【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

文字の大きさ
上 下
133 / 152
【番外編】イサミ×フリアン

二話 イサミと一つの愛

しおりを挟む
 

 フリアンは魔王の命令で魔物に伝達をしているそうだ。
 魔界は魔力の流れが魔木によって複雑に変化していて、魔力を使った伝達方法が役に立たないらしい。
 だからこうしてフリアンが脚で直接移動し、魔物に呼び掛けている。
 豹の様な見た目通り、移動速度はとんでもなく速かった。
 移動しては一定間隔で止まり、フリアンは大声で叫ぶ。


「リスドォルが結婚式をするから魔城に来れるヤツは遊びに行けよ~! お祝いに手土産持っていけば食事も寝床も用意されるぞ~! 腕っぷしを試す闘技場もできるからな~! 時期は青の星が3つに見える頃だ~!」


 森にフリアンの木霊が響いた。
 魔物は魔物同士ですらあまり関わり合いを持たないらしく、フリアンの呼びかけに何か返事があった事はない。
 しかし、これで十分伝わっているらしい。

 そういえばリスドォルという名前はフリアンを無力化した時に聞いたな。
 フリアンは魔王と戦って負けたということか。そして魔王にも子作りを強請ったのだろう。


「ん? どしたのイサミ、怖い顔で睨んできて」
「いや……怖い顔は生まれつきだ」


 仏頂面だとよく地球では言われていたが、今の自分の表情はそれだけが理由でない事に気付いて少し焦る。
 フリアンにとって、繁殖相手は強ければ誰でも良いのに、俺だけが意識するのは面白くない。術中にはまらないように用心せねば。
 魔物は人間から見ると、とても美しい種族だ。
 魅了などの性質があるに違いない。断じて嫉妬などではない。そう自分に言い聞かせた。


「俺が情報教えないからってそんな怒らなくてもいいじゃん。しょうがねーなぁ、じゃあ宝玉のヒントを教えてあげちゃおう!」
「別にそれを気にしていた訳では……」


 勝手に話を進められてしまい驚くが、教えて貰えるならば遠慮する気はない。
 俺は口を噤んでフリアンの言葉を待った。


「イサミは女神からは全然情報を貰えてないって言ってたけど、神は神だからちゃんと在り処を示してるぜ。遅いか早いかの違いで、確実に手に入るようにできてる」
「そうなのか」
「そ。だからイサミは魔界旅行を楽しんだらいいと思うぞ! 地球に早く帰るぞって強い理由があるわけじゃないんだろ?」


 その通りだ。
 フリアンに同行してから十日ほど経過するが、実は一度も宝玉の事を自分から聞いていなかった。


「まあ、家族もいないしな。急ぐつもりはない」
「番は?」
「いない」
「じゃあ俺とヤってもいいじゃん!」


 フリアンの言葉に、急に俺は昔を思い出した。
 人の減った地球では、婚姻という形式はなくなっていた。
 わざわざ相手を固定して縛るのは繁殖に不向きだったからだ。
 一妻多夫のハーレムのような流れがあり、女性は多くのパートナーを持つ事が推奨された。
 男は多くのライバルの中から選んで貰えるようにテクを磨き、細やかな気遣いのできる男が残り、更にその中から、自分の子を孕ませる事のできる精力の強い者が残った。

 俺には父親といえる存在が6人いた。
 母の相手が6人おり、生まれた子は全員の子供として扱われる。
 6人の父は皆優しく強かった。しかし、母の愛を独り占めできない寂しさを持っているようだった。
 男も一人の女だけに決める必要はなく、他の女性の所へ行っても良いのだが、俺の父は皆母を愛していた。
 仲が良かったハーレムだと思うが、俺が狩りに行っている時に一人の父が食事に毒を盛り母と5人の父を殺し、毒を盛った本人も毒を飲んで死んでいた。

 そんな歪な世界だった。
 兄弟姉妹も9人いたが、俺以外死んだ。
 病だったり、戦闘だったり、事故だったり原因は様々だったが、死は何も珍しくなかった。

 魔界も危険がない訳ではないが、地球よりもよっぽど安全だったし、フリアンという同行者のお陰で熟睡できている。
 どちらが多く食材を確保できるか勝負したり、時間を忘れて静かに釣りをしたり、友人と遊ぶみたいな毎日だ。今まで生きていた中で一番体が軽く、気分も明るかった。幸せとはこういうものかもしれないと思い始めていた。
 フリアンは地球ではあまりいない陽気で気さくなタイプで居心地が良かったし、俺の目にはとても魅力的に映った。

 しかし、フリアンは俺じゃなくても強ければ誰でも良い。
 一度でもヤれば俺は必要なくなってこの日々も終わる。
 フリアンにとって俺はその程度の存在でしかない。

 俺は初めて6人の父の気持ちがわかった気がした。
 そういう事をする相手は、自分だけを見てくれる存在がいい。
 俺だけを見て欲しい。
 父達の様な寂しい愛は嫌なのだ。
 だから俺はフリアンを抱く事はない。

 すり寄って腰に抱き着いてくるフリアンを片手で引き剥がしてキッパリと言った。


「俺は絶対にお前とはヤらない」
「そんなハッキリと!」
「逆にフリアンは何故そんなに強い相手がいいんだ?」


 フリアンは自分がモテると言っていたし、相手は選り取り見取りだろう。
 抱いて欲しがる魔物は大勢いて、実際抱いてやっているとも道中に聞いた。
 それで子供は十分にいるはずだ。
 フリアンは俺の言葉に眉をハの字にして肩をすくめた。


「強い相手がいいっていうか魔物の発情の条件だしね。魔物は子種は関係なくて、産む側の種族ができるんだよ。だからいくら俺が抱いた所で俺の種族の『ピナクル』は増えないんだ」
「……そうだったのか」
「弱い下位種族ほど、どんな相手とでも繁殖できる。でもピナクルは強いから滅多に発情すら出来ないってこと。卑怯な方法で発情してない時に犯されたって孕まないしさ」


 繁殖力の強い下層と、下層を減らしすぎない様に数を制限される上層。食物連鎖のピラミッドと同じということだ。
 ピナクルという種族は俺が思うよりも強く、繁殖可能な相手が極端に少ないという事がわかった。


「俺以外のピナクル見た事ないし、そこそこ焦ってたんだよね。でもま、絶滅したらそん時はそん時だな~」


 軽い口調でフリアンはそう言った。
 絶滅なんて重い単語に多少なり罪悪感が湧いてしまう。
 フリアンは慌てて手を振って俺に笑顔を見せた。


「ゴメンゴメン! そんな暗い話じゃねーから! 同情させたかった訳じゃないから忘れて」
「……いや、まあ、驚きはしたが……」
「この旅が終われば、宝玉の在り処教えてやるからさ」
「は……? 交換条件じゃなかったのか」


 フリアンは首を振った。


「そりゃ俺にも得があれば嬉しいな~って思ったけど、イサミは世界を背負ってるだろ。そんな重要な立場のヤツに意地悪したい訳じゃないし、魔界に良い印象を持って帰って欲しいじゃん」


 鼻が触れるほど俺に顔を近付けてフリアンは囁く。


「俺との思い出いっぱい作って、地球で思い出して貰えるだけでもいっかなって。だから、せめて旅の時間くらいは俺にちょうだい」
「そんな事でいいのか」
「うん!」


 それなら俺も嬉しい。
 この楽しい時間が最大限続くのだ。なんの文句もない。
 この時俺はフリアンの言葉の真意に気付く事なく、旅の終わりに思いを馳せていた。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...