【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【番外編】イサミ×フリアン

四話 フリアンの運命

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 宝玉は俺の心臓。
 生きたまま取り出すと宝玉になる。
 それを使うと不老不死とか、世界を変化させるとか、色々な噂があるらしいけど、その真相は神のみぞ知る。
 俺にだってわからない。本能で知っているだけで、誰かに聞いたわけでもないから。


 最初は宝玉を渡す気はなかった。そりゃそうだ、俺だって命は惜しい。
 リスドォルまでとはいかなくても俺もかなり見た目は良い。だから人間くらいすぐに落とせると思っていた。上手いこと子種が貰えたらいいなという軽い気持ちでイサミに同行した。
 道中、他に世界を救う方法がないか調べたり、同等の効果のあるアイテムを聞いてまわったりした。
 イサミの世界を救う協力はするつもりだったが、さすがに命を捧げる気はなかった。


 でも、少年みたいな瞳で何度も魔界を良い所だと褒めているイサミを見ていたら、胸の奥が熱くなった。嬉しかった。
 真っ直ぐに俺を見つめて、お前といると楽しいとも言ってくれた。
 イサミの表情は余り変化せず、態度がクールに見えるけど、意外とわかりやすかったりする。嬉しいと声が露骨に明るくなったり、興味がある事を前にすると目が輝いていたり、考え事をするとネックレスを握ったり、拗ねると髪を摘んだりするから、感情の動きがよく伝わってきた。


 イサミは良いヤツだ。強くて、寡黙で優しい。
 俺は魔物だから布団とか必要ないのに、イサミはいつも一つしかない毛布を俺に掛けてくれる。人間の方が気温の変化に弱いのに変なヤツだ。
 取った食材も、俺に気付かれないように大きい方をくれたりする。足りなきゃまた取りに行くだけなのに。
 そんな気遣いは必要ないとは言い出せず、ついつい甘えていた。


 どちらかと言えば今までの生活では、そういう気をまわすのは俺の方だった。魔物の中では兄貴分みたいな所があったし、弱きを守るのは俺の立場だ。
 だから甘やかされていると感じたのは初めての経験だった。


 宝玉をあげてもいいかなって思うようになるのに時間はかからなかった。
 それならせめて子孫だけでも残したいと思ってアプローチした。最初とは違う気持ちだった。死ぬための準備として交尾をしたかった。
 イサミは俺の事を嫌いではないみたいだけど、頑なに交尾を嫌がった。
 それはもうしょうがない。
 無理強いして嫌われる方が怖くなり、俺はイサミに交尾を迫る事ができなくなった。
 好きだから、イサミの嫌がる事はしたくない。


 友人として良い思い出を地球に持って返って貰えたらそれで良いと思った。
 イサミは優しいから俺を殺す事に傷付くかもしれない。でも勇者だから世界を救う道しかないだろう。イサミの世界を守る協力ができるならこれ以上ない幸せだ。


 大きなダメージを受けると人型を保てなくなるから、心臓のついでに毛皮とか、肉とか色々役立てて欲しいなぁ。
 本当に俺の毛はふわふわだから、防寒具とかにしてくれたらいいな。そしたらずっとイサミの側にいられる。


「フリアン? おい、大丈夫か?」
「わぁ!? 何、ゴメン、考え事してた!」


 野営を片付けている最中に、俺は動きを止めていたらしい。
 出発準備が整ったイサミが俺の顔を覗き込んでいた。
 慌てて持っていた毛布を畳んでイサミに渡す。


「体調が悪いならもう一日くらい休んでもいいが……」
「ううん、ぜんっぜん元気ゲンキ!」


 健康には全く問題はない。ただ、そろそろ旅も終わりに近付いていた。
 あと三か所まわれば全ての地域を踏破だ。


「この旅もあと少しだな~って。寂しくなるじゃん」
「そうか? 地球に遊びに来るんだろう?」
「うん」
「地球は魔界ほど良い所ではないが、今度は俺が案内してやる」
「ニヘヘ……楽しみ!」


 俺の毛皮を着て旅をするイサミを想像しながら次の目的地へ一歩踏み出そうとした時だ。
 シュルシュルという何かが這う音が聞こえた。あまりに微細で耳の良い俺でも半信半疑だった。
 でも、体が勝手に動いていた。
 イサミを突き飛ばして、イサミがいた場所に俺が飛び込む。
 瞬間地中から大量の根が飛び出して来た。魔木の根だ。いくつかは腕や足をかすったし額もちょっと切れた。でも大きな怪我はない。まるで俺を避けてくれたような動きを感じた。


「フリアン!!」
「イサミ待って!」


 取り出した斧でイサミが俺にまとわりつく根を切ろうとしたのを止めた。
 根は俺ではなく、既にイサミへ照準を合わせているみたいに蠢いていて一触即発だ。


「まだこれは警告だと思う。落ち着けば大丈夫……イサミは武器をしまって」
「……わかった」


 イサミは大人しく武器を消して両手を上げた。
 根もそれを見てどんどん縮んでいき、俺が両手で持てそうな程度に小さな丸太になった。丸太を胴として、枝と根で小さな手足が生えたみたいな姿になった。
 その中心には何かが刺さったような傷がある。
 丸太はその部分を指して、次にイサミを指した。
 イサミはそれで何かを察したらしく、跪いて丸太に頭を下げた。


「なるほど……それはすまなかった。正式に謝罪しよう。修復には魔力でいいんだな? わかった」


 なんかイサミがミニ魔木と会話している。俺には全然わかんないけど。
 イサミは手斧を一本魔木に渡した。それを魔木は体に取り込み、みるみる傷は消えていった。


「え? 何なに?」
「フリアンと出会った時、俺の投げた手斧が刺さった魔木がその部分を直せと言ってきた。ずっと追いかけてきたらしいが、ようやく追いついたそうだ」
「あ~それはごめんなぁ」
「こいつもフリアンに謝っている。俺じゃなくて関係ない者を怪我させたと」
「いやいや、かすり傷だし。てかそもそも俺が出しゃばらなくてもイサミは避けられたよな。余計な事しちゃっただけだわ、アハハ!」
「フリアン」


 俺が笑っていると、突然視界が暗くなった。それはイサミが俺を抱き締めてきた事でできた影だった。


「にょあ!?」
「俺は気配も音も感じられなかった。お前が守ってくれなければ腹に穴が開いていた。ありがとうフリアン」
「そ、そこまでじゃないだろ!?」
「この魔木はそうする気だったと言っている」
「ヒッ……こえぇ……」
「実際、俺が魔木にしたのと同じ事だからな。文句は言えない。魔力で許してもらえたのはフリアンがかばってくれたお陰だ」
「……俺が役に立てたの?」


 そう言うと、イサミは俺の顔を見て顔をしかめた。


「俺はずっとフリアンに頼ってここまで行動してきた。フリアンが守ってくれなければ何もできない」
「イサミ何でもできるじゃん……強いし、器用だし、勇者だし」
「何が食べられて、何が食べられない物なのかもわからない。安全な道も、面白い場所も、フリアンがいなければ全て手探りだ。なんの危険もなく楽しく観光できたのはフリアンと出会えた奇跡のお陰だ」


 イサミは優しく微笑んだ。
 きっと俺との出会いを本気で喜んでいる。
 でもこの出会いは、女神が定めたものだ。


「ううん、奇跡なんかじゃねーよ。俺との出会いは必然。運命なんだぜ」
「そ……そうか……」


 イサミは照れたように少し頬を染めた。
 必然という言葉に喜んでくれているのがわかる。それくらいには俺を好きなんだと伝わってきて嬉しい。
 もう一度イサミは俺をきつく抱きしめ、耳元でこう言った。


「その運命に感謝しないとな」


 朱殷しゅあんの意味をイサミは知らないみたいだった。
 凄惨な血染めの色。
 心臓を生きたまま取り出し、鼓動が止まり、血が赤黒く乾くと宝玉に変化する。
 そのままの名前なのだ。


 俺はその血染めの運命をイサミに教える事もできなくて、ただ背中に小さく震える手をまわすだけだった。

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