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【番外編】イサミ×フリアン
六話 イサミの告白
しおりを挟む「フリアン!」
俺は水飛沫をあげながら激しく水面に顔を出し、すぐさま陸地に上がった。
一緒についてくるようになったミニ魔木が荷物番をしてくれており、ミニ魔木は俺のシャツを持っていた。
フリアンは上半身だけ脱いで、あとは水に濡れたままでこちらを見ている。そして、その手には大振りのナイフが握られていた。
「最後は水場が良いと思ってたんだよね。後片付けしやすいだろうし」
フリアンはそう言って、俺にナイフの柄を向けた。
俺に受け取れと言いたいのは伝わるが、どうしても手が動かず、ただその柄を見て固まるしかできなかった。
「このナイフは俺の魔力が籠ってる専用のアイテム。普通の武器より楽だろうから使って」
「……何に」
「今まで黙っててゴメンな」
やめてくれ、謝らないでくれ。もう理解していた。
聞きたくない、耳を塞ぎたい。なのにそれができなかった。
フリアンの顔があまりにも穏やかだったから。
「宝玉は俺の心臓。傷付かないようにナイフで取り出してみな。心臓の動きが止まれば宝玉になる。死にそうになったら俺、人の形を保てなくなるから、できたら毛皮をイサミの装備に加えて欲しいんだよね。防寒着になると思うし、邪魔だったら小物……マフラーくらいでもいいから。あ、ピナクルは肉も美味しいらしいし地球があんまり食料ないなら、俺の肉も土産になると思うよ。干し肉なら日持ちするし。あと、そうだな……楽しかったな、イサミとの時間……だから、地球に帰っても俺と魔界のこと、たまに思い出してくれよな」
動けない俺の手を掴んで、フリアンはナイフを握らせた。
そして、最大級の笑顔でこう言った。
「イサミと出会えて良かった。俺もこの運命に感謝してる」
俺はなんて馬鹿だったんだ。フリアンは母ではない。それなのに勝手に俺は愛されていないと、独占できるものではないと決めつけていた。
ここまで言われて俺はようやくフリアンに愛されていると気付いた。命を捧げられてフリアンの気持ちと向き合えるだなんて愚か過ぎる。
誰よりも俺の事を見ていてくれた相手に、自分から何一つ行動もせずに、俺だけを見て欲しいと勝手に拗ねていた。
あまりの自分の馬鹿さ加減に笑いがこみ上げてきた。
「ふふ……はははっ……こんな運命、クソ食らえだ!」
「イサミ……?」
「謝らなければならないのは俺の方だ、フリアン」
俺はフリアンの目を見つめたまま、ナイフを上空に放り投げた。俺の意思をくみ取ったミニ魔木がシュルシュルと枝を伸ばしてナイフをキャッチし、荷物につっこんでくれた。
「ごめん、フリアン。ずっとお前の気持ちに甘えて何も言っていなかった。フリアンは言葉でも態度でもぶつかってくれていたのに。本当にすまなかった」
「え、え、え?」
フリアンは突然饒舌になった俺に困惑しているようだ。だが構うものか。
「好きだフリアン。愛している。俺以外に強い奴が現れてフリアンがそちらへ行くのではないかと不安に思っていたが、あまりにも俺は馬鹿だった。俺がそいつらに勝てばいいだけの話なのに、何を日和っていたんだろうな。フリアンが他に目がいかないくらい俺は強くなる。俺だけを見て欲しいなんて甘い事はもう二度と思わない。なあフリアン、俺だけしか見る必要がないと言わせてみせる、だから俺と子を作ってくれ」
「はえぇえぇえ!?」
フリアンがとても可愛い声をあげた。愛しい。
顔が真っ赤になり、余裕のない生娘のような反応に興奮を覚えた。下を履いていて良かった。
身体的な変化を悟られないように、表情を引き締め直す。
「俺に興味がなくなったならそれでもいい、フリアンにだけ尽くすと誓う。フリアンにその気が起きるまでどれだけでも待つ。惚れてもらえるように努力する。どうか側にいる事だけは許してくれないだろうか」
「で、で、で、でもっ……ほ、ほうぎょくがッ」
「いらない。フリアンの命だと知っていたらとっくに諦めていた。フリアンと地球を天秤にかけるのなら、俺はフリアンを選ぶ。宝玉が手に入らなかった時のペナルティは聞いていない。どんな罰が下るかは知らんが、俺一人でクリアできるミッションではなかったというだけだ。俺に何か悪影響が出る前に早めに子作りできるといいのだが」
フリアンを抱く前に死にたくない。それが今の俺の素直な気持ちだ。
変なプライドをかなぐり捨ててしまえば俺はとても単純な男だった。
フリアンは俺の勢いに圧された形で返事をした。
「し、します……!」
「何を?」
「こ、子作り……」
「発情は?」
「してますぅ……!」
最初に迫ってきた時は強気だったのに、今では見る影もない。
完全に俺のペースだ。
それでもフリアンは声をあげた。
「あ、あのっ」
「ん?」
「お、お、俺も……イサミが好き……だと思う」
「思う?」
「魔物は強いか弱いかでしか判断してないから……好きとか、愛だとかで、相手を選ぶってことないから……そういう感情が、俺にはよくわかってなくて……」
俺は人間で、フリアンは魔物だ。価値観が違うのは当たり前なのに、俺はフリアンに人間の価値観を勝手に求めていた。フリアン自身がわからないことを求めていた自分の浅慮さに呆れてしまう。
脳内の反省によって黙っていたのがフリアンを不安にさせてしまったようで、フリアンが必死に言葉を続けた。
「でも……イサミのためなら死んでもいいんだ。それって、好き……じゃないかな……?」
不安げに涙目で見上げて来るフリアンが可愛い過ぎる。
命を捧げるという最大級の好きを見せつけられた俺は力いっぱい頷くしかできなかった。
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