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【二章】四人の魔術師
十五話 漆黒 ウルダ視点
しおりを挟む表情を引き締めてわたしは咳払いした。
「……話、続けて」
「ええ。犯罪者にも好きで犯罪を行う者と、貧しさゆえに犯罪に手を染めなければならなかった者がおります。今集まった者達は後者です。ルーシャン様は捕えた者一人一人と話し、更生が可能だと判断したら、軍を通した上で生きて罪を償わせてくれるのです」
なんの後ろ盾の無いならず者なんて、捕えておくだけでも金がかかる。盗賊は基本的にはろくに裁判もせず処刑されるのが一般的だ。
しかし、人を財産と考える王ならば生かそうするだろう。あの人は自分の事をただの冒険者と言っていたような気がするけど、明らかに個人でやる範囲を越えている。
「私達は罪を償っている途中なのです。この村もね、数か月前までは廃村だったんですよ。魔物四天王が住まう塔と言われるこの周辺からは人が減っていたので、ルーシャン様がこの土地を買い上げ、住処として与えてくれました。決して楽な生活ではありませんが、物や金を奪わなくても暮らせるようになりました。それがどれだけありがたいことか……それでまあ、私達を人間にしてくれたルーシャン様のためなら助力を惜しまない者が多いという訳です」
わたし達は何もしていないのに次から次へと手が差し伸べられる。
結局ルーシャン自らの行いが全て本人に返ってきているのだ。さすが我が王だ。勝手に誇らしい気持ちになってしまう。
村長は四人分の食料を詰めた籠を渡してくれた。クワルクがそれを受け取り、行動を開始する。
「助かります。すぐに塔へ向かいましょう」
「もちろんです! 急ぎましょう!」
外の集団の前へ出た村長の号令で、集まった者達は綺麗な列を作った。
想像よりも統率が取れていて驚いた。訓練でもしたのだろうか。優秀なのは良い事だが、ルーシャンへの強い感情があるのだとしたら、少しモヤモヤする。わたしは直球で村長に聞いた。
「村長、ルーシャンのこと、好き?」
「え? はあ、まあ……?」
「可愛いな、とか、思ってる?」
「か、かわいい!?」
ビクリと肩を震わせて青ざめている様子を見る限りは思ってなさそうだ。良かった。
「思ってないなら、いい」
「あはは、ウルダ様は面白い事を言いますね。ルーシャン様を尊敬はしてますけどカワイイとはさすがに……」
何故か他の男達もウンウンと頷いている。あんなに可愛いのに不思議だ。
リヴァロも同じように思ったのだろう。村長に質問した。
「え~? ルーシャンになんかされた?」
「そ、そうですねぇ。私は鼻の骨と奥歯を二本ほど折られていますし、基本的に泣いて投降するまでルーシャン様は攻撃の手を緩めないので……皆少なからずトラウマを持っているかと。戦闘以外ではお優しいのですがね……ははは……」
ああ、納得だ。ルービン様は戦闘で基本的に相手の命は取らないが、命以外は容赦なく取っていく。
魔力無しは舐められやすい。だから徹底的に相手を叩きのめすのだ。
それが今でも変わってないとわかり、わたし達四人は微笑ましくなった。
村長はわたし達の和やかな空気が理解できないのか、話を続けた。
「殴られ続けると意識が遠のいて目の前が真っ暗になっていくじゃないですか。ルーシャン様と対峙すると、必ず視界が漆黒に包まれるから漆黒のルーシャンなんて呼ばれているんですよ……」
「えっ、その二つ名って外見由来じゃなかったのかよ!?」
エダムのツッコミはわたし達みんなの心の声でもあった。
ちょっとした世間話でルーシャンから二つ名が恥ずかしいとは聞いていたが、なんだか情報が違う。
「いやいや、もっと黒ずくめの人なんて沢山いますからね。倒された者達から広まった呼び名なので本人は知らないかもしれませんねぇ」
ソロ冒険者なんて危険ではないかと心配だったけど、なんの問題もなかったようだ。
それに、可愛いルーシャンを知るのがわたし達四人だけだとわかって嬉しかった。
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