魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【二章】四人の魔術師

十一話 王の息子① リヴァロ視点

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 クワルクと俺が訪れたのはパニールという町だった。
 山と煙突と賑やかな声が目立ち、穢れが舞っているのか空気がどんよりとしている。しかしそれ以上に民が明るく常に活気があるという印象だった。

 村長が嘘をついているとは思ってなかったけど、実際に魔物化……いや、人魔となった存在が当たり前に生活している町を見ると驚きが隠せない。
 住民達はあまりにも堂々と変化を晒していて、角が生えていたり鱗が一部に生えているというのはファッション程度の感覚なのかもしれない。
 肉体的変化が1~2ヵ所なら軽症らしい。治療ではなく、それ以上の進行を食い止める薬を服用するのがこの町では当たり前のようだった。
 
 俺も長年魔物だったからわかるけど、魔物になると体力が漲り、身体能力も人間の時よりも格段に上がる。パニールの民はその性質を好んで利用しているのだ。
 
 
 大都市という訳ではないのに魔術研究所があるのが気になっていた俺とクワルクはひとまずそこへ向かった。
 研究所と言いつつも、そこは数人の魔術師がいるだけの小さな診療所のような所だった。
 一番立場が上の者に会いたいと受付に言うと、水晶球を覗くように指示された。言われた通りにすると俺とクワルクはすぐに奥に通される。カーテンをくぐると、そこには大きなソファに座る3m以上はありそうな魔物がいた。

 さすがに俺はこの存在を人魔とは言えなかった。どう判断しても魔物だ。
 人面竜と表現すれば良いのだろうか。頭だけは人間で、首から下は完全に他の生物だった。首から胴、背中の羽根はドラゴンだが、手足は蜘蛛のように細長いものが20本付いている。尻尾は頭のないムカデのような見た目だった。肩には取ってつけたようなゴリラのような太い腕が生えていてデザインにまとまりがない。
 頭部だけは70代くらいの老人だ。俺はその顔に見覚えがあった。俺が口を開く前に老人が声をかけた。


「クワルク、リヴァロ。久しいな。まさか本当に助かるとは……」
「お前……やっぱり、カンタルか!?」


 ルービン王と同じ金色の髪を持つ老人。俺の知る姿とはかなり異なるが、カンタルはルービン様の養子だ。

 行商人だったカンタルの両親が魔物化し、道路の真ん中でカンタルを食い殺そうとしていた。
 その場に駆け付けたルービン様がカンタルの両親を退治し、カンタルを救った。しかし幼いカンタルは、何故もっと早く来て魔物になる前に両親を助けなかったとルービン様を逆恨みしていた。
 ルービン様はずっとカンタルに謝り続け、養子にして育てた。5,6歳の子供の癇癪と言えど、王に悪態をつき続ける幼稚なカンタルが俺達四人は嫌いだった。

 俺達が塔に入るのはカンタルが養子になった3年後だ。その時にもまだ愚かなままだったカンタルが、何故魔物になってまで生きているのか。
 クワルクですらなんと言葉を発すればいいのか戸惑っている様子だ。
 俺達の動揺を気にする事なくカンタルは問いかけた。


「お前達が人間の姿だという事は……この世にルービン王がいるのか」
「ああ。ルーシャンという青年に生まれ変わってるよ。俺達の穢れを奪ってどっかに行っちまったけどな」
「ふふふ。いつまで経ってもあの人はお前達の事しか考えておらんのだな……まったく忌々しいのお」


 忌々しいなどと言いつつ、カンタルの声は明るく、笑いを含んでいる。さすがに何百年と生きているのだ。幼さなどある筈もなく、王とも言える風格を感じる。


「お前達がいなくなってからのルービン王は本当に哀れで見ていられなかった……塔が稼働してから5年くらいで王はポックリ逝ったよ。少しずつ塔の結果が出始めた時だ。安心して張り詰めていた糸が切れたのだろう」


 そんなに早く亡くなっていたのか。とても元気で殺しても死ななそうな人だったからショックだ。カンタルも当時を思い出しているのか、寂し気に瞳を伏せた。


「わしは……王がまさか大切な臣下を犠牲にしてまで世界を救うなんて思わなかった。そんな王の行動を見ていたら、いくら愚かなわしだって改心くらいする」


 カンタルは、俺達の穢れを一身に受けたルーシャンのために惜しみなく大量の薬を俺とクワルクに渡した。
 それだけじゃなく、この数百年の穢れの変異や人間の肉体の変化など、俺達が欲しかった情報をまとめた資料も全て預けてくれた。伝聞ではなくカンタル自身が直接得た知識の結晶だ。
 穢れをコントロールする薬の開発者がカンタルである事は一目瞭然だった。

 俺たちは穢れの情報収集に世界を飛び回り、手ごたえを得るには何か月もかかると考えていた。
 しかし、懐かしい王の息子という存在によって、それがたった一日で終わってしまったのだ。

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