142 / 152
奨励賞記念 ジン×デュラム
三話 お仕事開始 デュラム視点
しおりを挟む頑張って練習した甲斐があり、俺もジンもちゃんと護衛とボスを演じられるようになった。
話し合いの場としてシャンスが指定した場所は船上だ。名目としては海を眺めて優雅に商談ということになっているが、海の上ではどんな事故が起きるかなんてわかんないね。
逃げ道もなく、こちらはたった二人。周りはよその国の者だけ。うーん、素敵な船上ディナーだぜ。
完全な優位を取って喜んでいる相手の笑みが浮かぶようだ。
乗船前に持ち物検査とかもされたし、ホント念の入れようが凄いね。用意周到というより、たった二人に何をそんなに怯えてるんだかって思っちゃう。
だだっ広いメインダイニングに通されると、中央にテーブルがあって、二つではなく三つ、椅子があった。
部屋には見るからに屈強そうな男が、20人も柱の前や出入口に配置されていて物々しい空気だ。
しかし、こんなに人数がいるのに、ブレド一人でも全員倒せそうな戦力しか感じない。拍子抜けだね。ちょっと人を殺した経験があって調子に乗っている集まりって感じだ。見た目を重視した雇われ傭兵なのだろう。
給仕に案内されジンが着席してから、恰幅の良い70代くらいの男が現れた。シャンスだ。後に続いて同じく大柄な40代半ばの男も入ってくる。こいつはシャンスの息子カイノス。どちらも片側の口角が持ち上がったムカツク笑みが張り付いている。
シャンスとカイノスを囲むように5人の護衛がいる。それはまあまあ強そうではあるが、まあまあでしかない。戦いに慣れてそうではあるし、一般的には十分な戦力だと思うが、それも人間の範囲の話だ。
毎回フランセーズが相手側に警戒しているのは、魔術的な契約や気まぐれによって、魔獣や魔神なんかを仲間にしていないかという事。わざわざ勇者直々にジンの護衛をする理由はそこだった。クード国にそんな知識も技術もないとわかり、俺は表情を変える事なく安堵で少し肩の力を抜いた。
形式的な挨拶を済ませたシャンス親子とジンは食事となる。さすがに飯に何かを仕込むという事はないのか、移動式の調理台が運ばれ、目の前で料理が作られていく。めちゃくちゃそっちを見たい。だが今の俺は料理人デュラムではないのだ。頑張れ新人護衛ディー。
「ぐわはは!! まさか本当にこんなに若いボスが現れるとはなぁ! まだまだママのおっぱいが恋しいだろうに!」
食事の席だというのに、シャンスは大声でうるさい。船上ディナーという上等な場を用意できても、品性までは用意できなかったらしい。
「よく言われます」
ジンは全く気にした様子もなく笑顔で頷いている。カッコイイ。ジンの表面は完璧だけど、内心では俺のおっぱいが恋しいって本気で思ってるよ。
「子供の国にはちゃんと世話をしてやる大人が必要だ。そうは思わんか?」
「大人にも様々な方がいます。シャンスさんはどのようなお世話をしてくださる大人なのでしょうね」
優しく『お前は俺の大人の定義とは外れているが、一応お前の大人の定義を聞いてやる』とジンは言っている。俺は余裕のある奴が大人だなって思うよ。ジンなんて俺より圧倒的に大人っぽいもん。
そんな事を考えていたら、シャンスは鼻で笑った。
「そりゃあ、まずはその生意気な口をきけなくするわなぁ。大人への敬意が足りねぇぞガキィ。ガキはなぁ、大人の言う事だけ黙って聞いておけばいいんだ。そうすりゃ上手くいく。若造が口出しできる世界じゃねーんだ」
「確かに、前王はそれで上手くいっていたみたいですね」
「そうだろうそうだろう」
「滅びてしまっては成功とは言いにくいですが」
前王、つまりフランセーズの父はそこまで頭の良い人間ではなかったらしい。だが、素直で純真な王だった。シャンスの嫌な所は、明確な悪人ムーブをする割に、こちらの取り分を相場よりかなり多めに設定してくる所だ。だから前王はあまり深く考えず、シャンスの仕事を受け入れ、土地を貸し、事業を任せた。少しずつマズイ仕事を浸透させ、ラトラ側の罪悪感を消していく。国は潤うのだからと唆せば、前王は次から次へと持ち込まれる悪事にも首を縦に振った。シャンスが仕込んだ甘い毒により、前王は長い年月をかけ、国のため、民のためと頷き続けるだけの人形となった。
表向きはラトラに取り分の多い、良好な関係だが、実際はシャンスの言いなりになって何でも受け入れるラトラという図式だ。もう後戻りできない位に悪事が浸透した頃には、シャンスの先導がなくてもラトラだけで悪い事が動く。そうして腐敗したラトラは魔王に滅ぼされた。
「そりゃ運が悪かっただけだろう。今は英雄サマがいるんだ。新たな魔物や魔王が攻めてきたところで問題ない」
フランセーズが魔王に勝てると踏んだから、またラトラと付き合いたいと。本当にシャンスは魔王にビビって今まで様子を見ていたんだな。
「悪い事もやり過ぎれば魔王が攻めて来るとラトラは認識しています。その範囲を見定めるのが私の役割なのですが、シャンスさんは以前と同じような商売がしたいようですね。王は何度も断っていると聞いていますよ」
「英雄サマも大変だよなぁ。お綺麗なままでいる必要がある。だから裏の顔であるお前を寄越したんだろう? 美味い蜜だけ吸って、あとは全部お前のせいにしてしまえばいい。前王とやる事が同じだなぁ」
取り分をラトラに多くする理由は、何かを追求された時にクードの立場が弱いと説明しやすいからだ。世間的にはクードはラトラにこき使われていた国という認識だった。
ぬけぬけとまぁ。そう思ったのは俺だけでなくジンも同じだった。ナプキンで上品に口を拭ったジンは完璧な笑顔でこう言った。
「おや、シャンスさんのやる事と同じ……の間違いでは?」
「あぁん!? ガキが知った口をきくんじゃねぇぞ!!」
こちらを甘く見ており、実情を把握されているとは思っていなかったシャンスは逆上した。本当にフランセーズパパはチョロかったんだろうね。
「それは失礼しました。クード国は食事中に大声を出すのが大人のマナーだと情報を書き換えておきます」
うちの旦那様カッコ良過ぎ。俺はグラスに口を付けながら笑うジンの横顔に見惚れていた。その場で膝から崩れ落ちなかった俺を褒めて欲しい。
0
お気に入りに追加
1,307
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる