134 / 152
【番外編】イサミ×フリアン
三話 イサミの願い
しおりを挟むさらに三日ほど経過し、フリアンと行動してから、あまりにも魔物に遭遇しなくて疑問に思っていた。
いくら魔物達が接触を好まないにしても、全く近付いてこないのはさすがにおかしい。遠くから何度か魔物を眺めた事はあったが、フリアンが見ていると気付くとそそくさ隠れてしまうのだ。
遠目から眺めた魔物は、動物のような姿だったり、虫のような姿だったり、ドラゴンのような姿だったり、意外と人型の魔物は少ないように思えた。
なんとなくだがピナクルという存在が、ただの褐色獣耳の人型魔物というだけではない気がしていた。
「ピナクルとはどういう種族なんだ」
森の少し開けた所で野営の準備を終え、焚火を眺めていた時にフリアンに聞いた。
「ん~……今の魔王が、世界の細かい人数調整が得意だとしたら、ピナクルは人を一掃してリセットするのが得意って感じ?」
「何故そこで魔王が引き合いに出る?」
「リスドォルの前の魔王が俺だからだけど?」
「な……!?」
想像していない返事に、俺は驚愕に目を見開いて固まった。
元魔王だと? このフリアンが?
隣に座るフリアンの顔をまじまじと見つめる。
アーモンド型の猫目に下がり気味の眉が優しそうで、口はよく動き、表情が豊かだ。
俺に対して常に気を配ってくれており、旅は問題らしい問題が起きた事がない。快適と言ってもいいくらだった。
もっと過酷な旅になると思っていたのに、本当にただの観光になっていた。経験がないが、気心の知れた友人との旅行はこんな感じなのだろうかと思う。それほどフリアンとの毎日が楽しい。
フリアンは太陽みたいな存在で、笑顔がいつだって眩しく、俺を温かい気持ちにさせてくれる。そんなフリアンが魔王という邪悪な者である想像がつかない。
そんな事を考えていたら、フリアンが小さく声をあげた。
「……イサミ……ちょ、近いんだけどぉ」
「ッ……すまない」
眼前にあるフリアンの顔は少し赤くなっており、動揺したように弱々しくなった声につられて俺まで顔が熱くなってしまう。
言われてようやく気付いたが、確かに近い。
食事を隣で座って飯を食うのが当たり前になり、肩が触れるくらいの距離に違和感がなくなっていた。だからそれ以上近付いても気にならなかったのだ。慣れとは恐ろしいものだ。
少しフリアンから距離を取り、水を喉に流し込んで体の熱を冷ましながら、俺は言い訳のように言葉を紡ぐ。
「俺の中の魔王のイメージと違い過ぎて、つい……」
「人間の中では魔王って怖いとか邪悪みたいなイメージらしいけど、魔物の中では単純に一番強い奴が魔王って呼ばれるだけだぜ」
フリアンより強い存在が見つからない理由がよくわかった。今もフリアンは魔界で二番手の強さということだ。
そこまでの強さは想像していなかったが、ようやく出会えた俺のような存在に縋りたい気持ちは理解できる。
変な意地を張らずに『人助けと思って抱いてもいいのでは』という考えが頭をもたげ、俺は慌てて首を振った。
愛が欲しいなんて綺麗ごとを取っ払ってまで、フリアンに触れたいと思っている自分にゾッとした。これでは父達と何も変わらない。
寒くもないのに腕をさすっていると、フリアンが薄手の毛布を掛けてくれた。ずっとこういう気遣いが嬉しかった。日に日にフリアンに惹かれていくのがわかっていた。
「俺、今は人型だけど、本来のピナクルの姿は四足歩行だし、4mくらいの大きさで、ブレスで攻撃したり、背中にある針を飛ばしたりもできるぞ」
「……すごいな」
そんなに大きいのか。耳と尻尾を見る限り豹のような姿がベースなのだろうし、触ってみたい気もする。
いつか機会があれば頼んでみたいものだ。
しかし、俺はフリアンの願いを叶えてやれないのだからそんな資格はないと思い直した。
「何故ずっと人型なんだ? 大きい方が移動は速そうに思えるが」
「森じゃなければそれもアリなんだけど、魔界はほとんど森だし、魔木を避けるのは難しくてさ」
「確かにそうだな」
広い所で大きなフリアンが駆け回る姿が見たかったが、魔界では難しそうだ。
魔界は俺が見た限りでも、切り立った山々と、森、川、といった感じで草原や平原がなかった。フリアンいわく、随分昔に魔界に金の光が降り注ぎ、平地だった所に木々が生えて森だらけになったそうだ。
「あと単純に的がデカくなる訳じゃん。大勢の人間を広い場所で相手するにはデカい方が都合いいけど、その分チクチク攻撃も当たるしな。魔界で目立ちたい訳でも暴れたい訳でもないし、静かに生活するには人型が一番都合が良かったんだよね~小回りきくし」
「そうか、フリアンのピナクル姿が見られないと思うと残念だな」
隠せない欲求が言葉に出ていた。大きく、毛のフサフサな生物はもう地球ではほとんど絶滅してしまったから憧れもあった。
地理的に難しいと言われてしまえば仕方がないのだが、つい残念だという本心が出てしまった。
「ふふふ~じゃあ」
そのフリアンの反応に、俺は少しだけ期待していた。
フリアンはまた『交尾してくれたら見せてやる』と言うんじゃないかと。
応えるつもりもないのに、とんでもなく自分勝手な願いだ。冗談でも、愛がなくてもいいから俺を求めている言葉が聞きたい。そう思うようになっていた。
「イサミが宝玉を手に入れたら見せてやるよ」
「え」
しかし、フリアンは言わなかった。
「そんで、抱き締めてよ。フワフワで気持ちいいよ、俺」
そう言ったフリアンの笑顔は、泣いているようにも見えた。
何故そう感じたのか、この時の俺にはわからなかった。
10
お気に入りに追加
1,306
あなたにおすすめの小説


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる