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【二章】四人の魔術師
十話 人魔② クワルク視点
しおりを挟む「魔物化……ではないのですか」
「博識ですね。昔はそのように言うこともあったとか。その時代は命を脅かす大変な現象だったらしいですが、今はそこまでの脅威ではありませんよ」
当時の穢れは、命どころかこの大陸に住まう人類全ての存続が危ぶまれるレベルの脅威だったのに凄い変化だ。
穢れが降り注がなくなっても名を変えた穢れがまだ世界に存在しているのも面白い。私は村長に更に話を聞く。
「どういった時に人魔になるのですか?」
「坑夫がよくなりますね。炭坑や鉱山などで昔の地層に何か含まれているのか発症する事があるんです。子供の土遊びでもなる事があるので、ここら辺では誰もが一度は罹るものですよ」
降り注いだ穢れがそういう形でまだ残っているのか。魔物化と同じ現象なのに随分と軽い扱いになったものだ。いわゆる弱毒化というやつだろうか。穢れがこの地で共存を選んだのか、それとも人間自体にも変化があったのか。
この大陸は穢れによる被害が最も大きかったから、生き残った民に抗体ができている可能性は高い。
私は質問を続ける。
「坑夫がとても危険な職ということになりませんか。人魔が恐ろしくないのでしょうか」
「魔術研究所で治療薬が無償で提供されていますから、余程放置したり症状が進行しなければ基本的にはすぐに完治しますよ」
魔術研究所。その治療薬にルービン様が何らかの形で関わってそうだと直感した。私達がいなくてもあの御方はできる事を全力でやったのだろう。
しかし、治療薬があるとはいえ、ルーシャンは今の世界ではあり得ない量と質の穢れを取り込んだ。ルーシャンの完治は難しいのではないだろうか。不安が襲ったが、村長は明るい声で言った。
「意識を蝕まない程度でしたら治療せずに放置している人もそこそこいますね。重症化しても、意識を回復させて治療を終える人もいます。わざわざ人魔になる事を望む人もいるんですよ」
私もリヴァロも村長の言葉に目を見開いた。何度もリヴァロと顔を見合わせてしまう。
「それは……どういう……?」
「んふふ、いや……まあ、あまり大きな声では言えないのですが……不能者のアレが回復するとかで……」
「ン゛ッ……!」
私達はルーシャンのどエロい様子を思い出してしまった。噎せそうになるのを必死で堪える。
「はっはっは。そんなに人魔に興味がおありでしたら炭坑の町を教えますよ。風俗街がとても発展していて観光地としても人気なのでね。今地図をお持ちしますから、少々お待ちを」
そう言って村長は地図を持って来て場所を教えてくれた。人魔という現象で性欲が強まるというのは共通認識なのだ。
人魔についてルーシャンは知っていたのだろうか。
いや、知っていたらアミュレットではなく最初に治療薬を試していただろう。
ルーシャンも塔へ向かう前に現代の穢れを調べはしただろうが、そもそも穢れという言葉が使われていないのだから情報にたどり着けなかった可能性が高い。下手に穢れに詳しいのが仇になったと言える。
ルービン様がルーシャンという別の大陸の人種になってしまったのも人魔に触れ合えなかった大きな原因だろう。
別に風俗街に興味はないが、人魔が普通の世の中になっているのであればルーシャンを正気に戻す事は不可能ではなさそうだ。
その手掛かりのためにも私達はすぐに炭坑の町へ向かった。
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