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【二章】四人の魔術師
七話 リヴァロ①
しおりを挟む『 リヴァロはどんどん強くなっていくな。魔力を封じられたら無力なのが魔術師の弱点だ。これからは魔力だけに頼らない考えを広めてくれると嬉しい。まだ強くなりたいなら、南の島国に俺の体術の師匠がいるから訪ねてみるといい。 あとは最後の命令だ。俺の事は忘れて幸せになること。以上。 ルーシャン 』
本当に俺は強くなったのだろうか。強さとはなんだろう。そんな考えが頭をグルグルと回っていた。
そしてどんどん良くない方向に答えが出る。
俺のせいだ。王のためにと努力した事がルーシャンを苦しめた。俺はいつだって王を傷付けるだけの役立たずでしかない。
ルービン様はとても強くて、俺の憧れだった。
俺の家は金持ちだったから、優秀な兄様と姉様の邪魔をせずにただ可愛がられているだけで良かった。将来の事なんて自分で考えなくても、両親がレールをしっかり敷いてくれる。たまたま魔力が家族内で少し多かったからとりあえずここでいいかと6歳の時に魔法学校に入学した。
魔法学校に入りたての俺は、とにかく波風を立てずに生活していた。俺が問題を起こせば家族に迷惑を掛ける。末っ子の俺は何も期待されてはいない。お調子者でみんなと仲良く、成績もそこそこ。そんな印象で一生を楽に過ごせれば良かった。
しかし、そんな俺を大きく変える事件があった。学校の中庭で見た、ルービン様対クワルクの私闘だった。他国で頭角を現していた若きクワルクが、ルービン様に引き抜きを持ちかけられていた。
この頃のクワルクは、魔力を持たない人間を見下していたからルービン様を鼻で笑った。
「魔力を持たない貴方に私を上手く使いこなせるとは思えませんね」
「別に使いこなしたいなんて思ってないさ。ただ俺にない力を貸して欲しいと言っているのだ」
「武器も権力も、使用者によってゴミ屑にも金にも変わります。たかだか一国の主というだけで無力な貴方がこの私の力を制御できるとお思いですか?」
こんな感じで、クワルクは王に対して今では考えられないような発言をしていた。しかし、ルービン様は笑った。
「確かに俺に魔力は無いが、それが無力とは限らんだろう」
「では無力でない事を示してください。そうすれば貴方に忠誠を誓いましょう」
「いいだろう。全力でかかってこい」
そして私闘が始まったのだが、一瞬で決着がついたために学校全体がシンと静まり返った。
クワルクが魔法を発動しようとしたのだが、クワルクの口が動いた瞬間にルービン様がクワルクの懐に飛び込んで腹部に拳を叩き込んだ。グラリと倒れそうになるクワルクを抱きとめるルービン様がめちゃくちゃカッコ良かった。
ルービン様の腕の中にいたクワルクは頬を染めて完全に恋に落ちた顔をしていたのが子供心にもよくわかった。それが俺が7歳で、クワルクが13歳の時だ。俺もその時にルービン様への憧れや忠誠を抱いた。王のように強くなりたいと、王を守れるような存在になりたいと思った。
まだ魔法発動に詠唱が必要だった時代で、クワルクは詠唱を3文字にまで短縮した天才だった。1秒以内で魔法が発動できるというのは凄い事だったのだが、ルービン様いわく『口が動いた瞬間に何が起きるかわかるから楽勝。一秒もあれば俺なら余裕で近付けるし止められる』らしい。普通は無理だと思う。
この一件でクワルクはルービン様に心酔し、次の日にはルービン様の専属魔術師になっていた。しかも普通、魔術師は自分の研究内容を公表しないのだが、クワルクは詠唱の短縮の方法をあっさりと国内に公表した。クワルクが打倒ルービン様の目標を掲げ、無詠唱への取り組みが活発になった。
俺は誰よりも早く無詠唱の方法を開発すればルービン様に認めて貰えると思い、それからは勉強と研究に明け暮れた。今まで本気なんて出したことなかったけど、俺ってば実は天才だったらしい。クワルクの技術を研究し、改良し、無詠唱まで辿り着いたのは10歳の時だった。
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