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【番外編】ジン×デュラム
八話 デュラムとブレド
しおりを挟む「デュラム」
ジンが出て行った日の夕方、突然身だしなみの整ったブレドが孤児院に現れた。
髭がないだけでだいぶ若く見える。
「うわ、急に若返ったな」
「うっせぇ、どうせすぐ伸びる」
ボサボサな髪もすいて軽くなって、後ろで一纏めに縛っていた。
服もなんか襟のあるオシャレなシャツとパリッとした揃いの上下だし、紳士に見えなくもない。
隠れるでもなく正面の門から入ってきたのが謎だ。
「今日はコソ泥じゃなくてお客様か?」
「あー……まあ、その、なんだ……」
ブレドは頭を掻いたり、ポケットに手を突っ込んだり、革靴の爪先で地面を叩いたりと落ち着きがない。
言い辛そうにしながらも、絞り出すように低い声でブレドは言った。
「仕事を……探してて」
「は?」
「だから! 仕事だよ! しーごーと!!」
いやいや、仕事はこの前してただろう。
まさか本当にあの後、依頼をキャンセルしたのか?
受けた依頼は必ず達成すると高い評価を受けていたブレドが?
そこら辺の事情は置いておいたとしても、こんな所よりギルドでも斡旋所にでも行けばいいだろう。
「来る場所間違えてねーか?」
「間違えてねーよ……お前に頼んでんだよ」
なんだなんだ?
フランセーズとテリアでも紹介しろってか?
そりゃ俺は誰より太い人脈を持ってるけど、それが目的なのか?
「仕事が欲しいなら王都に行けばいっぱいあるけど?」
「そうじゃなくて……」
ブレドは大きく溜息をついて、諦めたようにボソボソと用件を切り出した。
「何でも手伝うし、金もいらねぇ……ただ、寝る場所だけ貸してくれねーか」
「ほーん、いいけど」
「は?」
「客間用意してくるわ」
「ちょ、ちょ、ちょっ待て! 結論早いだろ!?」
えー、何なの、オッケーしたのに。
「俺が悪さするかも、とか心配しろや!」
「お前、泊まりたいのか追い出されたいのかどっちだよ」
「疑ったりせずに受け入れられるのが単純にこえーよ」
まあ、それは正解。
別にブレドを信用しているから受け入れる訳じゃない。
「子供らに何かあれば、お前が死ぬだけだ」
怪しい動きをすれば殺すまで。
何かあれば瞬間移動もできるし、犯行時の距離は俺には関係ないしな。
俺は夕飯の献立の話をするくらいの調子でそう言った。
ブレドは大きく目を見開いたが、すぐに笑いだした。
「くっ……くははは! んだよ、そこは変わってねーのかよ……心配して損したぜ」
「はぁ? ブレドに心配されてたのかよ。槍でも降るのか?」
「先生になって平和ボケしてんじゃねーかってなぁ」
平和ボケねぇ。
神が混じったユタカよりはマシだけど、勇者もだいぶ人間離れしている。
人間内では敵無しでも、それ以上の種族に絡まれると平和とは言い難い。
勝率は高くないが、対応できなくもないっていう微妙な立ち位置だからぶっちゃけ狙われたら一番危ないんだよなぁ。
そのせいで鍛錬は昔よりやってんだよね。
自分よりも守るものがあるってのも重要だと思う。
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「昔から躊躇ってたようには見えなかったけどな」
昔は証拠隠滅が面倒だなとか、逃げるの面倒だなとか、そういう理由での躊躇いがあっただけだ。
でも今は、炎の力のお陰で証拠が残らなくなったからね。
そんなことブレドには言えないけど。
「んじゃ早速ブレドは子供たちと遊んでてくれ」
「はぁ? 俺がか? 無理だろ」
「そうでもないぜ?」
子供達が来客に興味津々で様子を窺っている。
許可を出せばブレドに飛び掛からんばかりのソワソワぶりだ。
「いやいや、俺みたいな部外者と遊ぶとか危ねぇだろ、もっと警戒心を持たせろよな!?」
「そんな心配をしてくれるヤツが子供に危害を加えるとは思えないねぇ、俺は」
ブレドは俺の言葉に苦虫を嚙み潰したような顔になった。
こいつは認めたくないみたいだが、実は子供好きだ。
何かにつけて『お前がうるさいから』と言いながら子供に対して甘い行動を取る。
だが、俺は一度もブレドに子供を大切にしろとも、俺に合わせろとも言った事はなかった。
だから、ブレドが子供に危害を加えるかもしれない、なんて心配は一切していない。
「その大きなケースは何ですかねぇ、ブレドおじさん」
「あーもー! うっせぇ! 世話になんだから土産くらい持って来たわ! クソ!!」
俺がニヤニヤと大きな荷物を指摘すると、ブレドはヤケっぱちになったみたいにズカズカと広場の中心に行き、ケースの蓋を開けた。
中には大量のオモチャや菓子が入っており、ラトラでは見掛けない色使いで、セモリナ特有の物だとわかる。
「みんな来てもいいぞ!」
俺が物陰から覗く子に向けて手招きすると、それを合図に子供達が全力疾走でブレドの元へ集まった。
土産に群がる子とブレドに群がる子で半々くらいだ。
子供は相手を見極める能力が高い。
ちゃんとブレドが遊んでくれる相手だとわかっている。
俺は夕飯の支度のために調理場へ向かった。
完全に暗くなる前にみんな戻ってくるだろう。
「ジン、今頃魔王の所にでも行ってんだろうな……」
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それってつまり俺の事なんだろうね。
魔王はジンを贔屓にしてるし、そうおかしな事にはならないと思うけど……。
後日。その考えは甘かったと、俺は思い知る事になった。
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