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【番外編】ジン×デュラム
十五話 デュラムの二度目の初めて *前戯
しおりを挟むひとしきり泣いて落ち着くと、俺とジンは二日ばかり帰ってくるなと孤児院を追い出された。
ユタカと魔王とフランセーズとブレドが孤児院に残って子供達の世話をしてくれるという最強の布陣では断る理由がない。
それにフランセーズに命令されてはラトラに住んでいる限り拒否なんかできないしなぁ。
布を取り、顔を見せた英雄サマの存在にブレドは腰を抜かさんばかりだった。
魔王と英雄と勇者が直々にブレドに事情を説明してくれるなら何も心配はないだろう。
「ジン、どこに行くんだ?」
「俺の顔がきく宿に行きましょう。口が堅くないと色々面倒なので」
俺達は馬車で移動中、隣に座って手を繋いでいた。
こんなゆっくりした時間は久し振りかもしれない。
二人で遠出したのも、ユタカと魔王の結婚式以来だ。
「せ、先生……宿に着いたら……なんですけど……」
ジンは口の中で言葉を噛んでいるみたいにもごもごとしている。
俺は動く景色を眺めながら思った事を言った。
「……初めてをさ、やり直そうぜ」
ジンは俺の言葉に一瞬呆気にとられたようだったが、弾かれたように反応を見せる。
「や、やり直せるんですか」
「俺達がそう思えば、そうなるんじゃないかな」
どうせ二人の間だけの出来事なんだ。
何事も気の持ちようというではないか。
窓から視線を外してジンを見ると、顔どころか首まで真っ赤だった。
お誘いである事はちゃんと伝わったようで何よりだ。
あんなめちゃくちゃに抱いておいて童貞みたいな反応をするのが可愛いよな。
でも、実際まだ童貞と言えるのかもしれない。
あの時は正常な状態ではなかったんだから。
「俺、本当は……顔が、見たかったです」
ジンは真面目な顔でそう呟いた。
「ふふ、そうだな……あと、キスもしたいな」
「あっ」
セックスもして、結婚の約束までしたのに、キスだけはまだなんだよなぁ俺達。
まあ、どうせすぐにする事になるんだ。
今は互いの指を絡めるだけで胸の鼓動がうるさい。
体だってジンと触れている部分からどんどん熱くなっていく。
手だけでなくジンの全てに早く触れたいという思いと、この時間が永遠に続いて欲しい気持ちが交差していた。
◇◇◇
「ジン様、よくいらっしゃいました」
「迅速な対応感謝するよ」
「西館には私以外誰も立ち入らないように固く命じております。ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
ジンが俺よりも年上の男に様付けで呼ばれている。
それを当たり前の事として対応しているジンが恰好良過ぎるんだけど。
顔がきくと言っていたが、まさかここまでとは。
ジンは慣れた様子で鍵を受け取り、俺を部屋まで案内する。
さっきまでの赤面してオドオドしていた子と同一人物なんて信じられない。
ジンへのブレドの対応も敬っていたし、ただの社長じゃないんだろうなと思い始めていた。
「ジン……カッコイイな」
「あっ、ですよね、ここ内装とか評判いいんですよ! 煌びやか過ぎず、でも高級感を忘れないデザインになってて」
確かに白と紺を基調とした室内はシンプルだが、壁や柱、家具の装飾の細かさは感動する。
金属部分が銀色で統一されているのも落ち着いててカッコイイと言えるだろう。
だが俺はジンの事を言ったのだ。
本人は全く思い当ってないようで宿の売りを説明してくれている。
鈍感め。可愛すぎるだろ。
「ジン」
「はい……?」
俺は部屋を動き回るジンの腕を掴む。
足を止めたジンは俺を見てキョトンとしている。
「俺は、お前がカッコイイって言ったんだけど?」
「ヒョッ!?」
ジンの口からめちゃくちゃ甲高い声が出た。初めて聞いたな。
「いや、そんな、先生が世界で一番カッコイイです!!」
「俺がカッコイイのとジンがカッコイイのは共存するだろ? 比較するもんじゃねーし、俺から見たらジンが世界一男前なんだよ」
「ほ、本当ですか!?」
ようやく俺の言葉を素直に受け取ってくれてジンが嬉しそうに相好を崩した。
なんだろうね、俺の前だとすんごく子供っぽいよね。
「俺、先生に相応しい男になりたくて頑張ってるんです」
「あんまり頑張り過ぎないでね……」
「体調管理はもう少し気を配ります。もう今までのような稼ぎ方はしなくても良くなりますし」
そうだった、ジンが仕事を忙しくしていたのは俺のせいなんだ。
何の気なしに言った言葉でジンの人生を振り回して申し訳ないことをした。
「俺がもっと早くジンに側にいて欲しいって言えば良かったのにな。そうしたらジンが働き詰めなんてことにならなかった」
「いえ……多分俺はそう言われても、結局自分に自信がなくて、先生の言葉を聞き入れてないと思います」
それは確かに。俺だって言えるものならとっくに言っている。
たらればなんて意味はなくて、結果が全てなんだ。
ジンがゆっくりと俺を正面から抱きしめる。
「先生」
「……あ」
密着したジンの下腹部の硬さに少し驚いてしまった。
だが、俺達はセックスするつもりでいたのだ。
俺も抱擁を返し、腰を意識的に押し付ける。
すぐに俺のもジンの興奮にあてられ、存在を主張した。
「先生にカッコイイとか言われたら……反応してしまって……」
「ふふ……嬉しいねぇ……風呂は?」
「我慢できません」
間髪入れずにジンはそう言って、俺をすぐ横にあったカウチソファに押し倒す。
欲情の火が灯るジンの瞳は真っ直ぐに俺を見つめた。
子供らしさは消え、完全に大人の男の表情だ。俺は無意識に息を飲む。
ジンの顔が近付いてくるのを感じ、俺は自然に目を閉じていた。
互いに初めから口を開き、何度も唇を食み、激しく貪り合う。
舌と舌が触れ合う頃には、互いにもどかしげに衣服に手を掛け、早く素肌を感じたくて必死になっていた。
「ん、あ……ジン、ジン……」
「せんせい……はぁ……っん」
スマートさなんて欠片もなく、服が伸びたりグシャグシャになっても気にせず無理矢理脱いで、また激しく口付けた。
今度は舌を深く絡め合い、何度も何度も角度を変え、唾液が口の端を流れ落ちても気にしなかった。
「ジンっ……ぁ……んん……」
「ん……は……せんせ……」
もっとゆっくり丁寧に“初めて”をやり直すんだろうなって思っていたのに、そんな余裕は何一つない。
俺は早くジンが欲しくて仕方なかった。
それはジンも同じらしく、キスの合間に俺の太ももや腹に性器を擦り付けている。
俺のだって痛いくらいに張り詰めていて、ジンのと触れるだけで出てしまいそうだ。
「ジン……欲しい、挿れて……早く」
「で、でも……」
「ふふ、準備……してあるに決まってんだろ?」
そう言って俺は脚を開いてジンの手を後ろに導く。
ジンの指が窄まりに触れれば、たっぷりの魔法液が中から溢れてくる。
出て行ったジンがいつ帰ってくるかわからないなら、いつでも大丈夫なようにしておくしかない。
どんな時でも俺は受け入れるための準備を怠ることはなかった。
俺は重い男だ。
もしジンが俺から離れて他の誰かを抱く時に、俺よりするのが面倒だと思えばいい。
ムードもいらない、前戯もいらない。俺とならすぐにヤれて楽だと思えばいいんだ。
俺は大人だから、俺以外を選ぶなとは言わない。
でも、甘い毒で堕落させてダメな男に育ててやりたいと思っていた。
またいつか俺の元に戻ってくるように。
いつ現れるとも知らない存在を見越し、俺はそんな事をずっと考えていたのだ。
ジンは拒絶されても諦められないと言っていたが、それは俺も同じだった。
本当に俺達は似た者同士の家族だ。
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