魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【二章】四人の魔術師

四話 エダム②

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 昔の事を思い出しながら僕と他の三人は黙々と深夜の森を歩き、ようやく草原に出た。
 森を抜けるまでに魔物に襲われたものの、昔ほどの狂暴さも強さもなかった。食欲という一点に集中していた昔の魔物は凄まじい強さだったが、繁殖した現代の魔物は手強い野生生物の域を出なくて拍子抜けした。穢れのない世界は本当に平和なようだ。


 僕がルーシャンから貰ったメッセージにはこう書かれていた。

『 エダム、世界はとても平和になったぞ。塔の近くの村でつくられた酒はとても美味いので寄ってみるといい。お前とよく研究室で隠れて酒を飲んでいた事を思い出した。今思うとエダムはそんなに真面目でもなかったな。 最後の命令だ。俺の事は忘れて幸せになること。以上。 ルーシャン 』

 王は真っ直ぐな人なので疑う事を知らない。散々抱かれてようやく僕が真面目ではないと気付くのだから、僕達が塔へ入って側にいなくなった後は大丈夫だったのか心配になってしまう。そんな所がたまらなく可愛いのだが。
 ニヤけそうになる口元に手を当てていると、クワルクが足を止めた。


「村です」


 クワルクが指差す先に、灯りがいくつか見えた。見張りの持つランタンがゆっくり動いている。ここからは村人を驚かさないように近付かなければ。暗がりから現れる未知の存在ほど怖いものはない。


「とりあえず全員に灯りを」


 僕は全員の全身を光で包んだ。一気に周辺が明るく感じる。これで村から僕達の姿が確認できるだろう。リヴァロが楽しそうにピョンピョンと跳ねて光を楽しんでいる。ウルダも両手を大きく動かして光の軌跡を楽しそうに見つめている。


「めちゃくちゃ派手じゃん!」
「小さい灯りが複数近付いてくると敵襲と思われるかもしれないからね、これくらい目立った方が良いよ」


 早速あえて姿を見せるキラキラ作戦の効果があったのか、村の方から灯りを持った人間が二人ほどこちらに走って来る。一応敵意は無いと表現するために僕は両手を顔の横に上げておいた。
 中年の男性二人が息を切らし、おーいと声をかけてきたのでこちらも返事をする。


「こんな夜中にすみません。怪しい……ですけど怪しい者ではありません」


 よく考えたら身元を証明するものもない僕達は完全に怪しい存在だった。ルーシャンが用意してくれた金銭で解決するくらいしか方法がない気がする。
 しかし、そんな心配が消し飛ぶほどの大きな笑い声が響いた。


「わははは! あんた達、あれだろ、ルーシャン様のお仲間じゃないかね」
「え……そうですけど……ルーシャン、様?」


 ルーシャンは自分の事をただの冒険者だと言っていたような気がする。ただの冒険者が様付けで呼ばれるだろうか。僕の疑問にすぐ村人は反応してくれた。


「はっはっは、ルーシャン様は子供の小遣いみたいな金額でも依頼を受けてくれる凄腕冒険者だからね。救われた村や町の人間はみーんなルーシャン様と呼んでいるよ」


 僕達は村人の言葉に顔を見合わせる。
 あの人は生まれ変わっても根っからの王なのだ。救える者は可能な限り救う。本人がいなくてもルービン様の片鱗を感じ、僕達の口元には自然と笑みが浮かんでいた。

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