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【番外編】イサミ×フリアン
最終話 イサミと宝玉と女神
しおりを挟むあれから一ヵ月程でフリアンは三つ子を産んだ。魔物はこんなにも育つのが早いのかと驚いた。
出産時に初めてピナクルの姿のフリアンを見た。ベースは大きな豹だったが、背骨に沿ってヤマアラシのような針が生えていて、ドラゴンみたいな翼まであった。可愛さもあるが、格好良さの方が強くて憧れる。
フリアンの魔王時代は人型の時に翼を出して魔王らしさを出していたらしい。
生まれたての三つ子は豹柄の子猫にしか見えないが、大きさは大型犬ほどある。とにかく可愛い。
スヤスヤとフリアンの腹部に埋まって眠る姿は寝食を忘れて見ていられそうだ。
一週間もすれば人型になれるらしいので、そちらの姿も今から見るのが楽しみで表情が緩んでしまう。
出産が終わり、ピナクルのままで休んでいたフリアンがもそもそと動いた。
「あれ……?」
「どうしたフリアン、体調に問題でも出たか? 大丈夫か?」
「なんか光ってる」
フリアンの視線の先を見ると、それは先程の出産で出てきた胎盤だった。
胎盤を包む光が激しくなり、目を開けるのも辛くなる。だが、少しすると光が弱まり、胎盤が球体に変化していくのだ。俺もフリアンも目を見張った。
「えっ……これって」
「まさか宝玉か?」
その答えを知る前に球体は光と共に消滅した。
なんだったんだ。
親の存在自体わからないフリアンは胎盤が宝玉になるなんて知らないそうだし、消えてしまった光の球体が何だったのかは俺達では知る由もない。だが、なんとなく宝玉なのだろうとは俺もフリアンも感じていた。
「女神め。心臓以外に方法があれば最初から教えろ」
「あはは……でも、この遠回りがなきゃ俺達くっついてなかったかもだし」
それに反論できないのが悔しい所だ。
女神は最初から俺にフリアンを殺させるつもりはなく、あえて情報を与えずに出会いだけを用意したのだとしたら、運命というやつが憎らしく感じる。
そもそも俺が強い能力を与えられたのも、フリアンに惚れてもらうために必須だったからだと気付いた。
仮に上手くいかなかったとしても、魔界№2のフリアンを生け捕りにできる強さが必要なのだ。
女神からすれば、俺に強さがあれば宝玉は手に入るのだから、方法はどちらでも良かったのだろう。とても苦々しい気持ちになった。
「どうしたイサミ~? 難しい顔して」
「いや……もっと強くならなければと思って」
「これ以上か!?」
「元々勇者の力なんて俺の実力じゃない。何かの拍子に取り上げられてみろ。あまりの弱さにフリアンに見限られてしまう」
そう言うと、フリアンはキョトンとした顔の後に明るい声で笑った。
「アハハ、そんなの俺が守ってやるよ! 子供達も絶対俺より強くなるし、親子でならリスドォルにも勝てるかも!」
「俺が弱くてもいいのか」
「強さはわかりやすい基準であり、単なるキッカケなだけで、今は“好きだから”イサミと一緒にいるんだぜ?」
フリアンは俺を大きな尻尾で引き寄せ、子供と同じように腹に寝かせた。
本当に毛がふわふわで、あまりの気持ち良さに睡魔が襲ってくる。
子供達と同列に扱われてしまったが、何百年、何千年と生きる魔物からしたら俺も子供なのだろう。
「フリアンは大人だな。強さ強さとこだわる俺の悩みがあまりに子供っぽくて馬鹿らしくなる」
「そういやイサミって何歳なんだ? 二百歳から五百歳くらい?」
人間の知識がフリアンにはあまりないらしい。そこまで生きていたら人間じゃない。
「二十八だ」
「はぁ!? 28!? 280じゃなくて!?」
「人間は良くても百年生きるかどうかだぞ」
「俺もぜんっぜんリスドォルの事を言えないじゃん!! 小児性愛って言われる!!」
「人間基準だと俺はとっくに成人だが……」
もうフリアンは全くこちらの話を聞いていなかった。
一人でブツブツと慌てふためいている様子をしばらく見ていたが、フリアンと子供達の体温と柔らかさに俺は瞼を開けていられなくなる。
頻繁に話題に出てくる現魔王が気になるから俺も結婚式に参加する事を考えながら、幸せの温もりに包まれながら眠りに落ちた。
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