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奨励賞記念 ジン×デュラム
七話 執務室 ジン視点
しおりを挟むラフィネに俺の休暇中に任せたい仕事を割り振り、今のうちに必要そうな情報をまとめていた。しばらくすると今日の部下達の定時報告が始まる。報告内容を確認して必要な処理をしていると、あっという間に外が暗くなっていた。小さい仕事を気にしていたらキリがなく、休みなんて取れないので意識的に手を止めた。
先生と部下が問題を起こすなんてあり得ないから心配はしていないが、あまり先生を放置しておくのも申し訳ない。何より俺自身に先生成分が足りていない。早く摂取しなければ。
早足でアジトへ向かい、メイン通路の扉を開くと良い匂いがした。先生の料理の匂いだ。案の定先生はアジトの調理場に入り浸っているらしい。俺は笑いそうになる口元を引き締めてからホールに続く大扉を開ける。扉の前にいた部下がすぐ俺に声を掛けた。
「ボス、お帰りなさいませ。コートを」
「……これは……何をしているんだ?」
「新入りの歓迎会、ですかね。新入り本人が料理を振舞ってますけど」
ホールがまるでパーティー会場のようになっていた。中央に大きな皿に数々の料理が盛られていて、食べたいだけ自分の皿に盛るスタイルだ。若い部下達は凄い勢いで料理に喰らいついている。
先生は子供向けの味付けが得意なのだ。もっと言えば先生は年代に合わせて薄味も濃い味も使い分けるのだが、パンに乗せて食べるくらいがちょうど良い、少し濃い味付けが俺の中では最高だと思っている。きっと今、この場にいる育ちざかりの若者にめちゃくちゃ美味しく感じる味になっているだろう。俺の先生は凄いんだぞ。
皿と一緒に置かれた大きな鍋には今日先生が海で煮た魚を使ったスープがある。酸味と甘みのある野菜をふんだんに使い、魚の旨味を引き立てる栄養満点で食べやすい俺の大好物だ。魚を丸ごと煮た後、一旦取り出して先生は丁寧に骨を取り除き、身だけにしてくれる。子供達に危険がないように細心の注意を払ってくれているのだ。先生のそういう所めちゃくちゃ好き。
俺も先生を手伝いたいけど、ボスは動いてはいけない。本当は人を使うより自分が使われる方がいいなぁ。
「お帰りなさいませ! ボス!!」
俺の姿に気付いたホールの者達が一斉に立ち上がり礼をした。食事の邪魔をした感じになっていつも申し訳なく思う。でも威厳を保つためには必要な示威行動だから許してくれ皆。
「楽にしろ。私の事は気にせず食事を続けてくれ」
「はい!」
とは言っても俺がこの場にいては緊張が解ける訳もないから早々と退散したい所だな。肝心の先生は……新しい料理の乗った大皿を運んで来ている所だった。自分だけ挨拶に混ざれてなくてヤベェ、みたいな顔をしていて可愛いです。先生はキョロキョロ見回して空いたテーブルに皿を置いてからこっちに向かって来る。
「お帰りなさいませ。ボスもお食事いかがですか?」
「後でいただく。もう少しディーは私と仕事だ。執務室で今日の報告をまとめるぞ、共に来い」
「はい。後でちゃんと食べてくださいね」
どうせ何も食べずに今まで仕事してたんだろう、と視線で言われているのがわかる。その通りです。気まずさを誤魔化すように俺が歩き出すと、先生もついて来てくれた。
フランセーズさんへの報告をしたら休暇だけど、魔道具でメッセージを送るだけだから時間がかかるものではないし、普段からやっている事なので先生がいなくても実は問題ない。じゃあなんでわざわざ先生をこんな所に連れて来たかなんて、そんなの目的はただ一つ。
職場エッチだ。
これは外せない。上司と部下プレイをしてみたい訳だが、職場でないと絶対に俺がこの態度を保てない。本心を言えば今すぐにでも抱き着いて甘え倒したい気分だが、それではいつもの俺なので意味がない。
執務室の扉の前には二人必ず警備係が立っている。防音だから声が聞こえる心配はないけど、人払いをしたら今からヤるのかって思われるだろうし、そのままいてもらっても長時間部屋から出て来なければヤっていると思われるだろう。結局何をしてもそう思われるなら警備してもらった方が安心だな。
ちなみにアジトは家のない構成員の寮みたいな側面もある。俺もよく寝泊まりしているから第二の家のようなものだ。よそで性犯罪を起こされる可能性を減らすためにも、専属契約しているラトラの高級娼婦はいつでも呼んで良いし、ラトラと組織に忠誠を誓っている恋人なら連れて来ても良い。そこら辺はかなり寛容だと思う。
だからまあ、俺が先生を招待した時点で部下全員、俺が先生とヤると思っているだろう。いや、俺がインポだという噂は組織内でも広がっているからそう思っていない者もいるかもしれない。ラフィネなんて俺に性欲がないから信頼できるとか言ってた気がする。あるよ、普通に性欲あるよ。ただ幼少期から先生しか眼中になかっただけで。
「ボス、お帰りなさいませ!」
考え事をしている間に執務室の前にまで来ていたらしく、警備係に声を掛けられた。危ない、やはり先生がいると気が緩んでしまう。もっと気を引き締めなければ。
「私はしばらくディーと仕事をする。ホールでディーが用意した食事があるから交代で食べてくると良い」
「ありがとうございます、そうします!」
先生の戦闘能力については事前に説明しているし、部下も警備が手薄になるという心配はしなかった。伴侶との時間ということで気を遣われているだけかもしれないけど。
俺は魔道具である特殊な鍵を取り出した。さすがにボスの部屋なのでそう簡単には執務室に入れないようになっている。鍵穴は存在せず、俺が鍵で扉に触れると魔方陣が浮かび上がり、次の瞬間には俺と、俺が思い浮かべた人物だけが執務室の中に移動しているのだ。
なんの説明もしてなかったから、突然目の前の景色が変わった事で先生が挙動不審になっていて可愛い。ああ、やっと先生に触れられる。
俺はまだ状況を飲み込めていない先生を抱き寄せ、少し強引に唇を奪った。
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