【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【番外編】本編小話

本編2.5話 リスドォルとユタカの暮らし

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「魔王様! 俺の世界の料理を食べませんか!?」


 ユタカがバタバタと騒がしく玉座の間に入ってくる。
 勝手に私の黒騎士になったこの人間は、自分のことを知ってもらいたいのか異世界の情報を伝えようとしてくる事がある。
 しかしある程度の距離感を保った内容な上、そう頻繁でもないためつい私も話を聞いてしまう。


「今回は食べられるものなのか?」
「今回は味見しました!」


 当然ではあるが、この世界ではユタカの知る食材や調味料が手に入らない。
 そんな中でも似た食材を代用し、必死に本来の味を再現しようとしているようだった。

 今回は──ということは前回があった訳だ。
 前回の失敗は、こちらの世界にある『ミソ』という茶色のペーストだった。
 この世界のミソは解毒薬の一種で、苦味の強い物だったことにより悲劇が起きた。

 ユタカの世界にある『味噌』という調味料とこちらのミソが見た目に大きな違いがなかったため、よく確認もせずにミソをそのまま使ったのだ。
 絶対に失敗しないと豪語していた、ただ焼いた肉や魚にミソを塗った『味噌焼き』で大失敗した。

 薬だから体に悪いものではなかったが、薬として使う量よりはかなり多く使用していたため、その強烈な苦味にユタカは卒倒した。
 何が起きたかわからない私はユタカが毒殺されたのかと慌てたが、まさか解毒薬によって泡を噴いて倒れてしまうとは。その場で治癒魔法を施し、ユタカを寝室まで運ぶことになった。
 私はミソ焼きに口をつけていなかったため、卒倒するほどの酷い味を体験せずに済んだが、ミソに対する恐怖だけはしっかりと胸に刻まれたのだった。


「……心配だ」


 前回の事を思い出して不安が加速する。それでも折角の厚意を無下にするという選択肢は無い。
 おとなしく食堂で待っていると、ユタカが湯気を立たせた鍋を直接テーブルまで運んできた。
 少し深さのある皿を私の前に置き、熱々のスープを注ぐ。とても良い香りがした。


「動物の乳はほとんど俺の世界と同じだったので、ミルクスープにしてみました」


 スープ皿に入った白い液体には私が育てている葉野菜が浮かんでいる。
 野菜もユタカの世界と大きな違いが無いらしく扱いやすいと言っていた。
 私は植物を育てるのは好きだが、調理など考えたことはなく、生で食べる以外にしたことがない。ユタカが用途を見出だすならと好きなだけ分け与えているのだ。


「ほう、そのまま飲む以外にミルクの活用法があるのだな。面白い」


 感心していると、ユタカがバツの悪そうな顔をして言った。


「ホワイトシチューっていう、ミルクを活用してる料理が俺の世界にあったんです。でも、それってかなりとろみがあるんですけど、どうしたらそうなるのかが俺にはわからなかったので普通のスープになっちゃいました」


 だからといってこれが失敗ってわけではないです、と言いながらユタカが先に食べ始めた。
 前回とは違い、倒れる様子は無い。問題なく匙を動かして飲んでいるユタカの姿にホッと息を吐き、私も匙に手を伸ばした。
 白く濁ったスープの底には細かく解された肉や、砕いた木の実などが入っているようだ。口に含むと舌触りはあまり良くないものの、乳と野菜のほのかな甘味と肉の旨味がする。


「……美味いな」
「良かった~!」


 旨味だけでなく、温かさも全身に染み渡るようだ。とても落ち着く。
 スープを黙々と口に運ぶ私を見たユタカは嬉しそうに微笑み、手に入れた調味料について語り始めた。


「森にある木の実を色々食べてみたら胡椒っぽいのとか、辛いのも結構見つかって。次こそは焼いた肉に合わせたいですね。あとミソじゃなくて塩を手に入れました。近くを通った商人からちゃんと買いましたし、舐めてみたんで間違いないです。もう最低限の味付けはバッチリですよ!」


 普段、全ての食材を生で食べていた私にはユタカの料理に対する熱量がとても新鮮だった。
 料理人は城にもいたが、魔物にとっての料理人は盛り付けが綺麗というだけの飾り付け職人のことだ。
 人間の料理人とは随分違うらしい。

 ユタカは元の世界では全く料理をしてこなかったらしい。そんな者が作ったスープでも、私には今まで口にした中で一番の美味だった。
 異世界の料理人が作ると、どれほどの感動が味わえるのだろうか。
 ほんの少しだけ私はユタカの故郷に興味がわいた。
 気が付いたらスープを完食していた私の皿を見たユタカがおずおずと口を開く。


「慣れてないので毎日はまだ無理ですけど、次も料理を作ったら……また、食べてくれますか?」
「ああ。よろしく頼む」


 私としては断る理由はない。むしろ楽しみなくらいだ。
 ユタカは目を輝かせて席から立ち上がった。


「俺、頑張って魔王様の胃袋掴みますから!!」


 私はギョッとした。
 ユタカの突然の臓物を引きずり出す宣言に困惑を隠せない。
 胃袋を掴む。なんて血生臭い発言だ。私を好きだと言うのは嘘だったのか。
 いや、ユタカの表情はニヤニヤと締まりが無く、喜びや好意が滲み出ている。それが異世界での愛情表現なのか。


「だ、駄目だろう……!?」


 混乱した私はそれだけ言うのが精一杯だ。しかし、ユタカは口を尖らせて言った。


「駄目じゃないですよ! 結婚したら毎日必要じゃないですか。そのために俺、めちゃくちゃ練習頑張ってるんです!」


 異世界の結婚生活には胃袋が必要なのか。そんなグロテスクな生活、絶対にしたくない。
 ユタカのような強さを持つ人間がゴロゴロしている世界ならば胃袋の一つや二つ引っこ抜いた所で問題ないのかもしれないが。
 そりゃ魔物も一つくらい臓物を抜いた所で死にはしないが、痛い思いをしてまで婚姻したいというユタカが恐ろしい。


「無理だ」
「無理じゃないです! 絶対上手くなりますから!」


 胃袋を掴む技術の向上なんてしなくて良い。
 そもそも魔物に婚姻などという概念が無いのだ。同じ世界の者同士で勝手に番えば良いのだ。価値観の相違は致命的だ。
 私は諭すようにユタカに言った。


「胃袋を摘出する技術の上達なんて私は望んでない」
「はい?」


 私の言葉に何度も瞬きをしてユタカは固まった。
 その反応で、私も何かがすれ違っているのだと気付いた。


「……あぁ~!! そうですよね、食事の価値が違うんでした、そりゃ伝わらないですよね!」


 納得したようにユタカは声をあげた。
 馬鹿にするでもなく、ユタカは丁寧に私に説明してくれる。

 胃袋を掴むという言葉が『胃袋を摘出する技術の上達』ではなく『美味しい食事で相手が離れられなくなるように繋ぎ止める』という意味だとようやく私は理解した。


「また食べたいって思ってもらえて、それが続けばずっと一緒にいられますよね」
「……なるほど。理解した」


 私は表情には出さなかったが、やはりこの勘違いは少しだけ恥ずかしかった。
 食に関心のない魔物にはわからない価値観だったから仕方ない。
 そう自分に言い聞かせ、グラスに用意された水を一気に飲み干して頬の熱さを誤魔化した。

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