上 下
43 / 125
【二章】四人の魔術師

十七話 目覚め リヴァロ視点

しおりを挟む


 エダムとウルダが切った髪をまとめ、結界の端に積み上げる。髪の束って結構重いな。良い筋トレだと思って俺とクワルクもどんどん並べていく。
 出来る限りの処理をしても穢れが結界内を浮遊しているのがわかる。
 せっかくルーシャンが俺達から穢れを全て取ってくれたけど、ルーシャンから溢れ出る穢れは再び取り込むと四人で決めていた。
 魔物ではなく人魔という種族になると思えば怖くない。薬もあるし、理性を失う事はないという安心感もある。

 瓦礫の撤去に比べると作業は早く進み、空が暗くなる前にルーシャンに触れられるまでになった。俺はルーシャンの手を握り、しっかりとした温かさを感じて涙が出そうになる。
 本当に昔から無理をする人だ。俺達が支えなければいけないと改めて感じる。


「クワルク、頼む」
「ええ、任せてください」


 クワルクがベッドに手を掛け、ルーシャンの唇に口付けた。そしてゆっくりと片手で服の上から胸や腹を撫で探る。別にクワルクはいやらしい事をしている訳ではない。
 ルーシャンはカードを使って穢れを自分に移していたが、受信機のような物が体内にあるはずだ。それがあると周囲から穢れを意図せず吸い取ってしまう可能性が高いため、クワルクが取り除いてくれるのだ。


「ん……ッ……ん」


 眠っているルーシャンが身じろいだ。クワルクが唇を離すと、赤色の宝石を咥えていた。さすがクワルク、作業が早い。


「リヴァロも頑張ってください」


 クワルクと場所を交代し、俺は自分で改良したカンタルの薬を口に含み、ルーシャンに口移しした。薬の流れをガイドに、俺はルーシャンの体内にある正確な魔核の位置を把握し、口内から魔力を流し込む。
 俺達の穢れを取り込み、魔核を中心に穢れを凝固させている。
 これを溶かす事ができるのがカンタルの薬なのだが、あまりに固くなり過ぎていれば薬だけでは溶けない。俺は直接、凝固した部位に魔力で干渉して薬の範囲以上の効果を出すのが役目だ。
 ルーシャンのヘソの下辺りに手を添え、少し力を籠めるとルーシャンの体が小さく跳ねた。


「はぁっ……あ、ん……んぅ……」


 ルーシャンの中から溶けた穢れが流れ出てくるのがわかる。俺はしっかりそれを口で受け取った。飲み込み続け、まるで酒に酔ったみたいにフワフワしてきた時に、エダムが俺をルーシャンから引き剥がした。


「これ以上は危ないよ。交代だ」
「ッ……あ……サンキュ、助かった」


 可能な限り魔核にこびりついた穢れを剥がせたと思う。あとは三人にも受け取ってもらうだけだ。
 王は全て自分だけで背負い込もうとした。まるで自分を罰するように。
 だけど、俺達はそれを受け入れる事はできない。また、王と共に生きたいのだ。側にいて、貴方を幸せにしたい。


「う……久し振りの感覚……ウルダ、よろしく」
「わかった」


 エダムも穢れに酔ったようでフラフラしている。それでも昔みたいに極端な肉体の変化がない。カンタルの薬の効果の凄さを実感する。

 交代したウルダがルーシャンに口付けた時、ルーシャンの頬の割れが無くなっている事に気付いた。ルーシャンの穢れは着実に減ってきている。
 次にウルダがクワルクと交代する頃には、ルーシャンの黒かった脚も元通りになっていた。クワルクの番も終わり、最終的にはルーシャンの赤い宝石のような角だけが残った。俺達も宝石のような角が生えただけで済んだ。形も色も違うけど、お揃いのようで嫌な変化ではなかった。

 精神面に変化があるようにも感じない。最低限の変化で穢れを分け合う事に成功したと言える。
 俺はルーシャンの眠りを解く魔法をかけた。効果が出るまでの時間はほんの数秒だったはずなのに、とても長い時間に感じた。
 ルーシャンの瞼がゆっくりと開く。
 パチパチと数度瞬きをし、気だるげにルーシャンが体を起こした。


「ルーシャン……」


 俺が名前を呼ぶと、こちらを向いた。それからルーシャンはウルダを見て、エダムを見て、クワルクを見た。
 ルーシャンが再び俺の顔を見て、しっかりと俺達四人の姿を確認した上で、こう言った。


「お前達は、誰だ……?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...