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【二章】四人の魔術師
十三話 魔物 エダム視点
しおりを挟む「なるほど……だからか」
僕は魔物を何体も解体して穢れによって影響を受けている部位を調べていた。
昔の穢れは粉塵のように細く舞い散るものだったため、とにかく全身に巡るのが早かった。流れを制御できない人間は、あっという間に穢れが全身を浸食して人の姿を保てなくなる。
例えるなら、一般人の体内に1人部屋が3室あるとして、穢れという客人によって3室同時に埋まると完全に魔物化する。2室同時に埋まっても、1室空室ならまだ回復の見込みがある。
僕達4人の魔術師は体内に客室が100部屋くらいあり、更に1人部屋に穢れという名の客人を無理矢理50人くらい押し込んでいたから、完全に魔物化せずにいられた。
ルーシャンが過剰に穢れを取り込んでもギリギリの状態で理性を保てたのは、この方法を知っているからだ。
しかも今の穢れは、生物が魔力を生み出す器官である魔核に集まり、全身に行き渡らないように自らを制御しているようだった。
魔核は基本的に丹田という生殖器付近にあるので、穢れを取り込み過ぎれば性欲に大きな影響を及ぼしていくようだ。ルーシャンがどんどんエロくなった理由はこれなのだろう。
魔物化し、生物が食欲だけで殺し合えば宿主が減ってしまう。それよりも性欲を残した方が生物は減りにくい。少しずつ穢れも生物も変化して共存できるようになったというのが僕の想像だ。
「大体こんな所かなぁ……」
魔物の解体程度ではこれくらいの予想が限界だ。次に僕ができるのは、村人の協力を得て身体検査させてもらうか、クワルクとリヴァロの情報を待ちつつウルダの手伝いといったところか。
僕はとりあえず近くで作業しているウルダに声を掛けた。
「ウルダ、そっちはどうだい。ルーシャンの手掛かりは見つかった?」
「あ……うん。多分、ルーシャンは、地下にいる」
「根拠は?」
「肉虫の反応が全くないのは、おかしい。生命である以上、死んでても生きてても、何かしら残滓が残る。でも、まるで、存在していないみたいに、消えてる」
ウルダはとても器用に魔力を扱えるので探し物が得意だ。人間くらい大きな反応なら僕でもわかるけど、肉虫のような微細な生命反応を感じ分ける事はできない。ウルダの繊細な能力には感心してしまう。
「ルーシャン、余裕なかったから、塔にある物を使うしかない。王の部屋をルーシャンは、自分で改造したと思う。ここまでなんの反応もないの、それくらいしか考えられない」
「ははは。王の部屋は僕達の最高傑作だもんね」
あまりに塔の生活でやる事がないから四人の共同開発で誰にも感知できない部屋を作ってしまった。
ちゃんと使ってくれて嬉しいけど、ルーシャンとなった王が魔力を使えるようになって部屋に手を加えてしまうとは。僕達は王を少し甘く見ていた。
「ルーシャンだけじゃなく、肉虫も消えた。だから一緒の場所にいるはずって、思ったから……地下」
あの状況で遠くに身を隠すのは難しいだろうし、ウルダの意見に賛成だ。部屋の所有権をルーシャンに渡してしまった今、僕達自身も簡単には感知できなくなっている。もちろん製作者として部屋を把握できる機能は用意してあるが、四人揃ってないと何もできない。今はおおよその場所にあたりをつけて、安全を確保する事が最優先だ。地下ならば上にある瓦礫を撤去しなければいけない。
「オッケー。じゃあこの山のような瓦礫を退かさないとだねぇ」
「うん……でも、いくら魔法、あっても、二人だと大変……」
それもそうだ。地上10階建ての塔だったのだ。瓦礫の量は半端じゃない。四人で頑張ってもかなり時間はかかるだろう。塔が崩れた事は周辺の人間も気付いているだろうし、時間をかければ外部から邪魔が入る可能性がある。
はてさて、どうしたものか。とりあえず今日できる事は互いにやった。一旦帰って仕切り直した方が良い。
「もう今日は暗くなるし、村に帰って誰か手伝ってもらえないか聞いてみようか。冒険者を雇ってもいいしね」
「ん、そうしよう。あ……カシュの生命活動、とても一定。ルーシャン、休眠態勢なのかも」
「冬眠モードみたいな?」
「そんな感じ。安心しても、大丈夫」
たとえ時間がかかってもルーシャンの命に問題はないと言いたいのだろう。そういう情報はとてもありがたい。だが、それはそれとして既にルーシャンが恋しい。
「ねーウルダ」
「ん……?」
「ルーシャンと会えたら何したい?」
村へ帰る道中。突然の僕の質問にウルダは数度瞬きをしてからハッキリ答えた。
「セックス」
「んふっ……マジで……?」
「エダムも、そうじゃないの?」
首を傾げて聞くウルダ。全く悪びれる様子がないのだから凄い。でも実際僕だって言葉を取り繕った所で最終的にそこに行き着くと気付いた。ウルダは僕の返事を待たずに言葉を続ける。
「もちろん、ルーシャンが望まないなら、しない。ルーシャンの気持ちが一番大事。でも、何も言わず、望まずに後悔するのはもう、嫌だから……気持ちにもう嘘は、つかない」
その通りだ。カッコつけて良い事なんてなかった。僕もウルダを見習うべきかもしれない。
ルービン様とできなかった事。ルービン様に伝えたかった事を、もっと素直に伝えたいと思った。
一度死んだようなものだ。今更怖いものなんてない。
「そうだね……うん。僕もセックスしたいな。遠慮して、良い子ぶって後悔するなんてもうしたくないや」
僕がそう言うと、ウルダが誰に聞かれる訳でもないのに僕の耳元に口を寄せて小声で囁いた。
「エダムだから言った。クワルクに聞かれるとお説教されそうだから、言わない」
「あははは! その通りだ。じゃあお互い、ここだけの秘密ってことで」
小指を立てて差し出すと、ウルダは子供みたいに笑って指切りをした。
そういえば付き合いは長いのに、ウルダとこんな俗っぽい話をした事がなかった気がする。
数百年を経て、仲が深まった気がして少し胸がくすぐったかった。
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