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【番外編】イサミ×フリアン
二話 イサミと一つの愛
しおりを挟むフリアンは魔王の命令で魔物に伝達をしているそうだ。
魔界は魔力の流れが魔木によって複雑に変化していて、魔力を使った伝達方法が役に立たないらしい。
だからこうしてフリアンが脚で直接移動し、魔物に呼び掛けている。
豹の様な見た目通り、移動速度はとんでもなく速かった。
移動しては一定間隔で止まり、フリアンは大声で叫ぶ。
「リスドォルが結婚式をするから魔城に来れるヤツは遊びに行けよ~! お祝いに手土産持っていけば食事も寝床も用意されるぞ~! 腕っぷしを試す闘技場もできるからな~! 時期は青の星が3つに見える頃だ~!」
森にフリアンの木霊が響いた。
魔物は魔物同士ですらあまり関わり合いを持たないらしく、フリアンの呼びかけに何か返事があった事はない。
しかし、これで十分伝わっているらしい。
そういえばリスドォルという名前はフリアンを無力化した時に聞いたな。
フリアンは魔王と戦って負けたということか。そして魔王にも子作りを強請ったのだろう。
「ん? どしたのイサミ、怖い顔で睨んできて」
「いや……怖い顔は生まれつきだ」
仏頂面だとよく地球では言われていたが、今の自分の表情はそれだけが理由でない事に気付いて少し焦る。
フリアンにとって、繁殖相手は強ければ誰でも良いのに、俺だけが意識するのは面白くない。術中にはまらないように用心せねば。
魔物は人間から見ると、とても美しい種族だ。
魅了などの性質があるに違いない。断じて嫉妬などではない。そう自分に言い聞かせた。
「俺が情報教えないからってそんな怒らなくてもいいじゃん。しょうがねーなぁ、じゃあ宝玉のヒントを教えてあげちゃおう!」
「別にそれを気にしていた訳では……」
勝手に話を進められてしまい驚くが、教えて貰えるならば遠慮する気はない。
俺は口を噤んでフリアンの言葉を待った。
「イサミは女神からは全然情報を貰えてないって言ってたけど、神は神だからちゃんと在り処を示してるぜ。遅いか早いかの違いで、確実に手に入るようにできてる」
「そうなのか」
「そ。だからイサミは魔界旅行を楽しんだらいいと思うぞ! 地球に早く帰るぞって強い理由があるわけじゃないんだろ?」
その通りだ。
フリアンに同行してから十日ほど経過するが、実は一度も宝玉の事を自分から聞いていなかった。
「まあ、家族もいないしな。急ぐつもりはない」
「番は?」
「いない」
「じゃあ俺とヤってもいいじゃん!」
フリアンの言葉に、急に俺は昔を思い出した。
人の減った地球では、婚姻という形式はなくなっていた。
わざわざ相手を固定して縛るのは繁殖に不向きだったからだ。
一妻多夫のハーレムのような流れがあり、女性は多くのパートナーを持つ事が推奨された。
男は多くのライバルの中から選んで貰えるようにテクを磨き、細やかな気遣いのできる男が残り、更にその中から、自分の子を孕ませる事のできる精力の強い者が残った。
俺には父親といえる存在が6人いた。
母の相手が6人おり、生まれた子は全員の子供として扱われる。
6人の父は皆優しく強かった。しかし、母の愛を独り占めできない寂しさを持っているようだった。
男も一人の女だけに決める必要はなく、他の女性の所へ行っても良いのだが、俺の父は皆母を愛していた。
仲が良かったハーレムだと思うが、俺が狩りに行っている時に一人の父が食事に毒を盛り母と5人の父を殺し、毒を盛った本人も毒を飲んで死んでいた。
そんな歪な世界だった。
兄弟姉妹も9人いたが、俺以外死んだ。
病だったり、戦闘だったり、事故だったり原因は様々だったが、死は何も珍しくなかった。
魔界も危険がない訳ではないが、地球よりもよっぽど安全だったし、フリアンという同行者のお陰で熟睡できている。
どちらが多く食材を確保できるか勝負したり、時間を忘れて静かに釣りをしたり、友人と遊ぶみたいな毎日だ。今まで生きていた中で一番体が軽く、気分も明るかった。幸せとはこういうものかもしれないと思い始めていた。
フリアンは地球ではあまりいない陽気で気さくなタイプで居心地が良かったし、俺の目にはとても魅力的に映った。
しかし、フリアンは俺じゃなくても強ければ誰でも良い。
一度でもヤれば俺は必要なくなってこの日々も終わる。
フリアンにとって俺はその程度の存在でしかない。
俺は初めて6人の父の気持ちがわかった気がした。
そういう事をする相手は、自分だけを見てくれる存在がいい。
俺だけを見て欲しい。
父達の様な寂しい愛は嫌なのだ。
だから俺はフリアンを抱く事はない。
すり寄って腰に抱き着いてくるフリアンを片手で引き剥がしてキッパリと言った。
「俺は絶対にお前とはヤらない」
「そんなハッキリと!」
「逆にフリアンは何故そんなに強い相手がいいんだ?」
フリアンは自分がモテると言っていたし、相手は選り取り見取りだろう。
抱いて欲しがる魔物は大勢いて、実際抱いてやっているとも道中に聞いた。
それで子供は十分にいるはずだ。
フリアンは俺の言葉に眉をハの字にして肩をすくめた。
「強い相手がいいっていうか魔物の発情の条件だしね。魔物は子種は関係なくて、産む側の種族ができるんだよ。だからいくら俺が抱いた所で俺の種族の『ピナクル』は増えないんだ」
「……そうだったのか」
「弱い下位種族ほど、どんな相手とでも繁殖できる。でもピナクルは強いから滅多に発情すら出来ないってこと。卑怯な方法で発情してない時に犯されたって孕まないしさ」
繁殖力の強い下層と、下層を減らしすぎない様に数を制限される上層。食物連鎖のピラミッドと同じということだ。
ピナクルという種族は俺が思うよりも強く、繁殖可能な相手が極端に少ないという事がわかった。
「俺以外のピナクル見た事ないし、そこそこ焦ってたんだよね。でもま、絶滅したらそん時はそん時だな~」
軽い口調でフリアンはそう言った。
絶滅なんて重い単語に多少なり罪悪感が湧いてしまう。
フリアンは慌てて手を振って俺に笑顔を見せた。
「ゴメンゴメン! そんな暗い話じゃねーから! 同情させたかった訳じゃないから忘れて」
「……いや、まあ、驚きはしたが……」
「この旅が終われば、宝玉の在り処教えてやるからさ」
「は……? 交換条件じゃなかったのか」
フリアンは首を振った。
「そりゃ俺にも得があれば嬉しいな~って思ったけど、イサミは世界を背負ってるだろ。そんな重要な立場のヤツに意地悪したい訳じゃないし、魔界に良い印象を持って帰って欲しいじゃん」
鼻が触れるほど俺に顔を近付けてフリアンは囁く。
「俺との思い出いっぱい作って、地球で思い出して貰えるだけでもいっかなって。だから、せめて旅の時間くらいは俺にちょうだい」
「そんな事でいいのか」
「うん!」
それなら俺も嬉しい。
この楽しい時間が最大限続くのだ。なんの文句もない。
この時俺はフリアンの言葉の真意に気付く事なく、旅の終わりに思いを馳せていた。
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