【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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奨励賞記念 ジン×デュラム

三話 お仕事開始 デュラム視点

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 頑張って練習した甲斐があり、俺もジンもちゃんと護衛とボスを演じられるようになった。

 話し合いの場としてシャンスが指定した場所は船上だ。名目としては海を眺めて優雅に商談ということになっているが、海の上ではどんな事故が起きるかなんてわかんないね。
 逃げ道もなく、こちらはたった二人。周りはよその国の者だけ。うーん、素敵な船上ディナーだぜ。
 完全な優位を取って喜んでいる相手の笑みが浮かぶようだ。

 乗船前に持ち物検査とかもされたし、ホント念の入れようが凄いね。用意周到というより、たった二人に何をそんなに怯えてるんだかって思っちゃう。
 だだっ広いメインダイニングに通されると、中央にテーブルがあって、二つではなく三つ、椅子があった。

 部屋には見るからに屈強そうな男が、20人も柱の前や出入口に配置されていて物々しい空気だ。
 しかし、こんなに人数がいるのに、ブレド一人でも全員倒せそうな戦力しか感じない。拍子抜けだね。ちょっと人を殺した経験があって調子に乗っている集まりって感じだ。見た目を重視した雇われ傭兵なのだろう。

 給仕に案内されジンが着席してから、恰幅の良い70代くらいの男が現れた。シャンスだ。後に続いて同じく大柄な40代半ばの男も入ってくる。こいつはシャンスの息子カイノス。どちらも片側の口角が持ち上がったムカツク笑みが張り付いている。

 シャンスとカイノスを囲むように5人の護衛がいる。それはまあまあ強そうではあるが、まあまあでしかない。戦いに慣れてそうではあるし、一般的には十分な戦力だと思うが、それも人間の範囲の話だ。
 毎回フランセーズが相手側に警戒しているのは、魔術的な契約や気まぐれによって、魔獣や魔神なんかを仲間にしていないかという事。わざわざ勇者直々にジンの護衛をする理由はそこだった。クード国にそんな知識も技術もないとわかり、俺は表情を変える事なく安堵で少し肩の力を抜いた。

 形式的な挨拶を済ませたシャンス親子とジンは食事となる。さすがに飯に何かを仕込むという事はないのか、移動式の調理台が運ばれ、目の前で料理が作られていく。めちゃくちゃそっちを見たい。だが今の俺は料理人デュラムではないのだ。頑張れ新人護衛ディー。


「ぐわはは!! まさか本当にこんなに若いボスが現れるとはなぁ! まだまだママのおっぱいが恋しいだろうに!」


 食事の席だというのに、シャンスは大声でうるさい。船上ディナーという上等な場を用意できても、品性までは用意できなかったらしい。


「よく言われます」


 ジンは全く気にした様子もなく笑顔で頷いている。カッコイイ。ジンの表面は完璧だけど、内心では俺のおっぱいが恋しいって本気で思ってるよ。


「子供の国にはちゃんと世話をしてやる大人が必要だ。そうは思わんか?」
「大人にも様々な方がいます。シャンスさんはどのようなお世話をしてくださる大人なのでしょうね」


 優しく『お前は俺の大人の定義とは外れているが、一応お前の大人の定義を聞いてやる』とジンは言っている。俺は余裕のある奴が大人だなって思うよ。ジンなんて俺より圧倒的に大人っぽいもん。
 そんな事を考えていたら、シャンスは鼻で笑った。


「そりゃあ、まずはその生意気な口をきけなくするわなぁ。大人への敬意が足りねぇぞガキィ。ガキはなぁ、大人の言う事だけ黙って聞いておけばいいんだ。そうすりゃ上手くいく。若造が口出しできる世界じゃねーんだ」
「確かに、前王はそれで上手くいっていたみたいですね」
「そうだろうそうだろう」
「滅びてしまっては成功とは言いにくいですが」


 前王、つまりフランセーズの父はそこまで頭の良い人間ではなかったらしい。だが、素直で純真な王だった。シャンスの嫌な所は、明確な悪人ムーブをする割に、こちらの取り分を相場よりかなり多めに設定してくる所だ。だから前王はあまり深く考えず、シャンスの仕事を受け入れ、土地を貸し、事業を任せた。少しずつマズイ仕事を浸透させ、ラトラ側の罪悪感を消していく。国は潤うのだからと唆せば、前王は次から次へと持ち込まれる悪事にも首を縦に振った。シャンスが仕込んだ甘い毒により、前王は長い年月をかけ、国のため、民のためと頷き続けるだけの人形となった。
 表向きはラトラに取り分の多い、良好な関係だが、実際はシャンスの言いなりになって何でも受け入れるラトラという図式だ。もう後戻りできない位に悪事が浸透した頃には、シャンスの先導がなくてもラトラだけで悪い事が動く。そうして腐敗したラトラは魔王に滅ぼされた。


「そりゃ運が悪かっただけだろう。今は英雄サマがいるんだ。新たな魔物や魔王が攻めてきたところで問題ない」


 フランセーズが魔王に勝てると踏んだから、またラトラと付き合いたいと。本当にシャンスは魔王にビビって今まで様子を見ていたんだな。


「悪い事もやり過ぎれば魔王が攻めて来るとラトラは認識しています。その範囲を見定めるのが私の役割なのですが、シャンスさんは以前と同じような商売がしたいようですね。王は何度も断っていると聞いていますよ」
「英雄サマも大変だよなぁ。お綺麗なままでいる必要がある。だから裏の顔であるお前を寄越したんだろう? 美味い蜜だけ吸って、あとは全部お前のせいにしてしまえばいい。前王とやる事が同じだなぁ」


 取り分をラトラに多くする理由は、何かを追求された時にクードの立場が弱いと説明しやすいからだ。世間的にはクードはラトラにこき使われていた国という認識だった。
 ぬけぬけとまぁ。そう思ったのは俺だけでなくジンも同じだった。ナプキンで上品に口を拭ったジンは完璧な笑顔でこう言った。


「おや、シャンスさんのやる事と同じ……の間違いでは?」
「あぁん!? ガキが知った口をきくんじゃねぇぞ!!」


 こちらを甘く見ており、実情を把握されているとは思っていなかったシャンスは逆上した。本当にフランセーズパパはチョロかったんだろうね。


「それは失礼しました。クード国は食事中に大声を出すのが大人のマナーだと情報を書き換えておきます」


 うちの旦那様カッコ良過ぎ。俺はグラスに口を付けながら笑うジンの横顔に見惚れていた。その場で膝から崩れ落ちなかった俺を褒めて欲しい。

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