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【二章】四人の魔術師

十二話 王の息子② リヴァロ視点

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「わしは王を父と呼ぶ資格などない。それでもどうにか受けた恩くらいは返したかった。たとえ何百年かかろうとも、いつかこの研究が実を結ぶと信じてここまで生きた。お前達がいたらもっと良い物が作れただろうが、今から穢れの全てを0から調べるよりマシなはずだ。どうせあの人は今も無理をしているのだろう……王を救う手助けになれば良いのだが……」


 今ならわかる。カンタルのこの魔物化した姿は、自らを実験台にして穢れの研究をしていた結果なのだろう。凄い執念だ。
 この地に残った穢れとの共存方法を確立し、人魔という存在を異質なものとせずに世間に受け入れられる土壌を作ったのだ。
 カンタルは世の価値観をつくり変えた偉人だ。ルービン様の背中を見て育った子供だというのがよくわかる。


「めちゃくちゃスゲーよ……一番欲しかった情報が一気に集まった」
「ええ、ええ……素晴らしいです。なんと感謝を伝えたら良いか……本当にありがとうございます」


 俺とクワルクが感謝を告げると、カンタルは首を横に振った。


「感謝するのはわしの方だ。よくぞ戻ってきてくれた……エダムとウルダにもよろしく伝えてくれ。王を亡くし、いくら行動を改め努力しても、わしはお前達魔術師のように天才ではなかったからな。これだけ情報を揃えるにも数百年かかってしまった。王に愛されているお前達四人に嫉妬していた自分がどれだけ幼稚かわかったよ」


 その嫉妬は幼いカンタルから感じていた。
 しかし俺達からすればカンタルは、何も持たない凡人が無条件に王の寵愛を受けているのに、反発を続ける贅沢な存在だった。

 ルービン様はカンタルに何かを望んだりしなかった筈だ。悪い意味ではない。ただ健やかであれとルービン様は願っていた。
 それでも王の亡き後、誰に言われるでもなく穢れについて研究を続けたのはカンタルの強い意志だ。
 今のカンタルは凡人などではない。俺達以上の努力の天才だ。研究者として尊敬する存在に成長を遂げていた。

 俺は同じ研究者としてカンタルに聞いた。


「カンタルの意見を聞きたい。四人分の長年の穢れを一人で取り込んだ場合、完治の見込みはあるか?」


 俺の言葉にカンタルは顎に蜘蛛の手をかけ、少しだけ思案してハッキリと言った。


「……まあ、難しいだろうな。だが王の肉体は現代の人間なのだ。わしやお前達よりも穢れに対する耐性が強いはず。それに天才魔術師四人が揃っているんだ。完治はできなくても、人魔程度には戻せるだろうさ」
「専門家の意見は助かるね。それで十分だ。あと……なんかさぁ、俺らを知ってる存在がいるってのも、やっぱり嬉しいもんだな」


 少し照れくさいが、正直な気持ちを伝えた。
 カンタルもこの反応は意外だったのだろう。驚いた顔をしてから、静かに笑った。


「そうかい、長生きはするもんだ……わしもやっと眠れ死ねるよ」


 やり切った顔をして、カンタルはそんな事を言う。放っておくと今にもポックリ逝ってしまいそうだ。俺は苛立ちながら叫んでいた。


「バカ野郎、寝るのは王に……ルーシャンにちゃんと『パパ』って言ってからにしろ!」


 ルービン様はカンタルにはそんな素振りを一切見せていなかったが、俺達の前で一度だけ『いつかパパって読んでくれるかなぁ』と零していた。
 その願いが叶う事もなく全てが引き裂かれてしまったが、今なら可能なのだ。
 せっかく親子が生きて再び出会えるこの機会を逃してはならない。そのためにも俺達は早くルーシャンを見付け、正気に戻さなければ。
 カンタルはポリポリと頭を掻いて困った顔をした。


「んん……この年でさすがにパパはちょっと……」
「子供の時に言っておかなかったツケだと思いなさい」


 説教でもしているような厳しい口調のクワルクの言葉に、カンタルは渋々「はぁい」とそっぽを向いて子供みたいな返事をした。
 これは自分が悪いとわかっていながらも素直になれない時によくやる態度だ。
 昔はそんな反抗的な態度にイライラしたものだが、今はその懐かしさに俺の目頭が少しだけ熱くなった。

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