114 / 152
【最終章】魔王を護る黒騎士
エピローグ -賢者-
しおりを挟むよっす、山里研真だ。
結婚式を終えた豊は、生活拠点を魔界に移した。
しかし、表向きは日本で俺とルームシェアしている事になっている。
豊はいつ海外に行ってしまうのかと心配している両親を安心させるために、日本の大学に進んだ。
リズさんとの時間より圧倒的に両親との時間の方が少ないから、そう決断したようだ。
魔界への移動が困難ではない神だからできる事だけどな。
基本的に寝泊まりはリズさんの家だけど、豊は土曜日曜は実家で過ごしている。
水曜だけ俺との部屋に来る。つまり、俺と同居といっても豊はほとんどいないのだ。
半額で広い部屋に住めて俺としても助かってるし、豊も大学の友人やら両親に遊びに来たいと言われても、ちゃんと人が生活している部屋を見せる事ができる。
今日は水曜でもないのに珍しく豊が部屋に泊まるらしい。
恐らくリズさん絡みで話したい事があるんだろう。
合流して一緒に夕飯を食べてから、豊はグラハムを人型で呼び出した。
「グラハム、お前に頼みがある」
「どうしたのユタカくん、改まっちゃってぇ」
リビングのカーペットの上で俺は人をダメにするクッションを座椅子代わりにして寛いでいる。
豊は何故か床で正座をしており、グラハムもそれに倣って正座で向かい合っている。
スマホを見る振りをしながら俺は二人を観察していた。
「この先、何百年か、何千年後かはわからないけど、俺が俺じゃなくなったら殺してくれ」
エッ!? 急に何を言い出すの!?
って思ってるのは俺だけらしい。
グラハムの表情に驚きは見られなかった。
固まる俺をよそに、グラハムは自分の顎ひげを撫でながら笑っていた。
「ふふ、私は言われなくてもず~っとそのつもりだったけどね」
「わかってるならいい」
「とうとう魔王のお許しが出たのなら、私は裏切り者として消えなくて済む訳だ」
「まあな、リズ様もグラハムを信用し始めてるから安心しろ」
あらぁ、リズさんも承知の上の話なのね。
てかこんな重要な話、俺のいる家でやることかよ。
俺はちょっと事情を知ってるだけの一般人なんですけど。
そんな事お構いなしに二人の話は続く。
「リズ様が『悔しいが、その判断ができるのはグラハムしかいない』ってさ」
「うんうん、魔王はユタカくんだったら抜け殻でも愛し続けそうだもんねぇ。なんだかんだ理由をつけてユタカくんと共にいようとするのは想像に容易い」
リズさんなら豊の死体でも肉片でもなんでも愛しそうだよね。
豊の精神が長い年月を経て擦り切れて、豊とは言えなくなった時の話をしているのはわかった。
人間じゃない相手との恋愛って大変だ。
「グラハムには悪意もないし、殺気もないから俺達相手でも不意打ちが可能だしな」
「むっふっふ、ようやく私の愛が理解されて嬉しいよ」
えーっと確か、グラハムは豊が好きで、好きだからこそ豊が誰にも理解されない苦しみを知る前に……人間であるうちに殺そうとしたって聞いた。
よく考えたらグラハムって剣だしな。殺傷する事が剣の役割だしそういう考えもあるだろう。
好きな人が苦しむ姿を見たくないって言えば、まあわかりやすいか。
色んな愛の形があるね。
豊は少し拗ねたように唇を尖らせた。
「でも俺はそう簡単に人間の心を無くすつもりはねーぞ。研真の子孫を代々見守るつもりだからな」
「エッ、重い」
思わず俺は声が出ていた。
重くない!? うん、めちゃくちゃ重いわ。
実質、神様直々に守り神宣言だぞ。
しかも俺の血脈が途絶えたら豊の精神の拠り所がなくなるってことだろ!?
まあ豊はそんな事思っての発言じゃないとはわかってるけど。
でも逆にわかりやすい区切りとも言える。豊が人間であると示してやれるのは俺だけってことだ。
親友の役割としてはなかなかカッコイイのではないか。
そんな事を考えていると、豊はオドオドと俺に声をかける。
「お、俺、そんなに重いか……?」
豊のやつ、結構ガチめにショック受けてるんだけど。
事実重いが、別に俺は引いたりもしてないから落ち着いて欲しい。
でもコイツが普通の女の子に惚れたと想定したらなかなか怖いことになった気がする。魔王くらいが本当に豊にとって丁度良かったんじゃないかな。
重さもどっこいどっこいだし。
「ん~……責任重大だなって思っただけ」
「責任?」
「いや、こっちの話。あ、豊~話が終わったんなら風呂洗ってきて」
「ん、わかった」
豊を追い払ってから俺はグラハムを見た。
グラハムはニコリと笑い、俺の方へ向き直る。
「ヤマサトくんは聡い子だから気付いていると思うけど、ユタカくんは想像以上に君を頼りにしている」
「そーだね」
「こうして君のいる所で重要な話をするのも、ユタカくんが間違った判断をしそうな時に止めてくれると思っているからだよ」
グラハムだってストッパーの役割を持っているだろうけど、現役の人間の価値観を持つ俺は重要なんだと思う。
勇者になる前の豊を知っている貴重な存在でもあるし。
ふと俺はグラハムから痛いくらいの視線を感じた。
今までの軽い声色ではなく、低く真面目な声で俺に話しかける。
「魔王も私もヤマサトくんがこっち側に来てくれたらって、正直かなり本気で思っているんだがね」
「思ってるだけで何もしないのは、豊が傷付くのがわかってるからだろ?」
グラハムは苦笑いしながら大袈裟に肩をすくめて見せた。
「ホント、ヤマサトくんは人間なのが惜しいくらいだ」
何故か人外からの過大評価がスゴくて俺は怖いよ。
俺は普通の人間なのにな。
何をもって普通かなんて誰にもわからないけど、豊の求める普通は俺が基準なのは確かだ。
「俺は人間じゃなきゃ駄目なんだよ」
「わかっているから歯がゆいねぇ」
それ以上グラハムは何も言わなかった。
たとえ俺が心から人間じゃなくなる道を選んだとしても、豊は自分と知り合ったせいでって思うだろう。
それは本来あってはならない選択肢なのだから。
俺はそれを理解しているから“選ばない”んだ。
「風呂入れてきたぞ……って何二人で向かい合ってんだ?」
「お疲れ様、ユタカくん」
「ありがとな豊。わざわざお前が帰って来たのは、どうせリズさんと何かあったんだろって話をしてた」
殺してくれって話が本命でないことくらい俺にはお見通しだ。
俺の言葉に豊の表情が急に輝きだした。
「そうそう、聞いてくれよ!」
「おう、惚気でも何でも聞いてしんぜよう」
惚気だろうという俺の予想は的中していたが、まさかエロ漫画も真っ青な淫紋の話とは思わなくてさすがに真顔になった。
やっぱこの夫婦、重いわ。
0
お気に入りに追加
1,307
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる