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【一章】ルーシャン

十八話

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 エダムは不機嫌な表情はしているものの手荒な事はしなかった。エダムが機関室の扉を閉めると、俺を壁に追い詰めて顔の横に手をつく。そのままゆっくりとエダムの顔が近付き、深く口付けられる。


「ふ……ん、んっ……ふ、ぅ……ッ」


 頬の内側の柔らかい部分も、歯茎も、舌の裏も、余すところなくエダムの長い舌が優しく撫でていく。口内を丁寧に愛撫され、俺の息が荒くなってしまう。セックスが丁寧だとは思っていたが、キスも驚くほど上手い。腰が砕けそうだ。
 快感に弱くなった俺の下半身は前も後ろも反応を示してしまい、直接触れられていないもどかしさに身を捩る。エダムはひとしきり口内をまさぐり、俺の肉体の興奮を高めるだけ高めてから話を始めた。


「ん、ぁ……エダム……」
「さてさて、ルーシャン。君はこんな所で何をしようとしていたのかな?」
「……か、勝手に行動したのは謝る……」
「謝罪が聞きたいわけじゃない。何をしようとしていたかだけ答えて」


 俺の顎を掴んでエダムは視線を強制的に合わせる。瞳を見て、俺はここで初めて、エダムは怒っているのではなく、悲しんでいるのではないかと思った。俺がまず信用しなければ、相手だってこちらを信用できないだろう。いくら理由があったとはいえ、可能な限りの説明と礼儀は通しておくべきだった。俺はエダムの目をしっかりと見据え、言える範囲を包み隠さず話す事にした。


「この設備はもう役目を終えているから……停止しようと思った。そうすれば他の場所にリソースがまわせるから……」
「ここが役目を終えていると何故わかるんだい?」
「昔……俺がこの設備で世界中の力を集めるように設定した。時が過ぎ、現在は世界から力を吸収し尽くしている。俺が外でそれを確認しているから間違いない。この世界にはもう俺の求めた力が存在していないと知り、俺はお前達が集めてくれた力を貰い受けるためにこの塔に来たんだ」
「……ふむ、なるほどね」


 もっと色々問われるかと思ったが、意外にもすぐにエダムは納得したようだった。そして、エダムは悲し気に笑った。


「僕はね……誰だか思い出せないけど、ここを守るように言われていたんだ。大切な役割の場所だからこそ、僕が適任だと言ってくれた。君がこの設備を作ったのなら、僕にここを守ってくれと言ったのはルーシャンということになる」


 エダムもだいぶ過去を思い出してきているようだ。エダムにそう命じた相手がルーシャンであると漠然と理解しつつ、俺からの言葉を待っている。俺はハッキリと頷いた。


「……間違いなく、俺が言ったよ」
「ふぅ……やっぱり、そうなんだね……それなら勝手な事をせず僕に相談するなり、停止を命じてくれれば良かったんだ」


 やはり相談もなく勝手に動いたのはまずかったな。エダムが想像以上に顔を曇らせてしまった。
 用心深くて察しが良いからこそ重要な事はエダムに任せられる。味方なら大変心強いのだが、今の俺は四人を欺く立場なのだ。俺からすればエダムが優秀だからこそ避けてしまった。
 だが、そんな事は言えない。ちゃんと今の説明して、停止まではエダムと一緒に行ってから後でゆっくり素材探索をしても良かったのだ。焦るあまりエダムを排除しようとしていたのは間違いないため、俺は自分の非を認めるしかできない。


「うん、その通りだ……本当にすまなかった」


 俺が素直に謝ると、エダムはバツの悪そうな顔で視線を反らした。珍しく歯切れの悪い様子であー、とかうーん、とか唸りながら頭を掻いている。


「はは……まあ、なんていうか……最初にルーシャンに酷い事をしたのはこっちだからそんな文句を言える立場ではないんだけどねぇ。先に謝るべきは僕の方だった……申し訳ない」


 そうエダムに頭を下げられてしまった。昔と変わらず真面目だ。俺は慌てて肩を掴んで顔を上げさせる。


「いや……俺は気にしてないよ。今までここを守り続けてくれてありがとうな、エダム」
「勿体無きお言葉です……。しかし、何故僕達はルーシャンを覚えていないのか……まだ、とても大切な事を忘れているのではないかと不安になるんだけど」


 覚えていなくても良いことは沢山ある。本当に気にしないで欲しい。俺が穢れを一人で引き受けているなんて四人が理解してしまえば全力で阻止されるだろう。そうなる前に終わらせなければいけない状態なんだ。余計な事は考えないでくれという願いを込めて、俺はニコリと笑った。


「見た目が昔と全然違うのに俺がわかるだけでも十分だと思うぞ」


 エダムは俺の笑顔に絆されたのか、少し肩をすくめてから俺を抱き締めた。


「その、見た目が違うのに僕達は異常にルーシャンを求めてしまうけど、昔からこんな関係だったのかな?」


 そう言いながらエダムの手が布の隙間を通り俺の太股の内側に触れた。不安だとかしおらしい事を言いながら、もう雄の顔に切り替わっている。俺も先程までのキスで既に肉体の興奮が高まっていたのだ。皮膚の薄い部分を撫でられると否応なしに反応してしまう。


「っ……ぜんっぜん違う……めちゃくちゃ真面目な上下関係だった……」
「へえ。でも、強姦されても受け入れちゃうくらい、僕達のことが大切だった?」
「んっ……そう、だな……」


 エダムの手付きは明らかに性的なものを含んでいるのに、肝心な箇所に全く触れようとしない。絶対わざとだ。あえて避けて焦らしている。


「エダム……ッ……なんで……」
「ん~? 何がだい?」
「わ……っかってるくせに!」
「ふふ、だってルーシャンは食堂で『勝手な事はしない』って言ったのに早速反故してるんだよ。それについてのお仕置きは必要じゃないかな?」


 いやホント、それについては完全に俺が悪い。正論過ぎる。こればかりは頷くしかできない。


「はい……その通りです……」
「お仕置きなのに僕がルーシャンの望むようにするわけないだろう。でも、お願いするなら聞いてあげなくもない。僕にも悪い所があったからね」


 昨日までの俺だったら難しかったかもしれないが、今の俺はもう欲望に逆らうことができなかった。熱に浮かされたように下半身を覆う布を掴み上げ、壁に手をつき、尻を突き出しながらエダムを求める言葉を吐いた。


「お……お願いします……俺の、中に……エダムのおチンチン……挿れてください……」


 エダムの押し殺したような笑いが聞こえ、俺の尻に手を伸ばして優しく触れてくれた。

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