまで直談判までしているとは。さすがルーシャンと言うべきか。普通ならやらない事だと思うが、自らが王であったからこそ、それが一番やりやすかったのかもしれない。
 ルーシャンにとって、シャウルスがわたし達を託すに相応しい相手と見込んでいるのなら警戒は解くべきだろうか。そんな事を考えていると、エダムが一礼してからシャウルスに声を掛けた。


「シャウルス様のご厚意に感謝致します。保護、と仰いましたが、もし可能であればここで居を構えたいと考えているのですが──」
「くはっ! ふふ……っ」


 そのエダムの言葉を聞いてシャウルスが噴き出した。
 突然の笑い自体に悪い感じはしないが、わたしは首を傾げてしまう。シャウルスは失礼、と数度咳払いをしてから理由を話してくれる。


「笑ってしまって悪かった。いやぁ、きっと四人はそう言うだろうと、ルーシャンがこの土地も買い上げているのだ。本当に予想通りの反応で驚いたよ。そういうことだから、このまま好きにするといい。元より誰も寄り付かない地だから活用して貰えるのはこちらとしてもありがたいくらいだ」


 シャウルスが目線で合図をすると、護衛が前に出て一つ一つテーブルに権利書や誓約書を並べていく。全てルーシャンがわたし達の生活のために交渉したものだ。
 目を通すと、こちらに不都合の無いようにしっかりと契約が交わされていた。
 元よりシャウルスは善人のようだが、それにしてもかなりの好条件が書き連ねてある。若き王を手のひらの上で転がすくらい、我が王ならば難しくなかったという事だろうか。
 話が上手すぎるような気がして何か引っ掛かるが、こういうのはエダムとクワルクに任せるに限る。
 シャウルスが椅子に座りながらも、膝を動かしてソワソワと落ち着かない様子なのも気になっていた。


「……ところで、ルーシャンはどこだ?」


 書類をこちらが確認し終えたあと、シャウルスは今までよりも弾んだ声でそう言った。


「本人から、塔が倒れた後にどこへ行くかは聞いていないのですか?」


 クワルクが間髪入れず質問に質問で返した。本来ならば『地下にいます』と答えるべきだろうが、どこまでシャウルスが情報を持っているのかを探るためにあえてそう聞いたのだろう。
 シャウルスはこちらの無礼な返しにも気にする事もなく答えてくれた。


「ルーシャンは死ぬつもりだったみたいだからな。余には死体の扱いばかりを細かく話していた。だから死体があるのであればこちらで預かる事になっている」


 ルーシャンは自ら取り込んだ穢れが何らかのミスで拡散しないための保険をかけていたようだ。だが、ルーシャンもわたし達も生きているし、取り込んだ穢れの対処も済んでいる。


「そうでしたか。では死体が見つかればお知らせします」


 クワルクはいけしゃあしゃあと笑顔でそう言ったが、シャウルスも引くつもりはないらしい。クワルクに負けない笑みでこう言った。


「よろしく頼む。と、言いたいところだが聞き方を変えようか。ルーシャンは生きているんだろう?」


 今度は躱されないように直接的にシャウルスが聞いてきた。嘘はつけないのでクワルクは小さくため息をついて頷いた。


「……ええ、生きています」
「会いたい。どうかルーシャンに会わせてもらえないだろうか」


 そう真摯に告げられてしまえば、さすがにクワルクも拒否できない。
 しかし、クワルクも先程わたしが感じた妙な引っ掛かりを感じているようだ。ニコニコとした笑顔の裏でルーシャンに会わせたくないという感情が伝わってくる。
 無駄な抵抗と知りつつクワルクはシャウルスに質問した。


「ルーシャンが生きていた場合のお約束もされているのですか?」


 その問いに、シャウルスはニヤリと勝者にでもなったように笑った。


「勿論だ。ルーシャンが生きていれば余の伴侶となる約束をしている。つまり余はルーシャンの婚約者というわけだ」

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