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【番外編】ジン×デュラム
十一話 ブレドの仕事
しおりを挟むデュラムは本当によく働く。
何故倒れないのか不思議なくらい常に動いている。
しかしガキ共も負けじと働いており、その統率に俺は驚いた。
働きっぷりの原動力は、食事の時間や量に関係していた。
ジンさんの言っていた通り、デュラムの作る飯はそこらの店より圧倒的に美味かった。
デュラムの時間が増えればそれだけ料理の質、種類、量が増える。
逆にデュラムの仕事を増やしたり、邪魔をすれば、美味い飯にありつけなくなる。
それを皆理解していて、子供でもできる範囲の仕事は子供だけで終わらせているようだった。
この孤児院は『他の何がなくても、食事だけは腹一杯食える』をモットーにしているらしく、畑も充実している。
それなのに柵すらもろくに整備されてねぇ。
犯罪者どころか、野生動物すら入り放題だ。
それでも荒らされた様子がないのが不気味に感じる。
今は良くても今後どうなるかわからない。だからジンさんは俺を雇ったのだろう。
俺はガキ共を畑周辺で遊ばせながら、トラップの設置をしていた。
爆発とかだと孤児院にも影響が出るから、麻痺にしておくか。
「ブレドおじちゃんそれなに?」
「魔石のトラップだ。俺は魔力も少ねぇし、質のいい魔石は持ってねぇからな。細工して範囲を広げるんだよ」
「あぶない?」
「発動条件によるなぁ。とりあえず今は人間以外に発動するようにしておくつもりだ。だからお前らには危なくねぇよ」
守るための仕掛けで怪我させてちゃ本末転倒だからな。
慎重に魔石に条件の文言を彫っていく。
トラップに興味があるのか、ガキ特有の意味のない質問攻めが始まった。
「勇者は~?」
「あぁ? 勇者は人間の範囲だな……人間の魔力が半分以上残っている存在は人間と判断される」
「神様は~?」
「神ぃ!? 人間じゃねーよ」
「魔王様は~?」
「人間じゃねぇ」
「王様は~?」
「人間だろ」
お伽話の延長みてぇな質問に答えつつ設置作業は進む。
丁度パーティーの前に切った自分の髪を魔石に巻いて、大股3歩くらいの間隔で土に埋めていく。
それを孤児院の敷地を囲うようにしていくと、一周するのに二日はかかったが、途中から俺の作業を理解したガキ共が事前に穴を掘って待っていて笑った。
お陰で想定より早く終えることができた。
「ねーねー! コレどーなるのー!?」
「コレか……いてーからあんまりやりたくねーんだよなぁ」
俺は起点となる大きめの魔石を終点に置き、自分の指をナイフで切り、魔石に血を垂らした。
すると、魔石と共に埋めた俺の髪に魔力が流れ、魔力の壁が出来上がる。
しばらくは緑に輝いていた壁が視界から消えていった。
これでトラップの設置は完了だ。
余程トラップを警戒していない限りはこの壁には気付けない。
「うお~! スゲー!」
「ブレドおじさんカッコイイ!!」
「魔法使いだ!」
ガキ共が喜ぶ姿は悪い気はしねぇが、そんなに凄い事でもない。
「俺の出身地の人間はあんまり魔力を持たねぇ。だから少ない魔力をこうやって拡張するのが得意なんだ。こんな面倒な事しなくても、一発で魔方陣が書けるならそれが良いに決まってる」
俺がそう言うと、ガキは揃って首を横に振った。
「あのねあのね! どれだけ魔力が強くてもね、ひろーく使うのは難しいんだって!」
「センサイ? だから、た~くさんだったり、お~きくなると弱くなっちゃうって」
「長持ちもしないって聞いたよ!」
「だからね、こんな方法で、一人でいっぱいできるのはスゴイんだよ!」
ガキの言う通り、単純な魔法だと長期間の設置はできない。
広範囲の魔法も、普通の人間では操作自体ができずに消えるか暴走する。
だから魔法だけでなく、誰でも扱える銃器、武器が存在するのだ。
「お前ら、妙に魔法に詳しいな……」
俺のトラップは呪術をベースにしている。
呪いはそう簡単に消えないから、設置型の魔法と相性が良い。
しかし設置に手間と時間がかかるから事前情報が必要になる。
そのせいで自然と情報屋のような仕事をするようになっていた。
「おうさ……お、お馬さん……」
一人が何か言いかけて口を塞ぎ、お馬さんと言い直した。
「は? おうまさん?」
「お馬さんが、魔法の事、教えてくれるの……」
「えらいメルヘンだな」
馬面の魔術師を想像すると笑えた。だから子供は面白い。
そろそろ空も暗くなってきた。連れて来たガキが全員いる事を確認して孤児院に戻ると、夕飯の良い匂いが室内に漂っていた。
帰宅に気付いたデュラムが出入口まで駆け寄ってくる。
「おー、ブレド。対策サンキュ」
「マジで今まで何もなかったのが不思議なくらい無警戒で気味がわりぃ」
「俺がいれば大丈夫だけど、俺がいないと危ないから、なかなか孤児院を離れられないってのが大変だったから助かるわ~」
本当にデュラム一人で全て解決してきたってことだ。
デュラムは昔と変わったとは言っていたが、相当腕を磨いたのだろう。
「せんせ~ブレドおじちゃんケガしてる」
「治してあげて~!」
「マジか」
デュラムが慌てたように俺に近付く。
「別に大したことねーよ、これくらいよくある」
「よくあるなら尚更治さないとヤベーじゃん」
俺が手を隠そうとしたら、ガキが三人ほど俺の手を掴んで動きを封じた。
「ぅおい!?」
「ナイス」
デュラムがすぐに俺の指から傷を見つけ、手を当てた。
淡い光が切り傷を包み、痛みが消えていく。
「お前、回復魔法……」
「あんま得意じゃないから時間かかるし、小さめの切り傷程度しか治せないけどな。それでも子供達はよく怪我するし、十分役に立ってる」
「魔力増えたんだな」
「まあなぁ。色々ありまして」
範囲が切り傷程度でも、回復魔法は高度な技術だ。技術も魔力も両方ないと難しい。
誰もが使えるなら薬も医者もいらないんだ。
「ちなみに、術者と接触部分を増やすともっと早く効果が出るから、基本みんな俺の膝に座りながら治療するぜ? ブレドもそうするか?」
「バッ……!!」
「な~に照れてんだよ」
こっちの気も知らずニヤニヤと笑いやがって。
デュラムにとっちゃ、俺はガキ共と変わらないということだ。
「うるせぇ馬鹿野郎! 気色悪い事言うんじゃねぇ!」
熱くなる耳を誤魔化すため、治療している反対側の手でデュラムの額を突いた。
おふ、と小さく呻きながら少し後ろにのけぞるデュラムは楽しそうだ。
俺だけが意識して馬鹿みてぇだが、こうして側にいられるだけでも満足していた。
安上りな男になったと自分でも思う。
「デュラム……本当によく笑うようになったな」
「ふふ、だろ~? あとよく泣くぜ?」
「はぁ!? 嘘だろ!?」
常につまらなそうに死んだ魚の目をしていたデュラムが。
よくクールと言われていたが、どっちかというと人形みたいな印象だった。
それが今では百面相だ。
「ブレドも寡黙なタイプだったじゃん。それが今じゃうるせーなのなんのって」
「お前につられてんだよ」
治療も終わり、二人で顔を見合わせ笑っていた時だ。
張ったばかりのトラップが発動したらしい雷が落ちたような轟音が響いた。
「なになになになに!?」
「マジかよ、動物ってレベルじゃねぇ大物がかかったみたいだ」
野生動物程度じゃこんな音はしない。
この時の俺は、まさか魔王がかかるなんて想像もしていなかった。
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