【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが

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【最終章】魔王を護る黒騎士

エピローグ -賢者-

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 よっす、山里研真だ。
 結婚式を終えた豊は、生活拠点を魔界に移した。
 しかし、表向きは日本で俺とルームシェアしている事になっている。

 豊はいつ海外に行ってしまうのかと心配している両親を安心させるために、日本の大学に進んだ。
 リズさんとの時間より圧倒的に両親との時間の方が少ないから、そう決断したようだ。
 魔界への移動が困難ではない神だからできる事だけどな。

 基本的に寝泊まりはリズさんの家だけど、豊は土曜日曜は実家で過ごしている。
 水曜だけ俺との部屋に来る。つまり、俺と同居といっても豊はほとんどいないのだ。
 半額で広い部屋に住めて俺としても助かってるし、豊も大学の友人やら両親に遊びに来たいと言われても、ちゃんと人が生活している部屋を見せる事ができる。

 今日は水曜でもないのに珍しく豊が部屋に泊まるらしい。
 恐らくリズさん絡みで話したい事があるんだろう。
 合流して一緒に夕飯を食べてから、豊はグラハムを人型で呼び出した。


「グラハム、お前に頼みがある」
「どうしたのユタカくん、改まっちゃってぇ」


 リビングのカーペットの上で俺は人をダメにするクッションを座椅子代わりにして寛いでいる。
 豊は何故か床で正座をしており、グラハムもそれに倣って正座で向かい合っている。
 スマホを見る振りをしながら俺は二人を観察していた。


「この先、何百年か、何千年後かはわからないけど、俺が俺じゃなくなったら殺してくれ」


 エッ!? 急に何を言い出すの!?
 って思ってるのは俺だけらしい。
 グラハムの表情に驚きは見られなかった。
 固まる俺をよそに、グラハムは自分の顎ひげを撫でながら笑っていた。


「ふふ、私は言われなくてもず~っとそのつもりだったけどね」
「わかってるならいい」
「とうとう魔王のお許しが出たのなら、私は裏切り者として消えなくて済む訳だ」
「まあな、リズ様もグラハムを信用し始めてるから安心しろ」


 あらぁ、リズさんも承知の上の話なのね。
 てかこんな重要な話、俺のいる家でやることかよ。
 俺はちょっと事情を知ってるだけの一般人なんですけど。
 そんな事お構いなしに二人の話は続く。


「リズ様が『悔しいが、その判断ができるのはグラハムしかいない』ってさ」
「うんうん、魔王はユタカくんだったら抜け殻でも愛し続けそうだもんねぇ。なんだかんだ理由をつけてユタカくんと共にいようとするのは想像に容易い」


 リズさんなら豊の死体でも肉片でもなんでも愛しそうだよね。
 豊の精神が長い年月を経て擦り切れて、豊とは言えなくなった時の話をしているのはわかった。
 人間じゃない相手との恋愛って大変だ。


「グラハムには悪意もないし、殺気もないから俺達相手でも不意打ちが可能だしな」
「むっふっふ、ようやく私の愛が理解されて嬉しいよ」


 えーっと確か、グラハムは豊が好きで、好きだからこそ豊が誰にも理解されない苦しみを知る前に……人間であるうちに殺そうとしたって聞いた。
 よく考えたらグラハムって剣だしな。殺傷する事が剣の役割だしそういう考えもあるだろう。
 好きな人が苦しむ姿を見たくないって言えば、まあわかりやすいか。
 色んな愛の形があるね。
 豊は少し拗ねたように唇を尖らせた。


「でも俺はそう簡単に人間の心を無くすつもりはねーぞ。研真の子孫を代々見守るつもりだからな」
「エッ、重い」


 思わず俺は声が出ていた。
 重くない!? うん、めちゃくちゃ重いわ。
 実質、神様直々に守り神宣言だぞ。
 しかも俺の血脈が途絶えたら豊の精神の拠り所がなくなるってことだろ!?
 まあ豊はそんな事思っての発言じゃないとはわかってるけど。

 でも逆にわかりやすい区切りとも言える。豊が人間であると示してやれるのは俺だけってことだ。
 親友の役割としてはなかなかカッコイイのではないか。
 そんな事を考えていると、豊はオドオドと俺に声をかける。


「お、俺、そんなに重いか……?」


 豊のやつ、結構ガチめにショック受けてるんだけど。
 事実重いが、別に俺は引いたりもしてないから落ち着いて欲しい。
 でもコイツが普通の女の子に惚れたと想定したらなかなか怖いことになった気がする。魔王くらいが本当に豊にとって丁度良かったんじゃないかな。
 重さもどっこいどっこいだし。


「ん~……責任重大だなって思っただけ」
「責任?」
「いや、こっちの話。あ、豊~話が終わったんなら風呂洗ってきて」
「ん、わかった」


 豊を追い払ってから俺はグラハムを見た。
 グラハムはニコリと笑い、俺の方へ向き直る。


「ヤマサトくんは聡い子だから気付いていると思うけど、ユタカくんは想像以上に君を頼りにしている」
「そーだね」
「こうして君のいる所で重要な話をするのも、ユタカくんが間違った判断をしそうな時に止めてくれると思っているからだよ」


 グラハムだってストッパーの役割を持っているだろうけど、現役の人間の価値観を持つ俺は重要なんだと思う。
 勇者になる前の豊を知っている貴重な存在でもあるし。
 ふと俺はグラハムから痛いくらいの視線を感じた。
 今までの軽い声色ではなく、低く真面目な声で俺に話しかける。


「魔王も私もヤマサトくんがこっち側に来てくれたらって、正直かなり本気で思っているんだがね」
「思ってるだけで何もしないのは、豊が傷付くのがわかってるからだろ?」


 グラハムは苦笑いしながら大袈裟に肩をすくめて見せた。


「ホント、ヤマサトくんは人間なのが惜しいくらいだ」


 何故か人外からの過大評価がスゴくて俺は怖いよ。
 俺は普通の人間なのにな。
 何をもって普通かなんて誰にもわからないけど、豊の求める普通は俺が基準なのは確かだ。


「俺は人間じゃなきゃ駄目なんだよ」
「わかっているから歯がゆいねぇ」


 それ以上グラハムは何も言わなかった。
 たとえ俺が心から人間じゃなくなる道を選んだとしても、豊は自分と知り合ったせいでって思うだろう。
 それは本来あってはならない選択肢なのだから。
 俺はそれを理解しているから“選ばない”んだ。


「風呂入れてきたぞ……って何二人で向かい合ってんだ?」
「お疲れ様、ユタカくん」
「ありがとな豊。わざわざお前が帰って来たのは、どうせリズさんと何かあったんだろって話をしてた」


 殺してくれって話が本命でないことくらい俺にはお見通しだ。
 俺の言葉に豊の表情が急に輝きだした。


「そうそう、聞いてくれよ!」
「おう、惚気でも何でも聞いてしんぜよう」


 惚気だろうという俺の予想は的中していたが、まさかエロ漫画も真っ青な淫紋の話とは思わなくてさすがに真顔になった。
 やっぱこの夫婦、重いわ。

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