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【二章】四人の魔術師
八話 リヴァロ②
しおりを挟む研究成果のお披露目が、俺にとって大きな事件となった。
無詠唱実現の発表の場として俺が中庭でルービン様と私闘をする事になった。俺の年齢が若過ぎるため、デモンストレーションが無いと周りから理解が得られず、圧力がかかるかもしれないという心配から王が設定してくれたものだ。
見た目が派手な魔法で攻撃するようにと言われていたから、ルービン様の立っている位置に氷柱を生み出した。てっきりルービン様は避けると思っていたが、ルービン様にいくつかの攻撃が当たり、派手に怪我をさせてしまった。初めて見る他人の出血に頭がグラグラし、吐きそうだった。そもそも王に怪我をさせてしまった俺は処刑されてしまうのでは。周りからはざわめきが聞こえ、とにかく生きた心地がしなかった。俺の体はどんどん冷えていき、小刻みに震えていた。
だが、突然俺の体がフワリを宙に浮いた。ルービン様が俺の脇の下に手を入れて持ち上げているのだと理解するのに時間がかかった。そのまま思い切り抱擁されてクルクルと何度もルービン様はその場で回っていた。
ダンスでも踊っているみたいに楽しそうなルービン様が、興奮したように俺に言った。
「まさか無詠唱だけじゃなくノーモーションとは思わなかった! 全く反応できなかったぞ!」
「……え……」
「俺の実力不足で怖がらせてしまったな。悪かった。だが、俺も避けられると思っていたんだ。悔しい……リヴァロの実力の高さを見極めきれなかった。本当にリヴァロは強いな!」
悔しい、と言った王は子供のようだった。父親よりも年上の人に、俺は『可愛い』という感想を持っていた。
それから王の協力もあり、平坦な道のりではなかったものの、最年少の魔術師として新技術を開発していった。クワルクが0から1を生み出すのが得意で、俺は1を100にするのが得意だった。相性が良いため、なんだかんだクワルクとは一緒に研究する事が増えた。
王を怪我させてから俺は攻撃魔法が苦手になってしまったのだが、誰もそれを責める事はなかった。それでも誰かを守るためには攻める事が必要なのはわかっていたから、王のように腹パン一発で攻撃前に動きを止められるようになりたいと思っていた。
それを実行する前に塔へ入る事になったため、俺は王とのいつかの再会を夢見て、塔内で肉体を鍛えていた。だが、今回も結局は王を傷付けた。
王の行動を邪魔して怪我をさせただけでなく、あんなことやそんなことをしまくった。王を守るどころか辱めて、なんのために自分が存在しているのかわからなくなっていた。
塔を出てからなるべく考えないようにしていたけど、どんどん怖くなってくる。みんなを心配させないようになるべく平静を装っていたつもりだった。しかし、村長の家にある大部屋に案内され、扉を閉めた時点で三人が俺を見た。
「リヴァロ、もう空元気は必要ないですよ」
「そうそう、リヴァロが何考えてるかなんて手に取るようにわかるけど、僕達は君に感謝してるんだから」
「ん。ルーシャン、強かった。だから、真面目に鍛えてた、リヴァロしか止められなかった」
長年、生活を共にしていた相手には俺のメンタルの下がりようはバレバレだったらしい。三人の優しい言葉に、俺は声も出ないくらい驚いていた。
「リヴァロがルーシャンを止めず、もしあのアイテムで穢れを過剰に取り込めば、一気に魔物化してルーシャンが暴走。私達はその場で処理するしかなかったでしょう」
「そうだね。きっとそれも王の考えだったと思うし」
「でも、それ、阻止できた。凄いこと。リヴァロだからできた。偉い」
一気に安心感に包まれ、俺の目からはダラダラと涙が流れていた。でも表情は明るかったと思う。
「そっか……俺、間違ってなかったんだ」
「私達が間違うはずありません。正確には、王の選択を全て正解にするために私達がいるのです」
クワルクが高慢とも取れる笑みを浮かべている。本当にこいつはいつも自信に溢れていて尊敬する。エダムとウルダが近付いてきて、俺の髪をグシャグシャにしながら言った。
「王は僕達を塔に残した選択を間違っていると思っている。だがこうして僕達は塔を出た。そしてまだ王は……ルーシャンは生きている」
「ルーシャンとなってまで繋いだ、王の選択は、まだ結果が出ていない状態。ルーシャンを救い、あの時、この選択をして良かったと思わせる。そのために、四人の魔術師がいる。王の幸せが、我らの幸せ」
その通りだ。王の悩みや障害を取り除くために俺達四人の臣下が存在しているのだ。俺達が王を苦しめる存在になってはいけない。凹んでいる場合じゃないんだ。
王を絶対一人にはしない。救い出し、幸せにしなければならない。ルーシャンの願いである俺達の幸せは、ルーシャンの幸せが前提で成り立つのだから。
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