魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【二章】四人の魔術師

五話 ウルダ①

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 ルーシャンから食べてしまいたくらい良い匂いがすると思ったら、ルービン様だった。納得だ。


 ウルダ自分は“魔力を持たない人間”だけが集まった村で生まれた。魔力を持つ者を毛嫌いし、絶対に村に魔力を持ち込まない掟があった。もしも村の中で魔力を持つ子供が生まれてしまえば処刑されてしまう。かなり過激な魔力嫌悪派の集まりだった。

 生まれた瞬間から、ウルダは魔力のお陰か自分の状況を察していた。だからウルダは喋る事のできない子供でいようと思った。喋らなければあまり人も関わってこないだろうし、情報も与えにくいからボロを出す事はないと思っていた。実際それでしばらくは上手くいっていた。

 だが、15歳の成人の儀でとうとう魔力を持っている事がバレてしまった。
 御神体と呼ばれていた石に触る事で儀式を終えるのだが、その石は魔力に反応する道具だったらしい。すぐに村人が武器を持って襲い掛かってきた。優しかった両親すら、逃げるウルダに刃物を投げつけ、血眼になって追い掛けて来る。
 魔力を全身に巡らせ、身体を強化して走り続けた。村が見えなくなってもまだ追い掛けられているような気がして足を止められなかった。

 どれくらい走ったのかわからないが、突如目の前に人が現れてぶつかると思った。凄い速さだったから、互いに無事でいられるわけがない。死を覚悟した。
 でも、ウルダは誰かに受け止められ、その誰かが体を回転させてウルダの勢いを受け流し、掴んでいたウルダをフワリと抱きかかえた。もしかして、これが本当の魔法なのかと感動した。
 抱きとめてくれたその人からとても良い匂いがした。ウルダは疲れていたからそのまま眠ってしまった。

 目覚めると、ウルダを受け止めてくれた人がルービンという名であると教えてくれた。

 ずっと声を出した事がなかったウルダは、話すという行為が怖かったけど、必死に「ルービン様」と呼んだ。ウルダの喋り方はたどたどしくて聞くに堪えないものだったと思う。それでもルービン様はウルダの話をニコニコ聞いてくれた。

 ウルダはルービン様が王だなんて知らなかったから、凄い魔術師なのだと思っていた。弟子にして欲しい、抱きとめてくれた時の魔法を教えて欲しいと言った。そしたらルービン様は驚いた顔をしてから大笑いした。
 なんとあれはルービン様の身体能力のみで行われていたのだ。しかも、ルービン様はウルダの故郷の村人と同じ、魔力を一切持たない人だった。それを知った時は本当に衝撃を受けたし、急に怖くなった。魔力を持つウルダを嫌っているかもしれない不安と恐怖で震えていた。

 でも、ルービン様はウルダをいっぱい褒めてくれた。父親のように、母親のように、厳しくも優しくウルダを可愛がってくれた。魔法学校にも入れてくれたし、無理に喋らなくてもみんな実力を見て判断してくれるから大丈夫だと言ってくれた。
 生まれてから15歳まで体内で凝縮し続けた魔力はとても強大で上質なものになっていたらしく、ウルダはとんとん拍子に高位魔術師になった。

 魔力のないルービン様のために出来る事は何でもしようと決めていた。だから塔へ入る事になんの抵抗もなかった。役に立てる事が本当に嬉しかった。
 唯一心残りがあったとすれば、最後に一度だけルービン様に抱き締めて欲しかった事くらいだろうか。王だと知ってから、ルービン様に触れる事ができないでいた。だからせめて最後くらい、出会った時のように抱きしめて欲しかったけど、結局ウルダはそれを伝える事はしなかった。

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